第5話 夜明け(ローデリック視点)
聞こえていた呼吸の音が落ち着いた。
隣をみると今日妻にしたエレノアはまた眠ってしまったらしい。
ローデリックは横になったまま天井を見上げる。
外見だけは人形のように精巧。病弱なら大人しく、部屋に閉じ込めておけば手間もかからない。集めさせた情報を見て最初にそう思った。
実際に会ってみれば健康そうで、気が弱い訳でもなく投げかければ良く喋る。人目を気にするわりに言い回しに配慮が足りないのは辟易したが、それでも。
十分に便利だ。
妻を作るという目的は達した。
寝室を見せたときの反応で経験と知識がないのは明らかで、そんな女を宥めすかして事を進めるのは時間の無駄、と結論した。ダウズウェルへの旅程を考えれば女の体力は温存しておくべきだ。
――するべきことをしましょう。
彼女の方からやってきたのは予想外だった。
言い出した癖に震えていたが、逃げも制止もしなかった。今日の失態についても、泣き言だけでなく改善の意志を口にする。
義務や役目を、建前を、そうあるべきと信じて実行しようとする人間だ。
こういう無駄に律義な性質の人間を扱うのは余りにも簡単。
だから選んだ。
寝台の端に落ちている小さな紙切れを拾い上げると、そこには彼女のやや角張った字が詰め込まれている。それから、何故笑うのかと呟く声と、泣き出す手前で自分を見上げた潤んだ目を思い出す。
――思ったよりも、悪くない。
寝ている彼女の髪を一房すくい上げる。本人の様子から想像するよりは手入れが行き届いていて、蕩けるように指の間を抜けていく。
起きたら部屋に戻そうと思っていた筈で、二度目は気まぐれにすぎない。
気まぐれの理由を考える必要は、今のところ無い。




