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収まらない渇望

エルフ×探偵×魔法ミステリです。


日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。


気軽に読んでいただけたら嬉しいです。

「ですから、お客様!明日また整理券を配布しますので、明日来てください!」

「ふざけるな!俺は常連だぞ!整理券を受け取るまで帰らねぇ」


今日の分の整理券は、私たちが並んでいたときには既に50名分が配り終わっていた。整理券は翌日のフェアリーカカオブレッドを受け取るためのものであり、これがないと並んでいても購入はできない。極まれにキャンセル分が店頭販売されることはあるが、それは明日にならないと分からない。


騒ぎを治めるために私たちの券を渡すことも考えたが、抗議しているのは数人いて、私たちの分だけでは足りないことは明らかだった。


「ちょっと待ってください。一旦冷静になりましょう!」


私は店員と客の間に割って入り、冷静に話をするよう呼びかけた。

しかし興奮した人間を落ち着かせるのは容易ではなく、声をかけても収まる気配がない。


「落ち着いて。私は探偵事務所のレイリア。王国の許可を得て、あなた方の拘束をすることができるわ。これ以上争いを続けるなら、魔法を行使させてもらう」


魔法の行使という言葉に、一部の人は抗議の声を止めた。しかし店員の目の前で騒いでいた人たちには、あまり効果がなかった。


先生は深く溜息をついて、仕方なく地面に手をやった。


「……アースバインド」


静かな詠唱と同時に、抗議していた人たちの足元から土の蔦のようなものが伸び、あっという間に体へ絡みついた。


だが、彼らは拘束されたことにほとんど気付いていないようだった。身動きが取れなくなっても、フェアリーカカオブレッドを寄こせという声は止まらない。パンが買えないことへの抗議にしては、あまりにも激しすぎる。それだけが原因とは思えなかった。


「拘束した人たちに話を聞けるような状況ではないわね」


先生はそう呟いて、拘束された人たちをそのままにし、抗議をやめた人たちと店員を少し離れたところへ移動させた。


「明日また整理券を配るということで合ってるわよね?」

「はい。整理券は毎日配布しておりまして、50名という上限はありますが、明日また来ていただければ明後日には購入できます」


常連であるならば、明日来れば買えると分かっていたはずだ。それすら待てなくなるほど、あのパンが美味しいということなのだろうか。


「ということだけど、あなたたちは明日また来ればいいんじゃないの?限定品なんて他の店でも普通にあることだし、わざわざ抗議に来るほどではないと思うのだけど」

「……頭ではわかっているんだ。でも、どうしても食べたくなってしまって。それしか考えられなくなってしまう。今でも、食べられるなら今すぐにでも食べたい」


他の人たちに聞いても、同じような答えが返ってきた。 これほどまでに食べたくなる料理など、今まで聞いたことがない。彼らの様子は明らかに異常だった。


「こういったことは、毎日あるの?」

「店が人気になって、人が押し掛けるようになってからはほぼ毎日です。以前はそれでも理性的に話ができていたんですが、ここ最近は酷くなってきて……何度言っても帰っていただけず、閉店後も続くので裏口から帰らざるをえない状況になっています」

「それはさすがに異常ね……フェアリーカカオブレッドだけがそんな状況なのかしら?」 「基本的にはそうですね。ただ、フェアリー系の他の商品も、売り切れていることへの苦情が入ることはあります」


そういえば、雑誌でフェアリーリーフティーとハニーフェアリーブレッドの口コミを読んだとき、「飲むと幸せが感じられる」「食べたら幸せになった」という感想が多かった。幸福感に関するものばかりで、他の食べ物の感想とは少し違う気がしていた。


「なるほど……今日はもうカカオブレッドの方はないのかしら?」

「ないですね。仕込みは今日行いますが、カカオブレッドを実際に焼くのは明日の朝7時からになります」

「じゃあ、今日の仕込みを見せてもらえないかしら。それと、先ほど頼んでいたフェアリーリーフティーとハニーフェアリーブレッドも、いただけますか?」

「分かりました。準備します」


先生は騒ぎを起こした人たちへの追及よりも、パン屋の仕込みを優先した。言葉にはしていなかったが、先生がどこかで「原因はあちら側にある」と判断しているのは伝わってきた。何がそう思わせたのか、私にはまだ分からなかった。


「拘束している人たちはどうしましょうか?」

「言って聞くような状態じゃないから、治安院に引き取ってもらいましょう。連絡してきてもらえる?エフィが戻ったところで調査を始めましょう」


そう言うと先生は店員と一緒にパン屋へ戻って行った。

騒ぎを起こした人たちは明らかに異常な状態なのに、先生がなぜそちらの調査をしないまま治安院に引き渡そうとするのか、私にはまだ飲み込めていなかった。

だが先生がそう判断したなら、きっと何かが見えているのだろう。私は治安院へ急いだ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


次回更新は4月30日(木) 20:00更新を予定しています。


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