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81話 パスワードの世界(3)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』

         『掏摸向上』『話術向上』『痛覚減少』

アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』『技能破壊』『技能詳細』

 沈むような感覚で目が覚めるとドアが上へ開く。ほぼ同時に隣にいた女性が声を掛けてきた。


「着いたぞ」


 周囲を一目見て一気に緊張が高まった。

 巨大なカマクラの内部にいるようだった。半円でどこを見ても白い。継ぎ目や凹凸はあるとしても目では確認できない。

 女性は冷ややかな目で用件を口にした。


「約束のデータを渡して貰おうか」


 内容はまるでわからないが、データには心当たりがある。俺はズボンのポケットに突っ込んでいた長方形の物体をそろそろと取り出した。

 女性は素早く奪い取り、瞬時に柳眉(りゅうび)を逆立てた。当然、声にも多分に含まれる。


「ロックが掛かっている。どういうつもりだ」

「どうもこうもない。気が変わった」


 一見して逃げ場のない場所へ連れ込まれた。到底、真っ当な取り引きには思えない。経緯や具体的な内容はわからない。が、探る意味で多少は話を合わせた方がいいだろう。


 女性は長方形の物体を俺に投げ返した。自分の物を代わりに取り出し、操作してこちらに画面を突き付けた。

 そこには出来の悪いブリキのロボットがベッドに仰向けの姿でいた。その隣には見目麗しい美女が同じように横たわる。


「ちょっと、ここまできてどういうつもりよ!」


 ブリキのロボットが甲高い声を上げた。欲しい物を親にねだる子供のように両腕を振り回す。俺は仕方なく話を合わせた。


「悪事に手を染めたくない」

「ふざけるな! アンタの肩書きが管理データ室の室長だから結婚したのよ! あんな安月給とわかっていたら結婚なんてしてないわ! これが最後のチャンスなの。さっさとデータを渡して新しい身体にしてよ!」


 俺は溜息を吐いた。動画を見せた女性は見下すような笑みを浮かべた。


「考える余地はないだろう。早くデータを渡せ。お前の妻の命が掛かっている。簡単な生体移植であっても失敗はゼロではないぞ?」

「ロックの解除方法を忘れた」

「それならお前の脳に、直接、訊いてもいい」

「無理だ。元の人格を上書きして別人格の岩倉(いわくら)(のぞむ)になっている。結論として、なんの情報も引き出せない」


 迷彩服の女性は、そうか、と一言で話を終わらせた。カクンと頭を落とし、両腕をダラリと下げた。

 頭と両肩が小刻みに動き、大声で笑いながら仰け反った。狂気が宿ったような豹変ぶりに俺は本能的に身構えた。


「やられたよ。ここで裏切るとは思いもしなかった。顔を見られた上にデータの受け取りにも失敗した。責任は逃れられず、私も処分対象になるだろう」

「そうなのか。悪かったな」

「誰のせいだと思っている!」


 鼓膜が痛くなる程の大音声に軽い眩暈を覚えた。

 ゆらりと女性は一歩を踏み出した。無表情の美形に得も言われぬ、迫力が伴い、自然と後ずさる。


「生身のお前がどこまでやれるのか。見ものだな」

「そうか。俺は生身なんだな。それなら勝機はある」

「いいよ。抗えばいい。思い知らせてやる」


 俺は左足に履いていたスニーカーを脱いだ。左手に持ち、投げる格好をした。

 女性は無表情で距離を詰めてくる。その速さに対抗できず、俺は左横へ跳んだ。

 難なく軌道を修正した女性が右の拳を固め、こめかみ辺りを狙ってきた。

 空中跳躍で真上へ逃げた。予想しない動きに女性の反応が遅れた。俺は宙に浮いた状態でスニーカーを緩やかに投げる。


「愚かにも程がある!」


 女性は待ち構え、右の手刀でスニーカーを叩き落そうとした。空振りのような形で擦り抜け、顔面にめり込んだ状態で実体化した。

 それが暴走の切っ掛けとなった。女性は耳をつんざくような奇声を上げ、鍵爪のような両手で宙を掻き毟る。予測の付かない動きもあって俺は距離を取った。

 遠くに離れて動きを注視する。

 女性は止まることを知らない。いきなり走って壁に額をぶつけた。押し込むような形で両腕を存分に振るう。けたたましい金属音に相応しい火花が散った。

 感覚で十分が過ぎた。女性の動きが緩慢となり、やがて四つん這いの姿で停止した。俺は用心の為、もう片方のスニーカーを脱ぎ、胴体を狙って投げ付けた。投擲必中のおかげで見事に当たった。

 特に変化は見られず、恐る恐る近づいた。靴と同化した部分から微かな煙と何かが焼け焦げるような異臭がした。生身の人間ではなかったようだ。

 俺は女性の胸ポケットに手を入れて長方形の物体を取り出した。起動させるとパスワードの入力画面となった。三回の挑戦はことごとく失敗して、またしてもロックに阻まれた。

 仕方なく壁に(てのひら)を当ててゆっくりと回ってみる。一周したところで大きな溜め息が漏れた。

 壁は滑らかでどこに出入口があるのか。全くわからなかった。

 脱出の手段として残されている方法は物体透過しかない。持続は六秒なので壁の中をのんびりと調べてはいられない。再利用は八秒と使い勝手は良い。致命傷を負わなければ何度でも試すことができる仕様となっていた。

 俺は一方の壁と向き合った。


 ここで何もしないで餓死でもしたら、また女神に故意の自殺と決め付けられて怒られるんだろうな。


 苦笑いのあと、表情を引き締めた。誰に言うでもなく、やってやるよ、と吐き捨てるように言った。

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