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煙幕の信号

エルフ×探偵×魔法ミステリです。


日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。


気軽に読んでいただけたら嬉しいです。

キールコーストの岬にある灯台は、広い草原の中にぽつんと建っていた。観光目的だろうか、昼間の今はちらほらと人影が見える。

ここに限った話ではないが、夜の岬は人攫いに遭う危険が高くなるため、日が落ちると人は全くいなくなるそうだ。


整備された一本道を通って灯台の麓に着くと、簡素な造りながら思ったよりも大きく感じられた。

私と先生は、灯台の周りに焼けた跡がないかなど、入念に調べていく。


「野焼きをしたという感じはないですね」

「そうね。やはり魔道具を使っている可能性は高そうだけど、煙で靄をつくっているなら魔道具だけでは難しいわ。藁みたいな、煙が大量に出るものを一緒に燃やしているのかもしれない」


ガスを燃やすコンロから煙が出ないのと同じで、魔道具の炎には煙が出ない。何か別の材料を使っているなら、必ず痕跡が残っているはずだ、というのが先生の考えだった。


地面には何も見当たらなかったため、私たちは灯台の壁を一通り見て回る。すると、海に面した側の壁に、黒い煤のようなものがこびりついているのを見つけた。

先生は煤ごと壁の一部を削り取って魔封じの瓶に入れ、残った箇所に魔力感知をかけていく。


「わずかだけど魔力反応が出たわ。これだけ風に晒されている場所だと残留魔力はすぐに消えるから、ごく最近、ここで魔力を使った何かが行われたのは確定ね」

「何が目的なんでしょう」

「これだけで断定はできないけど……よくあるのは、沖に出ている船へ光の信号で安全かどうかを知らせる手口ね」

「……ということは、密輸船ですか?」

「もしくは人身売買か。いずれにせよ私たちだけで対処するのは難しいわ。治安院に報告しに行きましょう」


王都では事件が多い分、治安院も数多く配置されている。だがリゾート地のような田舎では治安院そのものが少なく、配属人数も限られる。密輸船を相手取れるだけの人手を確保できるのか、正直なところ不安が残った。


________________________________________


「……これで説明は以上ですが、あとは治安院にお任せしても大丈夫でしょうか」

「そうですね……この地域の治安院は十人ほどしかおらず、魔法の使い手は私だけです。仮に密輸船だった場合、私たちだけでは難しい。せめてもう一人、熟練した魔法使いがいないと厳しいかもしれません」


人手は足りていないようだが、ガルドと名乗った若い担当官は、話しぶりからして優秀そうだった。魔法が使えること自体が魔法学院を卒業した優秀な人材である証だし、日頃から鍛えているのが一目で分かるほど体格にも恵まれている。


「では、私たちもお手伝いします。ただ、こちらのエフィは護身程度しかできませんので、後方支援とさせてください」

「ありがたい。では灯台と船、二手に分かれましょう。この辺りは岩礁が多く停泊できる場所は限られていますから、目星はつけられます。月明かりもありますし、小型の船でも見つけられるでしょう」

「決行は今夜かしら?」

「はい。人身売買だった場合、時間をかければかけるほど被害が増えますので……」


小型船とはいえ、人身売買ならそれなりに大きな船が要ること、密輸船にしても航行回数を増やせば発見されるリスクが高まるため大きめの船を用意するだろうこと、そして暗闇での航行は難しく月明かりのある今の時期を狙う可能性が高いこと——それらを踏まえ、計画は今夜実行されることになった。


灯台にいるのはせいぜい二人程度だろうという予測から、灯台には四人、船にはエフィたちを含めて八人を割くことになった。

人数としては心許ない。だが担当官のガルドは想定以上に強力な魔法を扱えるらしく、先制攻撃さえ決まれば問題なく対処できる、というのがレイリア先生の見立てだった。


________________________________________


「灯台の合図がどんなものか、確認しなくてよかったんですか?」

「自分たちで光を使って合図するより単純なものしか送れないはずだから、おそらく簡単なものよ。光を一度も遮らなければ危険、二度遮れば安全、そこからさらにもう一度遮れば危険……そういった程度の合図だと思うわ」


灯台側の人数が想定より多く制圧が難しいと判断した場合は、追跡のみにとどめる。あるいは二度の再点灯がなされた後、それ以上の合図を送らせないよう妨害する。そう取り決めてあった。

作戦は完璧とは言えないが、こちらが制圧さえできれば大きな問題は起きないはずだ。


私たちは日が暮れるのを待ち、予想した停泊地を見渡せる岩陰へと身を潜めた。やがて、月明かりの下に一隻の船影が浮かび上がる。


「……どうやら、あの船のようね」

「思ったより小さいですね。密輸船でしょうか」

「おそらくそうね。人身売買なら倍の大きさは欲しいところだもの」

「ひとまず安心、といったところか」


ガルドが小さく安堵の声をもらす。

人身売買だった場合、強力な魔法を使えば犠牲者が出かねないし、人質を取られでもすれば厄介だ。この人数では不安が大きく、作戦そのものも変わってくる。


「じゃあ、手はず通りにいくわよ。まずは私が船を固定する。そのあとガルドが攻撃魔法を放って、一気に突入。もちろん証拠を残すために、沈めたり燃やしたりはしないようにね」

「承知した」


正規の手続きを経ていない船であることはまず間違いない。だが何を積んでいるかまでは確認できていないため、証拠は必ず押さえる必要がある。できることなら誰も死なせずに取り押さえたい——そのぶん、制圧の難度は高くなる。

全員が息を詰める中、ついに作戦が始まった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


次回更新は6月9日(火) 20:00更新を予定しています。


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