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第7話 あれが妻(ローデリック)

 ダウズウェル辺境伯の執務室は城の中でも居室とは別棟に用意されている。

 金髪を長く整えた男性が執務室の窓を開けて空気を入れ替えているのを尻目に、ローデリックが椅子に腰を下ろして口を開いた。


「見たとおりだ、フリンツフッド伯爵令嬢のエレノア。事前に調べさせた二番目」

「ちょっと見てくる、で本当に連れて帰ってくる人がありますか。事後報告されるこちらの身にもなってください」


 ローデリックの正面側に金髪の男が回りながら、呆れた様子でため息をつく。

 もう一人の赤毛の男はおかしそうに笑った。


「いいじゃないか、閣下も三十三だし遅いくらいだ。どうせ跡継ぎを作るのに嫁は要るだろ」

「それこそです! フリンツフッドのご令嬢は病気がちなのが難点でしたでしょう、想像よりも繊細そうな方ですし。あの様子でお子が望めますか?」

「形として正妻がいれば誰が産んだかは些細だろ?」

「辺境伯の跡継ぎを誰が産んだのかが些細な筈がないでしょう、あなたの子供とは訳が違います」


 言い合いに発展しそうな部下二人のやりとりから目を反らし、ローデリックは机に肘を置くと、ため息をついた。


「病弱は社交避けの方便だ。弱々しく見えるだろうが病気はほぼなし、一晩の徹夜くらいは平気でするらしい」

「ならあの様子は閣下の無体のせいか」

「――は?」


 ローデリックがバーソロミューを見やるが、武官の長は気にする様子もなく口を開いた。


「今までと違う系統の魅力に参って加減ができなかったのかと」

「あれは馬車に酔っているだけだ」

 

 部下二人が意味ありげに視線を交わし、ローデリックは露骨に眉を寄せる。


「なんだ、アランと同じだな」

「飛ばしすぎなんですよ」


 金髪の男アランが嫌そうにため息をついて、当然だ、とローデリックが呟いた。


「いざというとき、間に合わないは通らない」

「ええ、承知しております。訓練を辞めろというつもりはありません」


「それから、フリンツフッドへの貸し付けの管理を頼む。書類はいつも通りだ」

「今回のは実質無期限でしょう?」

「断られた」


 は? とアランが怪訝な顔をする。

 相手が困っているだろう金銭を、実質無期限の低利息で貸し付ける。こうして恩を売ることで要求を飲ませるのがダウズウェルの、というよりはローデリックの常套手段だ。

 今回も当然、急遽娘を差し出させる代わりに金銭を与える、そのつもりだった。


「フリンツフッド卿には、娘の代金に思われるものは受け取らないと言われたからな。契約書も法定の最低限の条件で作り直した」

「別に誰に言うわけでもないでしょうに」

「卿自身がどう思っているかの話だからな、良くも悪くも。身内に置くには人柄が良くて助かるが、全うに対応されると心苦しい」


 黙って聞いていたバーソロミューが低く笑った。この男はこういった辺境伯にまつわる悪辣という噂には関与していない。

 だが、勿論止めている訳でもない。悪辣を担っている二人を面白そうに眺めているだけだ。

 少し考えて、では、とアランが切り出した。


「フリンツフッドの物品を定期的に、露骨にならない程度にあちらに有利なように買い上げて帳尻を合わせたらいかがです」

「ああ。とりあえず、()()の好物らしい蜂蜜をまとめて買い付けた。余ったものは下に流そう」


 承知しました、とアランが頷いた。


「で。その奥方はこれからどう扱うおつもりで?」


 辺境伯は好奇心を隠しもしないバーソロミューの顔をちらりとみる。

 色々考えはしたが、と前置きしたてローデリックは少し抑えた声で言った。


「問題は気性だな、扱いを間違えると面倒なことになる」

「ああ見えて、であれば勝ち気な方ですか? それとも見たとおりの気鬱?」

「いや……近いうちにお前達にも引き合わせる、会えばわかる。フリンツフッド卿譲りだろうが、真面目すぎる」


 不思議そうな二人にどう説明したものか、とローデリックの指がこめかみをたたく。


「結局は生家がやっていた通りだろうな。病弱、という触れ込みはそのままにする。城内は好きにさせ、社交は最低限。城の外に出すなら必ず誰かがついて尻拭いだ」

「他所から客人が来た時には?」

「……臥せている、で部屋に閉じ込めて監視をつける」

「それほど管理が必要な女じゃ面倒だろうにな。アランのおすすめの三番目はどうだったんだ?」


 他の女はもうどうでも良い。

 バーソロミューの揶揄いにローデリックは短くそう言った。

 アランが処置なし、と言いたげに肩をすくめる。


「本人の感情がどうあれ、理屈さえ通っていると思わせれば従う気質なのは都合がいいんだ。俺が接触できたのはあれがフラフラ出歩いていたおかげだが、管理する側になった以上は厳重に管理しておかないといけない」


 聞き分けさえ良ければと思っていたが案外面倒だ、と呟いてローデリックが脚を組んだ。軽く目を閉じて息を吐く。


「見せびらかして近づこうとする男が出てきても困るしな」

「ああ」


 バーソロミューの軽口に何気なく答えたローデリックの前で、部下二人がまた顔を見合わせた。


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