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ここのえのたんぺんしゅう  作者: 九重 楓


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6/10

2026/05/25「未観測のココロ」

 これは私が体験した――と言うことになっている――御話です。



 ■■年■月■年の晴れ渡る月夜でした。確か日付が変わってすぐだったと思います。満月が綺麗だったことを憶えています

 私が残業を終えて帰宅しているところでした。

 いつもと変わらない帰路にソレは在りました。

 普段見ている風景の中でソレは異彩を放っていました。

 深々と降り注ぐ月影に照らされたソレは巨大な鳥居でした。大きな神宮にあるような規模の物です。真っ赤で荘厳な鳥居が、田舎の田園風景の中に突如として現れました。

 私も初めは何が起きているのかわかりませんでした。

 訳も分からず鳥居を眺めていると、その奥に不思議な風景を見ました。



 どこまでも続く海原です。その空はのしかかるような曇天でした。


 鳥居の奥の海原から■■■が聞こえてきました。私は両手で耳を覆いました。それほどの大音声だったのです。でもそんな騒音ともいえる■■■が響き渡ってにも関わらず。周りの民家の明かりが点くことはありませんでした。皆が一様に寝ていると言うことを考慮しても、そんな眠りさえ妨げるに足る大音声だったので、私はおかしく思ったのです。


 ■■■は数分間続いたはずです。その間私は耳を塞いでその場に蹲っていました。誰も歩いていないような真夜中だったのが幸いして、私の奇行を咎める人はいませんでした。


 ■■■が終わり顔を上げると、私は何処までも透き通る海原の中に居ました。

 私は水中にいるにも拘らず、呼吸をすることが出来ました。そんな海原の中で、遥か遠くに■■■が響いていることに気が付きました。先程ほどの大音声ではありません。でも、先程は感じなかった感情が心に渦巻いていくのを感じました。





 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 


 何時しか私の心はその感情に支配されてしまいました。

 何処から来たのか分からないその感情は、私に一つの答えを示してくれました。


 ココから逃げなければ。


 私は泳ぎ出しました。

 何処までも透き通る海原に泳ぎ出したのです。

 

 

 どれだけ泳ぎ続けたのでしょうか。分からないほどに私は泳ぎ続け、立つことが出来るほどの浅瀬に辿り着きました。

 それでもまだ■■■は聞こえてきます。私は今度は走り出しました。

 脚に海水が絡まり、うまく走ることが出来ません。それでも私には走る事しかできないのです。

 あの■■■から逃げなければ私は―――そこで背後に何かの気配を感じました。気配は遥か遠くにあるように感じます。だから私は今のうちにさらに逃げようと走りました。


 視線を感じるのです。

 蒼く、蒼く、蒼い視線です。深淵のような蒼い視線でした。



 ■■■が響きました。



 背後の気配はどんどん近づいているようです。いつしか■■■に紛れて足音も聞こえてきました。ペタペタと言う人間の足音です。その足音を聞いた私の心はまた先程の感情に支配されてしまいました。

 大粒の涙をボロボロと流しながら私は必死に走りました。

 何処までも続く浅瀬の海原です。生き物の気配の感じない凪の海で、私は遂に相対したのです。


 その姿は真っ黒な少女でした。

 その姿を観測してしまった私はきっともう助からないのでしょう。真っ黒な少女は凪の海とのしかかる曇天を背景に私を真っ直ぐに見つめています。

 気が付けば■■■はもう聞こえていません。


 真っ黒な少女が口を開きました。何かを言っています。


 真っ黒な少女に私を抱き締められました。

 真っ黒な少女が何を言っています。ですが私にはそれが聞こえません。聞こえないはずなのに、私はボロボロと涙を流すのです。



 そうして、わたしはココに戻ってきました。

 

 夢から覚めたのです。



 またあの感情が沸々と湧き上がってきます。分かっているのです。仕方がない事だと。これはわたしに残された最後の抵抗であると。

 

 嘲る声。

 甲高い笑い声。

 転がる金属音。

 ずっしりと水を吸った制服。

 手元でぐちゃぐちゃになっているお弁当。

 濡れて顔に張り付いた髪。

 開け放たれたドア。

 三つの背中。

 視界は赤く、紅く染まり。

 響き渡る悲鳴。

 グチャグチャの顔。

 わたしの笑い声。



 誰にも届かなかった、わたしの―――――。


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