恋愛絡みは割に合わない
エルフ×探偵×魔法ミステリです。
日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。
気軽に読んでいただけたら嬉しいです。
「う~ん……」
「先生、どうしました?」
先生がいくつかの紙を見ながら、眉を寄せて考え込んでいる。
先日の人形騒動以来、先生は王都の研究室に足繁く通い、魔道具人形の仕組みについてあれこれ調べていた。
変わった機構の魔道具だったらしく、解明に相当な時間がかかっていたようだ。
報告書はすでに書き上げて提出済みで、今はそれほど忙しくないはずなのだが。
「ちょっと困ったことがあって……悩んでいるのよ」
「私に何かできることがあれば、お手伝いしますよ」
「そうね……」
しばらく黙り込む先生を待ちながら、その真剣な横顔を眺める。
きれいと可愛いがちょうど半々くらいの先生の顔は、こうして考え込んでいるときもやはり絵になる。
1000年経ってもこの美しさが保たれているというのは、本当に不思議なことだと思う。
「……エフィ。有名な鍛冶師のドワーフが監修した特製スパイスのスペアリブと、高名な魔法使いのエルフが監修した蜂蜜カレー。どっちを選ぶべきだと思う?」
「……はい?」
「来月の祭りで、どちらの料理の屋台を出すかを決めるために決戦するって話。スペアリブにするか、カレーにするか、本当に悩むわ」
来月の祭りに向けてどちらの監修の料理を出すか雌雄を決する、という噂は私も耳にしていた。どういう形の対決なのかまでは知らなかったが、両方出せばいいのに、と思う。エルフとドワーフはそういうわけにもいかない何かがあるのかもしれない。
「はぁ……両方食べればいいのでは?」
「さすがに2つは食べられないわ。……そうだ、一緒に行かない?」
「……はいはい、分かりました」
「やった!さすがエフィね!嬉しすぎて、今なら何でも依頼受けちゃうわ!」
実は、先生が外出している間に依頼書が届いていた。先生が難色を示しそうな内容だったため、どう説得しようか考えあぐねていたところだった。渡りに船、とはこういうときに使う言葉だろう。
「あ、じゃあこの依頼、お願いしますね」
すっと依頼書を差し出す。「どれどれ」と言いながら目を通した先生の顔が、みるみるうちに曇っていく。
「これはさすがに……」
「さっき、何でも受けるとおっしゃいましたよね」
「……はい」
先生が渋々、依頼書を受け取った。
依頼はストーカー被害に困っているという女性からのものだった。
内容は一般的なストーカー被害と大きく変わらない——常に監視されているような感覚があり、夜の暗い道で後をつけられることもあるという。
ただ、手紙が届いたり直接話しかけられたりといった行動はなく、証拠になるものが何も残っていないとのことだった。
「恋愛絡みは複雑なのよ。対応が難しいし、時間もかかる」
「帰り道に張り込んで、怪しい人物がついてきたら話を聞いて、やめるよう説得する——それだけの仕事じゃないんですか?」
先生が深く溜息をついた。
「危害を加えられていれば、それでも良いかもしれない。でも今の状況では、そう簡単にはいかないわ。こちらが話しかけて相手が抵抗して、もし怪我でもさせたら責任はこちらに来るし、恨みを買って、逆に依頼人が危険な目に遭う可能性だってある」
言われてみれば確かにそうだ。帰り道が重なっただけ、と言い訳はいくらでも作れるし、積み重ねて証拠にしようとすれば膨大な時間がかかる。本当にたまたま方向が同じだった場合、こちらが強引に動けば逆に訴えられるリスクもある。
「まぁ、仕方ないわね。とりあえず依頼人と話をして、帰り道の経路を絞り込みましょう。人通りが多ければ隠れやすいけど、夜の人気のない道なら張り込みの方が無難かしら」
「二重尾行は難しいですか?」
「場所によるけど、難しいわね。周囲が静かだと足音は思いのほか響くし、相手に気づかれたら警戒して出てこなくなる。最悪、感づかれて終わり」
「なるほど」
最初に思い描いていたものより、ずっと難しい依頼だ。私たちの収入は依頼人からの報酬のほかに、国との契約による定期収入と、魔力絡みの事件を解決した際の報奨金がある。何日も張り込みが続くとなると、割に合わない可能性は十分あった。
「とりあえず、依頼人に会いに行きましょう」
先生がそう言って、渋い顔のまま立ち上がった。
引き受けてはみたものの、先生の気が乗っていないのは明らかだった。——もっとも、こういう依頼に限って、思わぬ方向へ転がっていくものだ、と後になって私は思うことになる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次回更新は3月26日(木) 20:00更新を予定しています。
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