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女騎士は、団畜な部下を帰らせたい~最強上司は純真部下の恋心に気づかなすぎる~  作者: 藤谷 要


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第九話 徴候

 白薔薇騎士団の騎士団長室に役職付きの騎士たちが集められ、重大な会議がなされていた。


「というわけで、ヒョウイ討伐について、報告は以上になります。ところで、討伐で出陣していた最中に騎士グレン・イシュルナー殿に徴候が現れたそうです。本人からの相談はないので、今のところ本人が気づいているのか不明ですが、今後様子を観察する必要があります」


 隊長のルイスの報告に団長のウィラミナ第三王女も真面目に傾聴している。


 ピンクブロンドの柔らかい髪を今は下ろさず、騎士団長の制服に合わせて簡潔にまとめている。

 これまでヒョウイ討伐について話していたが、その時間のほとんどが王女のシュバルツに対する恨み言で占められていたことなど微塵も感じさせない態度である。


 王女のお気に入りだった侍女がシュバルツに誘惑されて愛人の一人になって辞めてしまったので、まだ十六歳の若い王女にとって彼は敵となってしまったのである。


「それは目が離せないですね。騎士の一大事です。でも、同時に命の危険もあるのでしょう?」


 王女の発言に一同は無言で頷く。緊迫した空気が漂う。


「そのとおりです、王女殿下。イシュルナー卿はリッセン卿と現在同じ隊に属しているので、彼女にいざというときの対応を任せたいと存じます」


 副団長の言葉に王女は鷹揚に頷く。


「それはいい考えね。ライラ、それで良いかしら?」

「はい、万が一のときは私が対応いたします」


 ライラの固い決意に王女は満足そうに頷いた。


 その後、報告を終えたライラたち隊長級の騎士たちは執務室に戻り、先ほどの件について、さらに踏み込んだ話を始める。


「見守るにしても常にそばにいる口実が必要ですね。何か案はありますか?」


 隊長ルイスの質問にライラは素早く手を挙げる。


「授与式に出席しなければならないので、イシュルナー卿にマナーの講師をお願いするのはどうですか? 卿の立ち振る舞いは、とても素晴らしいです」

「それはいいね。彼は伯爵家の者だからね。適任だ。貴族の顔と名前も詳しいだろうから当日もそばに置くといい」

「別に口実を作らなくても、彼のほうから副隊長にいつも近づいてなかったか?」


 これは第一隊の隊長の発言だ。この執務室でのやり取りを目撃しての感想だろう。


「実は、討伐中から、彼から避けられている気がするんです。まぁ、珍しいことではないんですが」


 部下が前に言っていたとおり、ライラは戦っていなければ「ただのねーちゃん」に見られるので、結構気安く近づかれやすい。しかし、討伐での働きやライラの本当の役職を知ると、恐れられて距離を置かれることがある。


 グレンはライラの能力や地位を正しく理解して敬意を払ってくれていたので、急に距離を置かれて正直戸惑っていた。


 目が合えば、あんなに嬉しそうに微笑んでくれていたのに、今は気まずそうに急に目を逸らされる。


「いやいや、それはアレじゃないかね?」

「そうそう憧れの気持ちがね、急にアレに変わったんじゃないかな」


 上司たちがわけ知り顔でニヤニヤ笑いながら意味深な発言をして正直気持ち悪い。


「アレって何ですか?」


 ライラが質問しても、はぐらかすばかり。


「本人に聞きたまえ。馬に蹴られたくないからね」


 馬は関係ないだろうと思いながらも、確かに避ける理由を本人に尋ねて気に障った点を誠心誠意謝罪しようとライラは素直に考える。


「とにかく、最悪な場合もあるから、本人だけでなく、兆候について他の人にも知られないように頼むよ」

「はい、心得ております」


 隊長のやっと出た真面目な指示にライラは神妙に頷いた。


 ※


「私が副隊長殿の、マナー講師ですか!?」


 ライラを避け始めた矢先、執務室に呼び出されたと思ったら、当の本人から驚くべきお願いがされてグレンは聞き返さずにいられなかった。


「そうなの。是非お願いできないかな?」


 彼女は机に着席しているので、必要的に立っているグレンを見上げている。


 困った様子の上目遣いで紫の宝石のように美しい瞳で懇願されたら、否とは決して言えない。原因不明な不調さえなければ、今日だってライラと話したくて見つけたくて関わりたくて仕方がなかったのだ。


「はい、私で良ければ……」


 答えている最中でさえ、ライラにじっと見つめられ続けているせいで、体温が上がり続けて、顔がものすごく熱くなっていく。耐えられなくて、不躾だと分かっていても彼女から目を逸らさなければならなかった。


「了承してくれて良かった。一週間後に授賞式があるから、最低限で良いから立ち振る舞いを教えてほしいの」


 それくらいなら、そんなに時間はかかりそうもないと安堵した矢先だ。


「ダンスは大丈夫なのか? 爵位があれば今後パートナーと踊ることもあるぞ」


 隊長のルイスが横から口を挟んできた。


「授与式にダンスは必要ですか? 当日の私は騎士服なので、ドレスではないのですよ」

「もしも王女殿下がダンスを所望されたときに対応できないと恥をかくぞ」

「どうして殿下が私とダンスを?」


 隊長はなぜか質問したライラではなくグレンをチラリと見る。


「カストロ卿が副隊長をダンスに誘う可能性もあるからだ。あの方に副隊長を奪われるくらいなら、王女殿下ご自身が誘ってしまえば良いと考えなくもない」

「副隊長殿、是非ダンスを練習しましょう! 男性パートだけ覚えてカストロ卿の誘いは断ってください」


 気づけばグレンは前のめりで発言していた。



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