表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/31

盗まれた宝石の行方

エルフ×探偵×魔法ミステリです。


日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。


気軽に読んでいただけたら嬉しいです。

「このコーヒー美味しいですね~」


いつもは粉のコーヒーを飲んでいるのだが、先生がコーヒー豆をお客様からもらってきたというので、せっかくだからコーヒーミルを使って飲んでみることにした。


カップから立ちのぼる香りは、強く主張するわけでもないのに、引き寄せられる。

一口飲むと、苦みはあるはずなのに、舌に引っかからない。

まるで最初からそこに存在しなかったかのように、滑らかに消えていく。

代わりに残るのは、淡い甘みと、澄んだ余韻。


「そうでしょ~霊果珈琲ってやつよ」

「霊果珈琲?初めて聞きました」


コーヒーの種類に詳しいわけではないが、普通はそのコーヒー豆が採れた産地の名前がつけられていることが多い。何か特別なコーヒーなのだろうか。


「ルアと呼ばれる魔獣から採取された、珍しい一品よ」

「魔獣……コーヒー豆なのに、なんでそこで魔獣が出てくるんですか?」


私の知っている限りだと、コーヒー豆は木に実がなっていて、収穫したあと果肉を取って乾燥し、殻を取り除いて焙煎するという流れだった。急に魔獣が出てきたことが不思議でならない。


「ルアは霊果と呼ばれるコーヒー果実だけを食べるんだけど、果肉は消化されて、豆は消化されず、体内の魔力によって雑味や不純な成分が分解・浄化されて、糞となってでてくるのよ。それを洗浄して、低温でじっくり焙煎したものがそのコーヒーってわけ」

「えっ……糞……?」


糞と聞いた瞬間、先ほどまでおいしく飲んでいたのだが、一瞬身体が飲むことを拒絶する。ただの好き嫌いだと分かっているのだが、私はいわゆるゲテモノ料理というものを食べたことがない。洗浄されているとはいえ、糞を飲むことになるとは夢にも思わなかった。


「ふふっ。何焦ってるの。糞と言ったけど、ただの豆よ。単に魔獣の体内を通って、お尻から出てきただけ。普通のコーヒーの十倍ぐらいするんだから、残さず飲みなさいよ~」 「は……はぁ……」


先生の説明通り、消化されていないのならば本当にただの豆なんだろうが、それでも排泄物には変わらないので、多少抵抗感がある。だが、値段を聞くと、とてもじゃないけどそのまま捨てるという気にもなれなかった。


「そういえば、この豆をもらってきたお客様から依頼はなかったんですか?」

「ああ、そうそう。これが依頼書ね」


渡された依頼書を見てみると、部屋に飾ってあった宝石類が毎日のように少しずつなくなっていき、その原因を確かめて欲しいという依頼だった。

先生にとってはあまり興味を惹かれない依頼だったので、なぜ依頼を受ける気になったのか気になるところだ。


「毎日のように……と書いてあるんですが、毎日消えているのに飾ったままだったんですかね」

「正確に言うと、それは後から気づいたこと。よほど気にかけて毎日見てない限り、1つずつ消えていけばそう簡単に人間はなくなったことに気づかないわ。多分なんか変だなと思ってから、次の日見たら1個なくなってたことに気づいたってとこね」


確かに先生の言うように、普段気にも留めないものに関しては、なくなっても全く気付かない。家から事務所までの街並みですら、毎日変わっているはずなのにその変化に気づくことはあまりない。季節の変わり目も、木の葉が完全に色づいてから初めて気づくことが多い。


________________________________________


後日、私たちは依頼人の元を訪ねた。

宝石を飾っているぐらいだから豪華な家だと予想していたが、想像通りの大きな屋敷だった。門をくぐると、玄関前に噴水があり、庭には手入れの行き届いた芝生と、丁寧に剪定された木々が並んでいた。水のオブジェというのは、裕福な家の共通点なのかもしれない。


こん、こん、とドアを叩くと、宝石をふんだんに身につけた高齢の女性が出てきた。顔の皺も、白髪交じりの髪も、長く豊かな暮らしを積み重ねてきたことを感じさせる。


「あら、レイリアさん。待ってましたわ。どうぞ中に入ってください」


中に入ると、両端に立っている大きな鎧人形が出迎えてくれた。客間に通されてコーヒーを出されると、先生が早速本題を切り出した。


「宝石がなくなる……とのことでしたが、内部の誰かということはないのでしょうか?」 「多分ないわ。ここは私と夫で住んでいて、一応警備は雇っているけど、彼はドア付近にある警備室にしか行かないし、物音がしたら大体分かるわ」


いくら信用しているとはいっても、警備員が盗まない保証はどこにもない。物音にしても、夫婦ともに高齢だ。熟睡していれば気づかないこともあるだろう。しかし、それを指摘するのは依頼人に対して失礼にあたる。

私は黙ってコーヒーに口をつけた。


「ここ2日間、偽の宝石を飾ってもらいましたが、それも取られた……ということでしょうか?」

「そうね。飾ったものは毎日1つなくなってるわ」


普通、泥棒に入ったのなら一度に全部持っていくはずだ。仮に警備員が盗んでいるとしても、1つずつ盗む理由がよくわからない。気付かれないようにというつもりがあるにしても、それなら高価なものを2つ3つ取ればいい話で、気付かれるまで取り続ける必要がない。

それに、本物か偽物かを見分けた上でも盗み続けているということになる。報酬は十分に渡していて、金銭的な余裕もあると依頼人は言う。そういった人物は雇わないとも。


腑に落ちないまま、先生の声で思考が引き戻された。


「ちょっと部屋の中を隅々まで調べさせてもらいますね」

「ええ、どうぞ」


おかしなところがあれば教えてと先生に言われて、リビングを調べ始める。広いうえに高価そうなものがそこら中にあるので、壊さないように慎重に動くのが難しかった。


「特に変なところはなさそうですけど……先生は何か見つかりましたか?」

「ん~そうね……ここの外につながっている穴みたいなものは何でしょうか?外からも中からも通れるようになっているみたいなのですが……」

「昔猫を飼ってたから、猫の通り道よ。自由に出入りできるようにしておいたの」


先生は、言われながらその小窓を念入りに調べ始めた。人が通れる大きさではない。ましてや大人はもちろん、ハーフリングの子供でも無理だろう。魔力鑑定もしているようだが、特に何かを見つけた様子もない。


一通り家の中を調べ終えると、先生は外に出て小窓の周辺を改めて調べ始めた。

しばらくして、独り言のような声が聞こえた。


「ふ~ん、なるほどね……」

「何か分かったんですか?」

「そうね……ただ、捜索は大変そう。夜中にならないと多分現れないから、夜にまたきて待ち伏せしましょう」


先生は依頼人にそう告げると、私を連れて屋敷をあとにした。

外に出ると、先生はすぐに歩き出した。何を見つけたのだろうか。色々な可能性を考えながら先生の後をついていくのだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


次回更新は4月14日(火) 20:00更新を予定しています。


続きが気になった方は、ブックマークや評価をいただけると励みになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ