第83話 女神市
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』
『掏摸向上』『話術向上』『痛覚減少』『魅力向上』
アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』『技能破壊』『技能詳細』
扉の先には細長い空間があった。天井と床は白い大理石のような作りで窓は見当たらない。光源もないが不思議と暗さを感じなかった。
入口に当たるところには二本の棒を利用した横断幕が掛けられ、黒い太字で『女神市』と書き殴られていた。
そこを通り抜けると縁日の屋台のような物がずらりと右側に並ぶ。店主は揃って見目麗しい。女神なのだろう。長い金髪に白い衣装。背中には純白の両翼を生やしていた。
「あなたが女神市を引き当てた強運の持ち主ですね」
「そう、なのですか? 主旨がよくわかっていないのですが」
「誰も強要は致しません。あなた自身が新たな女神を選ぶのです」
慈母のような笑みで端的に答えた。
俺は少し俯いた。女神を入れ替えるメリットが想像し難い。
胸の裡を知るかのように女神は微笑んだまま軽く頷いた。
「私の女神ガチャはデメリットのあるスキルを出しません」
「それは本当ですか?」
「この場で虚言は許されていません。全て真実の言葉になります」
「わかりました。まだ先があるようなので失礼します」
俺の視界の隅で女神は柔らかい笑みを浮かべている。
次の候補は短髪の赤髪で上半身を乗り出して言った。
「あたしを選べ。女神ガチャを二回、回せるぞ」
「今の倍ですね。達成ガチャの近道になりそうです」
「運が悪いと倍苦労するけどな。『短命』や『短慮』のセットは最悪だ」
親指を立てて笑うが俺は笑えない。暗い気持ちとなって次へと向かう。
目に飛び込んできたのは豊満な女性であった。二人の女神とは一線を画し、身体を強調するエナメル質の黒い服を着ていた。寄せた胸の谷間が露骨に見える。天然なのか。赤い唇で妖しい笑みを浮かべた。
「わたしは異性の悦ぶ顔が好き。過酷な世界へ転生させる前に、たっぷりと幸せを注いであげる。無限転生のあなたなら何度でも、フフ」
「……具体的な内容を、その、訊いてもよろしいでしょうか」
「胸やお口で」
自身の胸を両側から押して上下に動かす。口を丸く開き、こちらに媚びを含んだ熱い視線を向けてきた。美しい女性の崩れた表情に俺の下半身が反応し掛け、急いで通り過ぎた。
その後も様々な女神のアピールを受けた。
どのような窮地も一度だけ、女神の恩恵で回避できる。
女神そのものを異世界に降臨させる。時間制限はあるらしいが。
異世界先をある程度、選べるようにする能力にはかなり惹かれた。
そして最後の屋台となった。
店主役の女神は金髪のセミボブで頭頂は黒い。ダボッとしたTシャツの丈は短くヘソが見えていた。白い短パンは健康的で色気をあまり感じない。本人は現状に不満があるようでアヒル口になっていた。
俺は屋台の前で立ち止まった。向き合うと女神は無言の横目となった。拒絶を隠さない態度なので、こちらから声を掛けた。
「アピールポイントを教えてください」
「……うちは若い。だから権限も少ない。不満なら他を選べば?」
「そうですか。わかりました」
俺は一方へ歩いた。女神から引き止める声はなかった。
突き当りに開いた扉が左右に立ち並ぶ。控え目な立て看板には女神の特徴が書かれていた。一通り見て俺は決めた。
「ホント、わかってないよな」
苦笑いで虹色が渦巻く扉の中へと入っていった。
その先で見つけた女神に、ただいま、と声を掛けた。
目を丸くしてすぐには言葉が出て来ない。話が進まないので理由を俺から伝えた。
「無限転生や女神市も女神様のガチャで引き当てました。可能性の宝庫だと思いませんか?」
「……そうだね。お帰りなさい」
「帰ってきたよ、プリンちゃん。早速で悪いんだけどガチャを回していいかな」
「もちろんだよ。うちのためにも頑張って女神ポイントを稼いで貰わないと」
機嫌を直した女神は手振りで促す。
俺は女神屋の前に置かれたカプセルトイに赤いコインをセットした。気負うことなくハンドルを回し、出てきた紫色のカプセルを割った。中に入っていた紙片を見て、マジかー、と落胆した声が漏れた。
女神は明るい表情で手元を覗き込む。
「これは微妙だね。レアではないと思うけど、初めて見たよ。ま、女神歴の少ないうちだから当てにはならないけどね」
「たぶん、これって悪いスキルですよね。笑い上戸って。勝手に出るものだし」
「どうだろう。場面によるかな。場を和ませるために笑うなら大丈夫でしょ」
「緊張を強いられるところで笑うと、大変なことになりそうです。それとどのような展開で笑うのか、少し気になります」
一瞬、技能破壊のスキルが頭に浮かぶ。さすがにそれはないと即座に心の声で否定した。
その後、女神は紙片を握り、光球に変えた。胸元に軽く押し込むと、じゃあね、の軽い一言で俺を深い穴へと誘った。




