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灯台の瞬き

エルフ×探偵×魔法ミステリです。


日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。


気軽に読んでいただけたら嬉しいです。

「海岸沿いで横になって、波の音を聞きながら優雅にジュースを飲む。最高ね」

「何も考えず、ぼーっとする時間って貴重ですよね」


今日は探偵事務所を閉めて、レイリア先生と休暇のためにキールコーストというリゾート地へ来ている。 眼前にはエメラルドグリーンの海が広がり、私たちはそれを眺めながらビーチチェアにゆったりと身を預けていた。

昨日のアクティビティで先生が取り乱していたことがまるで嘘のように、今日は穏やかな顔をしている。気持ちの切り替えの早さは、千年という歳月が磨いた処世術なのだろう。


「今日は何をする予定なんですか?」

「特に何もないわよ。たまにはこういう日があってもいいかなと思って。海の近くだから、夕飯の海鮮料理は楽しみだけどね」

「なるほど……何も事件が起こらないといいですね」

「エフィ……そういうフラグが立つこと言わないの。まぁ大した事件じゃなければ地元の治安院に任せるから」

「治安院だけで解決できるんですかねぇ」


王都でよく顔を合わせる、あの太った担当官を思い出すと、とてもじゃないけど任せきりにできる気はしない。もちろん地域によって優秀な担当官もいることは分かっているが、できるだけ事件を大きくしないようにしようとするお役所仕事の空気は、どこへ行っても大差ないように思えた。話をしてみるまでは、信用できるかどうか分からない。


「さて、そろそろ夜も近づいてきたし、ホテルに戻りましょう」


夕食の時間が始まるまで、私たちは最上階にあるプール兼バーでしばらく時を過ごすことにした。プールはガラス張りで、その横には小さなバーがあり、それなりの人数で賑わっていた。


辺りが徐々に夜の闇に包まれていく。光り輝くような昼間の海とは打って変わって、窓の外は真っ暗で不気味な水面へと変貌していた。見える灯りといえば、星の瞬きと灯台の光、それとちらほら揺れる船の灯りだけだ。


暗闇の中にぽつぽつと揺らめく光というのは、見ていると不思議と心が落ち着く。ぼんやりと眺めていると、突然灯台の光が消えた。一瞬のことだったので見間違いかと思っていると、またしばらくして光が消え、そして再び点いた。


「灯台って、ああいう風に点滅することもあるんですね」

「どこの岬の灯台かが分かるように、あえてパターンを決めて点滅させることはあるんだけど、通常は点けっぱなしにするものなのよ。ああいう不規則な消え方はおかしいわ。ウェイターに聞いてみましょうか」


先生は近くのウェイターを呼び止め、この灯台がそういう点滅をするものなのか尋ねた。すると、最近になって光が消えることが増えてきており、漁師たちの間では灯台守の怠慢だの、海の呪いだのと噂になっているという。一応調査も行ったのだが、灯台そのものに特に異常は見つからず、調査中に炎が消えることもなかったとのことだった。


「……おかしいわね。灯台に使うくらいの炎の魔道具が、そう簡単に消えるはずがないし、調査のときは何ともなかったのに日常的に起きているというのも腑に落ちない」 「魔道具の故障ですかね?調査しているときはたまたま点き続けていたとか」

「話を聞く限り、同じような時間帯に起きているみたいだから、偶然とは考えにくいわ。念のため明日、灯台守と漁師に話を聞きに行きましょう」


________________________________________


3日間の休暇の最終日だったが、調査が長引けばもう何日か滞在せざるをえない。

幸いにも、うちの事務所は国と契約していることもあって、出先での調査でも申請すれば補助が出る。休暇中の調査なので報告書には注意が要るが、タダ働きにはならないことに正直ほっとした。


次の日、まず灯台守に話を聞きに行った。

先生によれば、灯台守は一日中炎を見張っているわけではなく、定期的に確認する程度で、それ以外の時間は別の作業をしているのが通常だという。


「一日監視したとき、炎のすぐ傍にいたんですか?」

「そうです。ただ、私だけでなく3人体制で確認していまして、皆に聞いても特に異常はなかったと言っておりました」


顔に無精ひげを蓄えた痩せた男が、そう答えた。

3人体制というのは、5人いる監視担当の中から一日監視に入る人数のことで、昔からのなじみ同士らしい。


「外から炎を確認した人はいないのかしら?」

「はい。炎が消えていないか確認するよう言われましたので、内側からしか見ておりません」

「最近、何か気になることはありませんでしたか?」

「そうですね……魔道具のある階の下で作業をしているとき、焦げたようなにおいがすることがありましたね」


先生が少し考え込む様子を見せた。炎の魔道具は何かを燃料として燃やすものではなく、空気中の魔素が魔力によって励起することで高温になり、炎という現象を生む仕組みだ。何かが焦げるという現象は、本来起こりえない。


「なるほど……ありがとうございます」


灯台守の話を聞いた後、地元の漁師にも話を聞きに行った。

この辺りの漁師は昼だけでなく夜にもイカ漁を行っており、強い光でイカを集めて漁をしている。


「30年ここで漁をしているが、灯台の火が消えることなんて今までなかったよ」


ベテランの漁師はそう言って眉をひそめた。海に何か異変でも起きるんじゃないかと心配しているが、今のところ実害は出ていないという。


「どのような感じで光が消えるんですか?」

「靄がかかったような感じかな。完全に光が消えるというわけじゃなくて、ぼんやりと暗くなる感じだ。短い時間だし漁には支障はないんだが」

「一日に何度くらい起きるんでしょう?」

「そんなに回数は数えてないが……同じような時間帯に、二度か三度くらいかな」


同じ時間帯に、決まった回数。気にしていなければ見過ごすような話だが、長年海で働いてきた漁師の感覚は鋭い。


「焦げたにおいに靄がかかったような消え方、それと同じ時間帯に規則的に起きているとなると……灯台の下で何かを燃やして、煙で炎を隠しているということでしょうか」

「その可能性は高いわね」

「では、夜になったら調査か」

「このまま現場に一度行ってみましょう。何か目的があって煙を出している場合、相手の人数が分からないまま戦闘になるのは避けたい。それに、下っ端だけ捕まえても意味がないし、最悪しっぽを切られて終わりになりかねないから」


先生はそう言って空を見上げた。

事件の匂いを嗅ぎ取ったときの先生の目は、いつもと少し違う。食いしん坊で臆病なくせに、こういうときだけは妙に落ち着いていて、遠くを見るような静けさがある。千年生きてきた探偵の顔だ、といつも思う。


休暇最終日に事件の気配。心の中でこっそりため息をついてから、私は先生の後に続いて灯台へと向かった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


前回予約の日付を間違えて申し訳ございません。

次回更新は6月4日(木) 20:00更新を予定しています。


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