生誕祭
エルフ×探偵×魔法ミステリです。
日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。
気軽に読んでいただけたら嬉しいです。
「エフィ。キレイじゃない! 落ち着いた色合いで、それほど派手じゃないところもポイント高いわ」
舞踏会には、先生だけでなく私もついていくことになった。
普段はスーツで事務所に来ているが、会場で一人だけ浮くわけにもいかず、嫌々ながら私もドレスを着ている。こういった社交場に出るのも初めてなら、ドレスを着るのも初めてで、鏡の前に立ってから何度も裾の位置を直していた。
ダンスも当然初めてなので、ここ数日先生に手ほどきを受けていた。形はある程度覚えたものの、絶望的にリズム感がなく、三日経っても先生の足を踏む回数は減らなかった。この靴とこのドレスで踊れるとは到底思えない。
特に貴族でもなく、正式に招かれてもいない私に声がかかることはないだろう、というのが先生の見立てだし、端の方でおとなしくしているつもりでいる。それでも、誰かに手を差し出される場面が頭をよぎるたび、私はドレスの裾を握り直していた。
「私……ついていかなくてもいいんじゃないですかね」
「私の助手をしている限り、こういう場面は今回だけじゃないから、経験と思うことね。それに、もうお迎えの馬車が来たようよ」
表を見ると、この前の馬車ほどではないものの、冒険者や町の移動に使うものとは明らかに違う、上等な馬車が停まっていた。
観念して玄関へ向かおうとすると、足に重みがかかった。
「マムぅ~~」
「こら。今日は連れていけないの。おとなしく留守番してて」
「何しているのエフィ。行くわよ~」
「待ってください、マムちゃんが離れなくて」
引き剥がそうとするが、どうやっても離れない。普段は聞き分けのいいマムちゃんが、今日に限って前足に爪を立てて踏ん張っている。
「もう連れて行きなさいよ。ドレスの下に隠しておけば分からないでしょ」
先生が適当なことを言っているが、貴族のパーティーに魔獣を連れていけるわけがない。見つかればその場で拘束されてもおかしくない。かといって、馬車を待たせて遅れるわけにもいかなかった。
仕方なく、見つかったら全部先生のせいにしようと心に決め、ドレスの下にハンモックのようなものを吊ってマムちゃんを隠すことにした。歩きづらいことこの上ない。
*
「エフィ。もし戦闘になったら、絶対に参加しないでね。巻き込まれそうになったら、学んだことを活かして全力で回避」
「そもそも、あれだけ厳重な警戒の中で、襲撃者が本当に現れるんでしょうか」
使者が帰ったあと、先生から今回の依頼について聞いた。
高位貴族の誰かが狙われている。ただし、誰が何のために襲うのかまでは教えられていない。襲撃者の見当はついているが、確証がない限り動けないのだという。
事が起こらないよう、国は手を尽くしている。先生のところへわざわざ人目につくやり方で使者を寄越したのも、その一環だ。「レイリアがいる」という事実そのものを、抑止として使いたいらしい。
暗殺か、毒殺か、罠か。手段は分からない。ただ、先生と現魔法師団長、副団長の三人で対策を講じているため、搦め手はほぼ塞がれているという。
「残るのは、正面から強引に来る方法だけ。それでも諦めていないなら、そうするでしょうね」
先生はそう言って、面倒くさそうに髪をかき上げた。
*
会場に着くと、まず魔法師団による検問があった。
武器と魔道具の持ち込みは当然禁止で、一人ずつ魔力鑑定にかけられる。先生は慣れた様子で検問を受けていたが、マムちゃんをドレスの下に隠している私は内心ヒヤヒヤしていた。
私の番となり、検問官が鑑定を始めると、何か異変を感じたのか険しい顔つきになる。
「……失礼、もう一度よろしいですか」
「あぁ、それは気にしないで。これから起こることに必要になるかもしれないから。責任は私が持つわ」
先生が横から口を挟み、検問官の手元に自分の登録票を押しつける。検問官は登録票と先生の顔を三度見比べ、それ以上は何も言わなかった。
検問を抜けたあと、私は小声で抗議した。
「……先生。あれは嘘ですよね」
「嘘じゃないわよ。何かの役には立つかもしれないし。責任は私が持つもの」
会場は広大だった。中央に大きく空間が取られ、その周囲を囲むように、いくつもの卓が並んでいる。卓の上には見たこともない料理が隙間なく置かれていた。
料理が出ることは先生の予想外だったらしい。目の色が変わり、そのまま卓へ向かおうとするので、私は袖を掴んで制止した。
「先生。まだパーティーが始まっていませんよ。勝手に食べたら不敬に当たるのでは」 「うっ……それもそうね」
「それに今日は、襲撃者への対応が目的ですからね」
「分かっているわよ。言われなくても、会場に問題がないか調べているわ」
そう言って、先生は魔力鑑定を始めた。言われてから始めたようにも見えたが、突っ込む気力は湧かなかった。
*
「皆様。本日は王女殿下生誕祝賀会にお集まりいただき、ありがとうございます。どうぞ、心ゆくまでお楽しみください」
祝賀会は王女の入場と祝辞から始まり、晩餐へと移った。
一斉に供されることもあって、定番の品はさすがにレストランに劣る。それでも、名前も分からない食材で組み立てられた料理の数々は、王宮の名に恥じないものだった。
先生はデザートの皿を三度取りに行き、四度目に給仕から取り分け用の匙を渡された。
晩餐が終わると灯りが落とされ、楽団の演奏が始まった。王女のファーストダンスだ。
王女は十七歳になったという。相当な練習を積んでいるのだろう、動きに迷いがまるでない。差し出す指先の高さも、振り返る速さも、すべてが決まった位置に収まっていく。
私は壁際でそれを見ていた。孤児院で育った私は、あの高さに指を上げる練習をしたことがない。裾を握っていた手を、そっと開いて横に下ろした。
数曲が終わり、王女が退出すると、招待客だけの舞踏会が始まった。
ここまでは、先生の予想通り何事もなく進んでいる。王女がいる間は内も外も警備が厚く、手出しはできない。裏を返せば、ここからが本番だった。
先生の顔から笑みが引き、会場に散った魔法師団の人たちの動きが硬くなる。
王女のダンス後、数曲が終わり王女が退出すると、招待客だけの舞踏会が始まった。
ここまでは先生の予想通り何事もなく進んでいった。
王女がいる時間帯は外も中も警備が厳重で、その間は手出しができないだろうということだが、逆を言うとここからが本番で、おのずと先生や魔法師団の方々の顔に緊張の色が浮かぶ。
異変は、何曲か終わった後に起きた。
窓の外で閃光が走る。一拍遅れて、腹に響く爆発音が轟いた。
窓ガラスは割れていない。それでも全員の視線が一斉に窓へ向かい、会場のざわめきが悲鳴に変わる。
その直後、広間の扉が大きな音を立てて開いた。
数人がなだれ込んでくる。全員が、魔法師団の制服を着ていた。
「やはり、警備にまで手を回していたわね。全員中央を開けて端に寄って!勝手な行動をすると死ぬわよ!」
先生の怒号が飛び、事前に準備をしていた魔法師団の人間が手際よく、貴族たちを誘導する。
そして、魔法師団と先生を含む、激しい戦闘が始まった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次回更新は8月18日(火) 20:00更新を予定しています。
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