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姿なき足音

エルフ×探偵×魔法ミステリです。


日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。


気軽に読んでいただけたら嬉しいです。

依頼人の女性の名前はフローラといった。

フローラと直接話をして、帰り道のどのあたりで気配を感じるかを細かく聞き出し、その場所で待ち伏せすることになった。


「この人気のなさでは、音が響きますね。ひそひそ声でも聞こえてしまいそうです」


場所は住宅街の路地だった。街灯はまばらで、辺りは暗い。風もほとんどなく、今は人の気配もないため、どんな小さな音でも夜の空気をすり抜けてくる。

これでは後をつけて追うことはとうていできない。この場で静かに観察するしかなかった。


「言葉だけでも何とかできればいいんだけど、こればかりは仕方ないわね」

「音を消す魔法はないんですか?風魔法で音を遮断するとか……」


魔法が何でもできるわけではないことは分かっていても、世の中には様々な魔道具や魔法があって、私が思いつく程度のことはたいてい誰かが実現させているような気がする。


「研究はされていて、ある程度は可能だけど、現状では難しいわね。一時的に空気をなくすか、音を打ち消すか……未来では可能になっているかもしれないけど」


あらゆる可能性を考慮して、未来の技術に対してもないとは言い切らない。先生らしいと思う。


「それで、もし後をつける人物が現れたら、確保するんですか?」


事前の話し合いで、後をつけていても言い訳はいくらでも作れると聞いていた。何日張り込みを続けても証拠が得られなければ、この待ち伏せは無駄になってしまう。


「とりあえずは人物の確認ね。誰がついてきているか分かれば、依頼人との関係から理由も見えてくるかもしれない」

「分かりました」


そろそろフローラが帰る時刻に差し掛かる。私と先生は黙ったまま、路地の奥を見つめた。

しばらくの沈黙が続いた後、その静けさを破るように、誰かの足音が遠くから聞こえてきた。


かつーん、かつーん。


先生が目配せをしてくる。私は路地の反対側にある生垣の陰から、目を凝らしてフローラが歩いてくる方向を注視した。街灯の明かりは乏しいが、近づいてくれば顔の輪郭くらいは見えるはずだ。


フローラの足音が近づくにつれて、もう一つの足音が重なり始めた。


 かつーん、かつーん……かつーん、かつーん。


二人分の音だ。フローラの言っていた通り、誰かがついてきている。しかし姿は見えない。

フローラが通り過ぎ、その足音が遠ざかっていくと、もう一方の足音だけがこちらへと近づいてくる。


目を凝らし続けた。しかし、暗い路地に人の姿はなかった。


別の方向から音が反響しているのだろうか、と思いかけたとき、足音がすぐそばを通り過ぎた瞬間、視界の端が微かに揺れた。空気が薄く滲んだような、水面が一瞬だけ波打ったような——ほんの一瞬のことで、気のせいと言われればそれまでだった。


そして足音は、フローラが歩いていった方向へと遠ざかり、やがて完全に消えた。


「……先生。足音は確かに聞こえましたが、姿は見えませんでした。何かの聞き間違いで、依頼人が勘違いしたということでしょうか」


先生は答えず、しばらく黙り込む。


考えられる説明としては、路地の構造で音が反響して、フローラ自身の足音が二重に聞こえただけ、ということくらいか。しかし先生は首を縦に振らなかった。


「彼女は毎日この道を通っている。ついてくる足音がある日と、ない日の両方があったと言っていた。環境が変わっていない以上、彼女の足音が都度変わることはないと思うわ」


そう言うと、先生はフローラが歩いてきた道を同じように歩いてみせた。何度繰り返しても、音は一人分しかしない。


「何か魔法を使っているのでしょうか」

「……この直線上に、魔力反応があるわね」


先生が地面と周囲の空気をゆっくりと鑑定した結果、フローラが歩いてきた道上にだけ、薄い魔力の痕跡が残っていた。誰かが何らかの魔法を使い、私たちの目から姿を隠していたのはほぼ間違いなかった。


「歩いてきた跡を見ると、地面が若干濡れているわね」


先生が路面を見つめながら、静かにそう言った。


「……エフィ。明日から研究所に少し籠るから、2、3日、同じように確認しておいて」


それだけ言うと、先生は足早に事務所へと戻っていった。


先生が研究所に向かうということは、魔力の痕跡や、あの不思議な現象について調べるつもりなのだろう。姿を消す魔法というのは聞いたことがない。

もし実用できるほどのものが存在するなら、とっくに犯罪に使われているはずだ。それが表沙汰になっていないということは、何か別の原理があるのか、あるいはよほど特殊な条件が必要なのか。


私には分からないことだらけだった。


ただ、先生の目に確かな関心の光が宿っていたのを、私は見逃さなかった。あの顔は、謎が面白くなってきたときの先生の顔だ。


明日からの張り込みに、改めて気を引き締めながら、私も事務所への帰路についた。



申し訳ございません。先週分予約をミスしてしまいました。

どこかで埋め合わせします。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


次回更新は4月2日(木) 20:00更新を予定しています。


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