第三話 修行は騒音つき!
心身を鍛え抜いたとき、体内のエネルギーが具現化されたものをアウラと呼んでいる。
このアウラを操作すると、攻撃や防御に利用することができる。
鍛錬場でライラがグレンの目の前でアウラを左手に発生させると、白い光によって拳が包まれる。
「なるほど、これが副隊長殿のアウラなんですね。なぜ人によって色が異なるんでしょうね。前の上司は紺色で暗かったんですが、副隊長殿のはまるで明かりのようですね」
「それは本当に不思議よね。ちなみに隊長のは、ほのかに緑がかっていて、温かい感じがするわ」
「副隊長殿は第二段階もできるとお聞きしています。見せていただけますか?」
「ええ、いいわよ」
第一段階はアウラを発生させること。第二段階はアウラで全身を纏う。
当然、部隊を率いる隊長や副隊長はここまでアウラを扱えなければいけない。大型の魔物に襲われたとき、対応ができないからだ。
「おお、副隊長殿が輝いて神々しいです!」
ライラの様子を見てグレンが感極まったように感想を呟く。
すぐにアウラを解くと、何も言われずとも第三段階を見せてみた。
ライラが持っていた訓練用の木剣までも発光する。
「おお、剣気まで!」
興奮した様子でグレンが叫ぶ。
第三段階は剣気を発生させることができる。身体だけでなく剣もアウラで覆い、凄まじい攻撃力を敵に与える。
要は剣の達人の境地に入ったと、目で見て確認できる証拠でもあった。それらの扱いに長けたものをアウラマスターと呼び、騎士の地位の中でも上位につく。
「狂竜のときに剣気を使ったと噂で聞きましたが、本当だったんですね! アウラマスターになったということは、もうすぐ陞爵の話もあるのでは!?」
「そうかもね、いつになるか分からないけど」
実は団長の王女より褒美は何が良いのか呼び出されて確認されたことがあった。
騎士となったときに家名をすでに得ていたので、平民とは扱いが違ったが、爵位を持つ貴族とは地位が明らかに異なる。ただ単に王城に出入りする許可を得ただけだ。
アウラマスターの慣例では最初は一代限りの男爵位で、領地ではなく報奨金や王都内で屋敷を与えられ、国の貴族としての仲間入りを果たす。
ライラが初めてアウラを扱えたとき、昇進を伴うので元カレにもちろん報告しようとしたが、「また自慢話か?」と見るからに嫌そうだったので最後まで言えず、元カレはライラの出世を別れたときも知らないままだった。
元カレのダンとライラは同じ平民で、彼は商家で下働き、ライラは騎士の小姓として雇われて、それぞれ生活のために働いていた。ライラが実力を認められて、どんどん出世する一方で、ダンのほうは経歴だけは増えるが目に見えた待遇の変化はなかった。
そのせいで、ダンはライラの活躍を聞くと自分の不甲斐なさを感じて辛いと、仕事の話を拒むようになったのだ。
「さてイシュルナー卿、せっかくだから何かお相手するわ。どんな訓練をお望みかしら?」
わざわざライラの自主練についてきたのだか、彼に合わせるつもりだった。
「いえ、今日は見学させてください! わざわざ副隊長殿が勤務時間外にお一人で来られたのですから、ご自分のためにお時間を使われたいはずですから!」
「それだと、あなたは暇になるんじゃないの?」
「いいえ、とんでもございません! アウラマスターの方がどのような訓練をされているのか非常に興味深いです!」
拳に力を入れて前のめりで力説するグレンは遠慮ではなく本気のようだ。
彼の格好はライラとは異なり、王宮勤務用の見目の良い騎士の制服で、訓練で雑に動くのには適さない。
確かに彼の言うとおり、元々練習するつもりはなかったのだ。
「分かったわ。それなら予定どおり私の好きなようにさせてもらうわね」
「はい! 私のことはお気になさらないでください!」
それにしても意外だった。
まさかライラの気持ちに気づいてくれたなんて。
散々非常識で周囲に迷惑をかける行為だと指摘を続けていたから、今回も同じようにライラに構わず自分本位に行動するのかと思っていた。
でも、それはライラの思い込みだった。
正しく指導すれば、グレンは彼が本来持っている思いやりと上手く合わさって、大きく成長するかもしれない。
そう感じた出来事だった。
ライラは剣を構えたまま、両目を閉じる。
ライラの脳内に架空の敵が現れる。攻撃を防ぐためにアウラを該当箇所だけに発生させる。
全身でアウラを覆うより必要最低限で防いだほうが消耗を抑えられる。
その制御の練習をしたかったのだ。
「副隊長殿! すごいです! あんなに巧みに操るなんて!」
「すごい集中力と持続力ですね! 前の隊長ですら、連続使用は避けていたのに!」
実はグレンの歓声が集中を思いっきり阻害していた。
彼の大きい声は、よく聞こえるからだ。まるで騒音のように。
そろそろ邪魔をしないように声をかけようかと悩み始めたとき、ライラはハッと気づいた。
戦闘時には何が起きるか分からない。こんな周囲の一人の声に惑わされるなんて、ライラ自身がただ単に未熟なだけだったのだと。
ライラはより一層気合いを入れて修行に励んだ。
「イシュルナー卿、あなたのおかげでとても良い時間を過ごさせてもらったわ。ありがとうね」
「私こそ、良い経験をさせていただきました!」
ライラとグレンは互いに握手し合い、絆を深め合った。
「副隊長殿、これからもよろしくお願いします!」
「ええ、こちらこそ」
ところが、この最後のやり取りをライラはただの社交辞令だと思っていたが、グレンのほうは本気だったことをライラは身を持って知ることになる。




