↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/85

80話 パスワードの世界(2)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』

         『掏摸向上』『話術向上』『痛覚減少』

アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』『技能破壊』『技能詳細』

 住宅街を抜けると高層ビル街となった。見上げていると首の付け根が痛くなる。

 視線を歩道へ戻す。歩いている人はいなかった。車道もろくに機能しておらず、たまに猛スピードで流線型の物体が通り過ぎた。速さが尋常ではない。それもそのはず。赤い縁取りをされた標識には『200』と書かれていた。

 20ではない。その十倍の表記に軽い狂気を感じた。自動運転の可能性が高い。


「……ダメだ。誰もいない」


 足の裏がチリチリと焼けるように熱い。太腿の辺りが怠くなる。この世界の情報を得られる人物どころか、人がいない。リモートが主流で、緊急時、以外は外出をしないように思えた。

 ビルにしても最初の扉が難関で、ご用件をどうぞ、と無機質な声で()かれた。


「お尋ねしたいことがあります」

「お名前を教えてください」


 諦めて歩道へ戻る。行き先を目で定めて一方に歩き出した。

 喉が渇いた。肝心の自動販売機が見つからない。今のところ、飲食店らしい店舗も目にしていなかった。

 そこから話が広がって財布に思い至る。急いでポケットに当たるが、見つからない。小銭さえ、持っていなかった。

 俺は唯一の所持品、平たい長方形の物体を取り出した。一頻り眺めてポケットに戻す。


 ――このスマホみたいな物が財布の代わりになるかもしれないな。


 落とさないようにズボンのポケットの奥底に沈めた。


 変わらない街並みが続く。腰掛けるベンチもない。歩道に座り込みそうになるところを堪え、足を動かす。

 幾つ目の十字路なのか。意識がぼんやりして思い出せない。右を見ても同じ街並み。左を見て、瞬間、身体が硬直した。

 直進した先に木々が見える。公園が頭に浮かび、くつろぐ人々の姿が容易に想像できた。

 左に進路を決めて突き進む。活力を取り戻し、丁字路(ていじろ)に行き着いた。道を隔てた先には木々が見える。早々と車道を渡り、左に決めて力強く歩き出す。

 間もなくして出入口らしいところを見つけた。中に入ると右隅にベンチがあった。その近くには自動販売機のような物が置かれていた。

 忘れていた喉の渇きがぶり返し、長方形の物体に駆け寄った。


「いらっしゃいませ」


 音声は別にして、想像した通りの自動販売機だった。ディスプレイされた商品はどれも見たことがない。迷うような目で眺めていると商品が左へ流れて中身が入れ替わった。軽い驚きは興味となって見続ける。また新たな商品となった。

 切りがないので長方形の物体を手にした。適当に先端を向けると反応があった。


「ロックを解除してください」


 絶望で一瞬、目の前が暗くなった。もう一度、先端を向ける。


「ロックを解除してください」


 俺は苦笑いで背を向けた。木々に囲まれた公園の探索に気持ちを切り替えた。

 中は意外と広い。木々に囲まれた小路は森の中にいるような気分にさせる。開けた場所に出ると池があった。ゆっくりと泳ぐ魚影が見える。(ふな)よりも大きい(こい)を思わせた。

 生唾が湧いて呑み下す。少し遅れて腹が鳴った。


 ――この世界、俺が想像するよりもヤバイかもしれない。


 急速に力を失う。池を通り過ぎた先は小さい広場になっていた。奥の方に設置されたベンチには人がいた。

 迷彩服を着た若い女性が足を組んで座っていた。視線を落とし、平たい長方形の物体を指で操る。

 緊張しながらも俺は速足で近付いた。


「あ、あの、お時間、よろしいでしょうか」

「時間通りね。それにわたし好みの顔をしている」

「えっと、どういうことでしょう?」

「すぐに移動するよ」


 女性は立ち上がった。手にした物は胸のポケットに収め、後ろの木々に突っ込んで消えた。

 俺も覚悟を決めて踏み出すと抵抗なく歩道へ抜けた。現実と差異のないホログラムのようだった。


「こっちだよ」


 声の方を向くと路肩に流線型の物体が停まっていた。女性は寝そべる姿で軽く手を挙げた。

 俺は反対側に回り込み、開いたドアから身体を滑り込ませた。座席に落ち着くと拘束具のような輪が手足を封じる。上がっていたドアは自動で閉まり、滑らかな移動を開始した。

 車内では一切の振動を感じない。独特な浮遊感が全身をやんわりと包み込んだ。

 隣にいた女性は顔をこちらに向けた。


「緊張しているのか?」

「はい、少し」

「悪いようにはしない。そちらが妙な気を起こさなければ」

「そんなこと、思ってもいません」

「良い子だ」


 女性は微笑み、姿勢を戻した。リラックスした状態で目を閉じた。

 俺は目だけを動かす。得られる情報はないと判断して現状について考える。


 ――この女性は何者なのか。俺との関係がわからない。連れて行かれる先も訊いていない。下手なことを口にすると窮地に立ちそうだ。


 そこまで考えて自虐的に笑った。


 ――この世界にきた時点で詰んでいる。今更、危機的状況を悲観してどうする?


 急に眠気を覚えた。俺も隣の女性に(なら)って静かに目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。