閑話:不器用なドラゴン
エルフ×探偵×魔法ミステリです。
日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。
気軽に読んでいただけたら嬉しいです。
「見てください~この服マムちゃんにぴったりで可愛い~」
今日は休暇の最後の日。 事件のせいで数日滞在が延びたあと、帰る前にお土産通りへとやって来ている。
1キロほどに及ぶ通りには、両側にところ狭しと店が並んでいる。キールコーストの名物やらお土産グッズやら、一日歩き回っても飽きなさそうだ。
「マムちゃん、服を着るの嫌いじゃないの?」
「むしろ好きですよ~。自分から服の中に入ってきますしね」
「ふ~ん、珍しいわね。毛があるのに暑くないのかしら」
この通りのお土産屋は珍しくペットフレンドリーで、外に出さなければ店内に入れても良いことになっている。食事は食べ歩きグルメで楽しもう、ということになっていた。
私は袈裟懸けに袋状のものを下げ、その中にマムちゃんを入れている。数日ぶりの外出に、マムちゃんも嬉しそうだ。
通りを歩いていると、ふと少し古びた店に目が留まった。
この辺りは観光地化に伴って店の建て替えが多く、新築の真新しい店が並ぶ中で、こうした古い店構えは逆に目を引く。
「これは……何の像でしょう?」
「ああ、ここら辺で信仰されている海神クラークね。これを持っていると水難事故に遭わないと言われているわ」
昔ほど熱心に信仰している人は少なくなってきたが、今でも漁師の船には大抵置いてあるそうだ。木彫りのもの、金属製のもの、色とりどりのガラス細工のもの――同じ海神像でも、店によって素材も雰囲気も様々で見ていて飽きない。
「いらっしゃいませ。あらあら、可愛いお嬢さん方だこと。どこからいらしたの?」
「王都アルディナから来ました」
「マムぅ~~」
「あらまぁ。とっても可愛いチンチラ……かしら?」
奥から出てきたのは、おっとりとした雰囲気のおばあさんだった。まるで可愛い孫を見るかのような目でマムちゃんをあやしてくれる。
「いいわねぇ、若い頃の私もこうやって旅をしたものよ。お土産屋さんを覗いて、何でもないものを買って帰るのが楽しくてねぇ」
「おばあさんも昔、旅をされていたんですか?」
「ええ。主人と一緒にね。あちこち回って、最後にこの町が気に入って、二人でこのお店を始めたのよ」
おばあさんはカウンターの奥にある小さな写真立てに目をやった。色褪せた写真の中で、若い頃の彼女と、優しそうな表情の男性が並んで笑っている。
「うちの人は十年前に先に行ってしまったけれど、お店は続けようと思ってね。来てくれるお客さんと話すのが、何よりの楽しみだから」
「素敵ですね……」
「お嬢さんたちも、いい思い出をたくさん作ってちょうだいね。マムちゃんも、また遊びにいらっしゃい」
マムちゃんは返事をするかのように、ふんわりと鳴いた。
「色んな店があるから、楽しんでいってね」
「おばあさんもお元気で……あ、これ買いますね」
特に信仰心があるわけでもない先生が手に取ったのは、手のひらより少し大きい木彫りの海神像だった。
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店を出て、私は少し意外に思って先生を見上げた。
「先生でも、そういうの買うんですね」
「いや~、おじいちゃんおばあちゃんがやってる店に入ると、どうしても何か買っちゃうのよね~」
「分かります!実は私も同じです。なんていうか、買わなきゃ、っていう気持ちになりますよね」
旅の先々で年配の方が営むお店に入ると、つい買ってしまうらしい。千年生きている先生のお家には、長い年月で蓄えられたお土産が山のようにあるそうだ。先生の家に行ったことはないが、千年分のお土産品とは一体どれほどの数になるのだろう……
かく言う私も、毎回のように買ってきてしまう。多分、先生が買っていなければ、私が買っていた。年配の方のお店だけでなく、人がほとんどいないお土産屋でも、つい何か手に取ってしまうことが多い。観光地のお土産屋は、どうしてこんなに買いたくなる雰囲気になるのか不思議だ。
「お、エフィ。あれやってみない?」
先生が指差したのはガラス工房のお店だった。 見事な彫りの入ったものや、色とりどりのガラス製品が並ぶ店で、体験できるのはガラスを削って絵柄をつけるというものだった。
「絵心あるんですか?」
「何年生きていると思っているのよ。私に苦手なものなんてないわ」
この半年間だけでも、幽霊だのブランコだの、苦手なものはかなり多い気がするが――まあ、報告書や研究論文で絵を描く機会もあるだろうし、こういう技術的なことは得意なのだろう。多分。
削る機械も魔道具でできていた。足元のペダルを踏むことで魔力が流れ、風魔法の力で内部の軸が回転し、先端の刃でガラスを削っていく仕組みらしい
出来上がったら見せ合おう、という話になり、それぞれの席で作業を始めた。
ガラスの表面に下絵を描いてから削っていくのだが、やってみると意外に難しく、思ったようには削れない。
ちらりと先生の方を窺ってみると、
「あ~」
「うげっ」
「……うそでしょ」
と小さな声で呟きながら、明らかに苦戦している様子が見て取れた。
一方の私は、だんだん作業に慣れてきた。元々細かい作業や工作は得意な方だったので、思ったよりもすんなりと作り上げることができた。 絵柄はもちろん、マムちゃんの似顔絵。自分で言うのもなんだが、なかなか良い出来栄えだと思う。
「こちらは終わりましたけど、先生はどうですか?」
「……終わったわよ……」
心なしか元気のない返事だ。
私は自分の作品について説明したり、何を描いたんですかと問いかけたりするが、返答にいつもの切れがない。
「せっかくだから、記念に作ったものを交換しませんか?」
「えっ?……まぁ、いいけど……」
渋々といった様子で、せーので互いの作品を見せ合う。
先生の作ったグラスには――何やら、昔の壁画にあるような生物らしきものが描かれていた。
「これは……蜥蜴ですかね?」
「……ドラゴンよ……」
あまりに小さな声だったので聞き取れず、もう一度問い直すと、
「ド・ラ・ゴ・ン、よ!」
「あ~、なるほど、ドラゴン……」
「悪かったわね~、手先が器用じゃないのよ」
そういえば、思い返してみると、先生が何かを作っている姿は今まで見たことがない。字も――お世辞にも上手いとは言えなかった。普段はあれだけ何でもできるように見える先生にも、苦手なことはあるんだなと、なんだか妙に納得してしまった。
ただ私は、これはこれで可愛い絵だなと思う。素朴で、一生懸命描いたのが伝わってくる。
「可愛いからいいじゃないですか。じゃあ、これいただきますね」
「えっ、本当にそれでいいの?」
次はもっと上手く作るから、次回交換しよう――そう言ってくる先生ではあったが、最後には交換してもらい、私は手の中のグラスをそっと見つめた。
一生懸命作っている姿を見ていて、私はこういうものを貰うのが嬉しい。このドラゴンのグラスは、一生の宝物にしよう。そう、心に誓いながら――
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次回更新は6月16日(火) 20:00更新を予定しています。
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