第一話 見習い魔女になりました ─先生のお家にお引っ越し─
今日から、魔女見習いになりました。
せっかくなので、日記をつけたいと思います。
今日は、先生のお家に引っ越してきました。
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とある町のはずれにある小さな家。そこには魔女が住んでいました。
薬草から薬を作ったり、みんなの役に立つ道具を作ったりして暮らしています。
これまで、魔女はずっとひとりで暮らしていましたが、このたび弟子をとりました。
これは、弟子が魔女の小さな家にやってきたときのお話です。
小さな家の玄関に、誰かいます。大人とこどもがひとりずつ。
ひとりは、黒いローブにとんがり帽子のいかにも魔女といった格好の女の人です。鉤鼻のお婆さんではありません。長い黒髪の、綺麗な女の人です。年齢はちょっとわかりません。
もうひとりは、ふわふわした菫色の髪を持つ、十歳くらいの女の子。この女の子が、今日から、魔女の弟子になりました。
「おじゃまします。今日からよろしくおねがいします」
緊張した表情の女の子が挨拶をしながら、家に入ります。
「はい、よろしく。今日からあなたの家にもなるんだから、『お邪魔します』はちょっと違うかな」
浮かれた様子の魔女が返します。ずっとひとりでいたので、弟子ができたことが嬉しいみたいです。
魔女は女の子に家の中を案内します。小さな家なので、あまり時間はかかりません。
「ここは薬草の部屋。危ないものもあるから、いいというまで入っちゃダメ」
「こっちは魔法道具の部屋。危ないものもあるから、いいというまで入っちゃダメ」
女の子が入っちゃダメな部屋がいくつかあります。魔女としてのお勉強をがんばれば、入れるようになるみたいです。
「こっちはリビング。いっしょにごはん食べましょうね!」
「あっちは、キッチン。かまどに触らなければ入っていいわよ」
「むこうがトイレ、そのむこうが魔法のお風呂。詳しくは使うときにね」
生活に必要な部屋です。魔女だって、ごはんを食べたりお風呂に入ったりするのです。
「寝室は二階ね。荷物置きがてら見に行きましょう」
一階の案内が終わって次は二階です。二階には、現在魔女が使っている寝室と、これから女の子が寝室として使うことになるふた部屋しかありませんでした。
「ここ、私がつかっていいんですか?」
「そうよ。一応掃除はしておいたから。好きに使ってね」
ベッド、机と椅子、小さなタンスがあるだけの小さな部屋でした。でも孤児院育ちの女の子には、自分専用の部屋があるというだけで、とても贅沢に感じたのです。
「荷物置いたらリビングに集合! お茶でも飲みましょう」
女の子の荷物は鞄一つだったので、すぐにお茶の時間になりました。
魔女はハーブティーとクッキーを出しました。遠慮がちにクッキーを口にした女の子の顔が、パッと明るくなりました。
そんな様子を、魔女は満足げに見守っています。
「改めて自己紹介ね。魔女のマジョラムよ、これからよろしくね」
「はい、ゼラニウムです。よろしくお願いします」
「ゼラニウムってちょっと長いのよね……そうだ、ラニちゃんて呼ぶわ」
「わかりました。マジョ先生」
マジョ先生とラニちゃんは、いっしょにハーブティーとクッキーを食べました。
マジョ先生にとっては、いつものおやつですが、今日はずっとおいしかったのです。
お茶のあとは、家の裏にあるお庭の説明です。お庭には、いろんな草花がありました。
「薬に使うハーブはここで育ててるの。お店から買うのもあるけど」
さっき飲んだハーブティーも、マジョ先生のお手製だそうです。
「慣れてきたら、ここのお世話もお願いするわ」
「はい!」
ラニちゃんは元気よく返事をしました。
「ラニちゃんは、読み書きできるのよね」
「はい、孤児院で習いました」
「じゃあ、最初は簡単な本からお勉強しましょう」
いよいよ魔女としてのお勉強が始まります。ラニちゃんはドキドキしていました。ところが。
「今日は疲れたでしょ。お勉強は明日からね」
と、マジョ先生は言いました。
荷物が少なくて、引越しはすぐに終わりました。小さな家なので、案内に時間はかかりませんでした。でも、新しい場所に来たばかりのラニちゃんは、とても緊張していました。いきなりお勉強を始めても、疲れてしまうだけでしょう。
その日は、ラニちゃんがマジョ先生を手伝いながら晩ごはんを作ったり、魔法のお風呂に入ったりして終わりました。
マジョ先生は、ラニちゃんにちょっとしたプレゼントをしました。
綺麗な装丁のノートです。使うのが少しもったいないです。
「お勉強用のは別にあるから、これは好きに使っていいわよ」
そのあと、おやすみの挨拶をして、それぞれの部屋に入りました。
ベッドの上で、ラニちゃんはもらったノートを眺めています。よく見ると、表紙にちょこんと座った黒猫が描かれています。
ラニちゃんは、ノートの使い道を思いつきました。小さな机に向かいます。ペンとインクは、マジョ先生が用意してくれたのか、机の上にありました。
このノートを日記帳として使うことにしたのです。今日が記念すべき一ページ目です。
この日記には、これから、どんなことが書かれていくのでしょうか。
ラニちゃんが、魔女見習いになって二日目の朝です。といっても、昨日はお引っ越しだけだったので、見習いとして過ごすのは、今日が一日目になります。
朝ごはんは、マジョ先生がおいしいスープを作ってくれました。これにも、お庭のハーブが入っているのでしょうか。後片づけは、ラニちゃんもいっしょにやりました。
さあ、待ちに待った魔女としてのお勉強の始まりです。
マジョ先生は、薬草の本を持ってきました。最初は、簡単などこにでもあるものについてです。
「知らなければ、ただの草花に見えるけど、知っていたら何かに使えることがあるのよ」
薬草の本には、綺麗な挿絵がたくさんありました。ラニちゃんがこどもだから、絵のたくさんある本を使っているのでしょうか。いいえ違います。
「こういう正確な絵は重要なのよ。文章でいくら説明しても、みんなが正しく見た目を想像できるわけじゃないからね」
見たままをそのまま絵にできる、そんな魔法があったら便利なのですけれど。この世界にはそういうものはまだありません。
「いくつかは、うちで育てているから見にいきましょう」
二人でお庭に来ました。ぽかぽかとしたいい陽気です。さっき本でみたものが、いくつかありました。
「これがミントね。育てやすくていろいろ使えるけど、増えすぎ注意よ」
「はい!」
「そっちがタイム、その隣がローズマリー。この辺はお料理にもよく使うわね」
「はい!」
マジョ先生の言葉を、ラニちゃんは一生懸命に聞いています。メモもとっています。昨日貰ったノートとは別の、小さくて持ち運びやすいメモ帳です。これもマジョ先生からもらいました。
いつの間にか、お昼の時間です。お昼ごはんは、マジョ先生が作って、ラニちゃんがお手伝いをしました。
さっき見てきたハーブも使っています。
「知ってることが増えると、見方がかわるでしょ?」
マジョ先生のいう通りです。「使っているのかな?」が「これ知ってる!」となったときは、嬉しかったラニちゃんでした。
お昼ごはんが終わって、午後になりました。マジョ先生は、ラニちゃんに魔女の知識を教えます。でも、他にもお仕事があるのです。
午後は、いろんな人に頼まれたお薬や魔法の道具を作る時間です。その間、ラニちゃんは今日習ったことの復習をしています。
マジョ先生は、ラニちゃんにお友達がいれば遊んできてもいいと思っています。でも、引っ越してきたばかりのラニちゃんには、お友達がいません。
「花屋の娘ちゃんが、ラニちゃんくらいだったわね」
なんて言いながら、ごりごりと薬草を煎じています。考え事をしながらやっていたせいで、いつもより細かくしすぎてしまいました。やり直しです。
マジョ先生のお仕事が終わると、晩ごはんになります。そのあとは、最初の日と同じ。魔法のお風呂に入って、お休みの時間です。
魔法のお風呂は、お湯をはるのに魔法を使います。今のラニちゃんには、できないことです。しばらく、お風呂はいっしょに入るのでしょう。
マジョ先生とラニちゃんの毎日は、だいたいこんな感じになりました。
午前中はラニちゃんのお勉強、午後はマジョ先生のお仕事。ごはんの準備などは、ラニちゃんもお手伝いをしています。そして、ラニちゃんは寝る前に、その日にあったことを、黒猫のノートに書いています。
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今日は、はじめて魔女のお勉強をしました。
マジョ先生がもっていた本には、いろんなハーブについて書かれていました。
お庭で本物も見せてもらいました。
お料理に使っているのもありました。
いつか、お薬を先生といっしょに作ったりできるのかな?
早く、いろんなことができるようになりたいな。




