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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十六章 西都の大ダンジョン

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第二百四十八話

 ダンジョン攻略を一時中断した日から、早いもので一週間が経過していた。

 毎日ダンジョンで与えられた紙片を確認しているが、未だ印は現れていない。


 定期的にギルドにも足を運び、今はどれくらい試練の間に探索者が到達しているのか尋ねてみるも、その数はまだ『一三人』と、定員である『二一人以上』にはまだ届かない。

 だが、ダンジョンの構造は毎週変わる関係で、俺達が挑んだ時のような高難易度のものではなくなっている為、今週末には規定の人数に届くのではないか? というのがギルドの見通しだった。


 そして本日、俺達は引き続き都市の観光をしようと思っていたのだが、ふとシアンさんの方はどうなったのか気になり、一度確認しようと、再び西の居住区へと向かうのだった。




「え? シアンさん、もう宿を引き払ってしまったんですか?」


「そうなんです。彼女、今はこの区画の教会に身を寄せているそうなのですが、ここ数日は特に忙しいらしく、表通りの教会にも頻繁に足を運んでいるそうです。患者さんがウチに詰めかけなくなって、こっちとしては静かな日が戻ってきてくれて嬉しいんだけどねぇ……」


 どうやら、彼女は薬の量産と都市への流通の為、既に精力的に動いているようだった。

 行動が早い……実際連日ここに患者が来ていたということは、それだけダンジョンによる負傷者が多かったのだろう。

 その状況での医療施設の休止や薬の品薄状態は、早急に解決する必要があるのは明白。


 ともあれ、メルトの助力を生かす為に動いていると知れたので、会えはしなかったが満足だ。

 俺達は宿の店主に礼を言い、宿を後にしたのだった。




「さてと……せっかくだしこの区画を見て回ろうか? 前回は落ち着いて見て回れなかったからね。この区画にも商店街とか酒場とか、いろんなお店があるみたいだよ」


「区画といっても、もう殆ど独立した町みたいですからね。少し散歩がてら見て回りましょう」


「いいねー、ここって木も多いし、ちっちゃな川も流れているし、凄く素敵ね。ちょっと歩けば大きな街に出られるのに、落ち着いて暮らせる……凄く便利なところねー」


 確かにそうだ。随分と利便性の高い場所だな。

 俺達は、この小さな町と見紛う区画の中を流れる小川、その川沿いに続く商店街をのんびりと見て歩く。


 やはり表の都市部から流れてくる商品を扱っているのか、お洒落な服を取り扱う店も多く、こうして見て回っているだけでそれなりの満足感を得られる。

 この都市の特徴である印刷物を売っている店もあれば、当然のようにポスターも随所に貼られている。なんというか、大都市と近隣の町のような、ベッドタウンのような関係だと感じた。


「あ、帽子だ。獣人用に耳穴つきの。かわいー!」


「この都市は様々な人種の方が住んでいますからね、それぞれの種族向けの商品を取り扱っているみたいです。ほら、こちらはエルフ用のイヤーカバーです」


「ふむ……耳用の下着みたいな感じだね」

「ですね、耳穴の部分は薄手のレース生地です。お洒落なデザインですが、私は使いませんね」

「耳パンツ! 耳パンツってことね!」

「こら! そういうことを言うんじゃありません」

「はーい」


 二人の可愛いやり取りを眺めながら、男性の服を取り扱う店のショーウィンドウを覗き込む。

 だがその時だった……俺は、信じられないものを目にし、思わず足を止め、全身を硬直させる。


「な……え……なんで……え……」


 そのショーウィンドウには衣装をまとうマネキンが飾られており、その売り文句が書かれたポスターも貼り出されていた。


『今年の夏はあえてロング! エアスルー構造の布とレースを使用した通気性抜群のサマーロングジャケット! 他とは違う装いでクールにアピール!』


 だが、そのポスターの中で、衣装をまとっているモデルが問題だった。

 それは、どう見ても――


「……シーレ、これ見て」

「…………は?」


 思わずシーレに声をかけるも、彼女もまた無言になり、そしてしばしの沈黙の後、心の底から『意味不明』だと言いたげな、たった一文字の言葉が漏れる。


「これどう見てもスティルだよな」

「……そうですね。胡散臭い笑みといい、この白髪といい、間違いなく彼ですね」

「なんでモデルなんかしてるんだこいつ…………」


 そう、そのポスターの中にいるのは、見紛うことはない、スティル本人だったのだ。

 胡散臭い笑みを浮かべた、口を開かなければただの美形であるスティル。

 元々、俺が半分ネタで作ったイケメン音楽家である、ハッシュのクリエイトデータを流用して作ったキャラクターだ。


 ハッシュより多少若いが、間違いなく美形。ただし胡散臭い笑みはどうしようもない。

 そんな男が、ポスターの中で最新の衣装をまとい、妙にキザなポーズを決めているのだ。

 何故? マジで理由が分からない。


「二人で何見てるのかしら? どれどれ?」

「あ」


 メルトも、同じくポスターを覗きにくる。

 すると――


「あ! シズマ、こいつ悪いヤツだよ! 女王様とかに嘘の報告したりした、意地悪なヤツよ! 突然逃げたから、きっと悪いヤツに決まっているわ!」


「ははは……確かに胡散臭い表情だからなぁ」

「そうですねぇ……ですがこれは一度、このポスターについて聞き込みをした方がよさそうですね」


 賛成だ。少なくともスティルはここに来ている。ならば、何かしらの情報を持っているはずなのだから。

 そして……アイツがこんな行動を意味もなくするはずがない。

 何か、意味があって行動を起こしているはずだ。


 俺達は、手始めにこの服屋の中で聞き込みを開始した。




「んー、うちの店は表のブティックの品をそのまま流すだけの支店だからね、詳しいことは分からないんだ。ただ、このモデルさんはここ数日で流行り始めたね、随分と人気なようだよ」


「そ、そうなんですか……情報、ありがとうございます」

「うん、こちらこそお買い上げありがとう。お嬢さん、帽子、似合っているよ」

「へへー! 私帽子って初めてよ!」


 服屋にて、ショーウィンドウのポスターについて尋ねるなら、最低限何か買い物くらいした方が良いだろうと、メルトが見ていたものと同じ帽子を購入。

 すると彼女は、とても嬉しそうにかぶり、獣人用の耳穴から、自慢の狐耳を『ピョン、ピョン』と飛び出させていた。

 ……今の瞬間の絵面が可愛過ぎるんだが? なんだこの可愛い生き物は。


「じゃあ、俺達は失礼します」

「おじさん、帽子凄く気に入ったわ!」

「お邪魔しました」


 若干、メルトは『何故あの胡散臭い悪いヤツを探しているんだろう』と思っているかもしれないが、俺達は引き続き、スティルの情報を集めに、表の都市部に戻るのであった。




「ねーねー、なんで悪いヤツ探すの? やっつけに行くの? 私、そこまで怒ってないのよ?」

「んー、ちょっとだけ話を聞きたいだけだよ。荒事は無し」

「本当? 嫌なヤツだったけど、やっつけるほどじゃないから『えい』って叩く程度でいいのよ?」


 道すがら、メルトは『自分の所為でスティルがやっつけられるかもしれない』と思ったのか、そんな提案をしてきたのだが……そうか、最低でも『えい』ってやる程度にはムカついているんだな。

 ……ならとりあえず『えい』ってやっておくか。




 表通りを進み、ファッション関連の店が多く立ち並ぶ通りに到着する。

 ここは以前も少し通ったが、随分とポスターの多い場所だと記憶している。

 で、問題のスティルについてだが――


「あった。前回はポスターの内容を細かく見ていなかったけど、結構あちこちに貼られているな」

「貼られているどころではありません。見てください、あの売店でポスターが売られています」

「マジかよ……スティルは今この都市でどんなポジションなんだよ……」


 売店の様子を見に向かうと、今まさにポスターを購入しようとする若い女性の集団と遭遇した。

 まさに黄色い声というか、姦しいというか、キャイキャイというか……こう、若干の煩わしさを感じる声色で、女性達がスティルのポスターを手に取る。


「ステ様の新しいポスターよ! 『エメリッヒ』の夏向けのモデルをするって聞いたから、高い露出を期待したのに……やっぱりあまり肌は出さないのね、ステ様」


「それがいいのよ、肌を出して焼けたらどうするのよ? この涼しい表情と白髪は、この白い肌にこそ映えるんだから。ああ、やっぱり黒い服が似合うわ」


「エメリッヒにスカウトされてからまだ一週間らしいわよ……凄い人を見つけたわね、あそこ。もう最近はどこの工房もステ様に服を着てもらいたがってるって聞くわ」


 ……マジか、お前『ステ様』なんで呼ばれているのか。

 これは……もしかしたら『スティルにとってある意味では正攻法』なのかもしれないな。

 着実に、短期間で自分の信者を増やしつつあるこの動きは……。

 やはり、直接話を聞く必要がありそうだな。


「二人とも、どうやらスティルは『エメリッヒ』というブランド? 工房? そこでモデルをしているらしい。まずはその店、工房を探してみようか。有名みたいだし、たぶん見つけられると思う」


「なんだか不思議な感じがしますね……有名人を探すみたいで」

「悪いヤツなのに人気者なの? 不思議なお話ねー? 『えい』って出来ないかもしれないね」

「ははは、そうだなぁ」


 まだ諦めていなかったのか、『えい』って。

 俺達は、さらに服飾を扱う店の多い区画へと入っていく。




 オーダーメイドの工房が立ち並ぶ通り。表通りから少し奥まった場所にある、落ち着いた場所。

 だが、やはりファッションの最先端が集まる通りだからか、馬車の量こそ少ないが、人の往来は激しく、そして道行く人間もまた、思い思いに着飾っていた。


 この都市は恐らく、様々な国から服飾関連の知識が流れ着いているのだろう。

 よくよく見れば、明らかに様式の違う衣装をまとう人間もおり、それらをまとう人間が獣人であることから、隣国である『シジュウ連邦国』からの流入者も多いのだろう。


 あちらの国も、連邦国というのなら、複数の国から成り立っているはず。

 なら、やはり服飾様式がそれぞれ異なるのだろう。そういった知識が全て帝国に流れ込み、恐らくかつて召喚された勇者、地球の文化と交わり、様々なスタイルが確立していったのではないだろうか? まさに文化の坩堝のような有様だ。


「ここまでブティックや工房が多いと、見て回るだけで時間が潰せそうですね。私も、こういう通りはワクワクしてしまいます」


「シーレは綺麗だから、きっと何を着ても似合うわね!」


「そうだなぁ。服、何か気に入ったのがあれば買って構わないからね。オーダーだとしても、この都市にはしばらく滞在することになるんだし、問題ないよ」


「お気遣い、感謝しますよシズマ。そうですね、時間があればじっくり見て回りたいと思います。ただ、今日は目的の相手を探さなければ」


「そうねー? 確か『エメリッヒ』だったかしら? そこを探すのよね」

「有名店みたいだし、すぐに見つかると思うよ。ほら、例えばあそこ、人だかりが――」


 俺は、道の先で人だかりが出来ているのを見つけ指さす。

 見れば、大きなビルと、その入り口に集まる大勢の女性の姿。

 そのビルに掲げられた看板を見れば、確かに『エメリッヒ』の文字が。


「……はは、本当に見つけちゃった」

「人も集まっているようですが……まさか?」

「! もしかしているのかしら!? 『えい』ってやらないと!」


 本当にそんなことをしたら、あの人だかりに袋叩きにされてしまいそうだけどな!

 その人だかりに歩み寄り、騒ぎの中心には何があるのか、背伸びをするようにして観察する。

 するとそこには――




「おやおや……なんとも大騒ぎですねぇ……皆さん、少々騒ぎすぎです、これでは私の機嫌が悪くなる。道を開けないのなら、このまま仕事を放棄してこの街を去りますよ?」


「イヤー! ずっとここにいてステ様ー!」

「今度は舞台に立ってー!」

「また前みたいに治療してー!」

「わしゃアンタに会って、八〇歳は若返った気持ちじゃ! 行かんでおくれ!」




 本当に、スティルがいた。

 まるで芸能人のように、伊達眼鏡と帽子で顔を隠し、独特な言い回しでファンを諫めているスティルがいた。


 これは……なんというか……想像以上だ。

 俺は、この空気の中、勇気を出して声をかけることにした。


「おーい! こっちを見ろスティル!」


 黄色い声援に飲み込まれる俺の呼びかけ。

 だが、諦めずにもう一度、分かるように声をかける。


「俺が分からないのかスティル。シズマだ!」


 こちらの名を出した瞬間、こちらにチラリと視線を向けるスティル。

 が、俺の近くにメルトもいることに気が付いたのか、軽く目くばせをした後――


「さて、そろそろ本気で道を開けてください。次は『ロスタイル』の工房で撮影があるんですから」


 そう口にし、あえてファン達を次の目的地に先回りさせるような情報を漏らすのだった。

 それが功をなしたのか、ファンがスティルの前からいなくなり、ようやくこちらに向かい歩み寄ってくる。


「これはこれは、こんにちはお兄さん。私に何か用事ですかねぇ?」

「……まぁな」


 メルトの手前、俺とは初対面のふりをするスティル。

 するとその時――


「えい!」

「おっと!?」

「避けられた! えい!」

「何をするんですか、小狐さん。お久しぶりですねぇ」


 宣言通り、メルトが拳を上げるも、ヒョイっとそれを避けるスティル。

 やがて、ぽかりと拳がスティルの胸に当たる。


「これで許してあげる! 私と女王様に嘘の報告をした罰なんだから」


「おやおや? 嘘ということは……どうやら貴女のお仲間、シレントが戻ってきたようですね? てっきり死んだと思ったのですがねぇ」


 楽しそうに、半ばからかうように、メルトの相手をするスティル。

 が、どこか安堵したような、目の色が少し、優しくなったような、そんな気配を感じた。


「ちょっと、お前と話がしたいんだけど、無理か?」


「無理ですねぇ、私は売れっ子モデルですから。撮影の後は絵画のモデルもしなければいけないのですよ。ですが……記念に『これ』を一缶お渡ししましょう」


 そう言いながら、スティルは自分のお気に入りのドロップ缶を手渡してきた。

 が、どうにも中身が入っている様子はない。

『カラコロ』という音の代わりに『カサ』という音が、缶を振ると聞こえてきた。


「……ありがたく貰っておくよ。じゃあ、仕事頑張ってきな」

「ええ、応援ありがとうございます。では小狐さん、貴女もごきげんよう」

「ふん、私の名前は前に教えたもん。小狐なんて名前じゃないわ」


 最後までからかうように笑いながら去っていくスティルを三人で見送る。

 ……さて、じゃあ缶の中身を確認してみますかね。

(´・ω・`)書籍版二巻の発売は、五月十五日の予定となっております。

が、地方では日にちが送れる可能性があります。

また、楽天ブックスやAmazonでも予約が開始されております。

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