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79話 パスワードの世界(1)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』

         『掏摸向上』『話術向上』『痛覚減少』

アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』『技能破壊』『技能詳細』

 生前のアパートや街の一部は跡形もなく消え去った。

 今は以前に見たどんよりとした雲が空を覆う。灰色の大地には破れた教科書や落書きされた机、クシャクシャの手紙が打ち捨てられていた。悲惨な過去の残骸を目にすると気持ちが暗くなる。


「どういうつもり?」


 冷ややかな問い掛けに急いで後ろを振り返る。

 駄菓子屋然とした店舗の前に女神がいた。丸椅子に座った姿で足を組み、口の端に咥えていた煙草を上下に動かす。


「頑張ったつもりですが」

「あれって自殺だよね。説明してくれる?」

「その、掻い摘んで言いますと、あの世界の神は人間を絶滅の際まで追い詰めました。そこで今度はその逆を狙って神の殲滅を試みました」


 嘘や詭弁ではない、と思う。

 女神は値踏みするような目付きとなった。煙草を指の間に挟むと鼻と口から白煙を吐いた。


「ぶっちゃけ、報復だよね」

「……キノリを殺されて、少しは頭にきましたが、違います。神の不在が、あの世界の人間に平和をもたらすと考えました」

「その名目で最後は『神である自分』も殺したってわけね」

「そうです」


 女神の目が細くなる。口元は歪み、セミボブの金髪が微かに震えた。


「そんなわけないじゃん。人間と神の共存が正解でしょ」

「言われてみれば……そうかもしれません」

「絶対、そうだよ。一番、難しい解決方法が正解に決まってる。それが達成ガチャってもんでしょ」


 半笑いで言われた。

 俺はそっと拳を握る。この気持ちは自分でもよくわかっていない。


「これもぶっちゃけるんだけど、うちは望君を気に入ってる。ここまで長く付き合えた転生者はいないし、いろんな感情を持って接してる。わかるよね?」

「そう、ですね。普通の転生者は一回で終わりだと思うので」

「初めは一時間だから、交流なんかもないし。送り出したらそれでバイバイね。だからね、どんな困難があっても『技能破壊』を使って貰いたくない」


 女神は俺を直視する。強い訴え掛けに耐えられず、視線を逸らした。


「絶対に使わないとは言えませんが、その気持ちに答えたいと思います」

「まあ、それで妥協してあげる。ガチャ、回してね」

「わかりました」


 パーカーのポケットから赤いコインを取り出し、店先にあるカプセルトイに入れて回した。出てきた紫色のカプセルを割り、中身の紙片に目を落とす。


「このようなスキルが当たりました」

「なんか、嬉しそうな顔がちょっとキモイかも」


 女神はアヒル口で紙を受け取る。書かれた内容を見て、なるほどねぇ~、と嫌らしい笑みで頷いた。


「言っとくけど『魅力向上』は元の人物の容姿にもよるから。必ずハーレムになるなんて思わないことね」

「もちろんです。ただ、嫌われるよりはマシで、その世界の攻略に役立つとは思っています」

「まあ、それならいいけど」


 女神は紙を握り、光球に変えると胸の中央に押し込んだ。

 間もなくお馴染みのコースで俺は深い落とし穴に落ちていった。


 けたたましい電子音で目が覚めた。

 どうやら仰向けで寝ていたようだ。白い天井が見える。全体が淡く光っていて目に優しい。

 上体を起こすと殺風景な部屋だとわかる。調度品の類いが見当たらない。

 ベッドから下りると自然に壁へ収納された。振り返ると壁に四桁の数字を入力するパネルがあった。適当に押してみたがエラー音で(ことごと)く拒絶され、三回目でロックが掛かった。

 周囲の壁をよく見ると幾つもパネルがあった。


 ――パスワードを知らない俺にはどうにもできないだろう。


 まずは股間を握る。性別は男性と即座に判明した。

 幸いなことにパジャマではなくて私服を着ていた。全てのポケットに手を突っ込むと平たい長方形に行き当たる。

 取り出すとスマートフォンのようだった。情報の源とわかっているので表情が緩む。が、またしてもパスワードに阻まれた。決まり事のようにロックとなった。

 俺は仕方なく家を出ることにした。

 玄関には革靴とスニーカーが横並びで置かれていた。カジュアルな服装もあって履き慣れたスニーカーを選んだ。

 扉を開けて外に出ると背後で、ピッ、という短い電子音が鳴った。


 ――マジかよ。どうすんだ、これ?


 扉の横の壁には数字を入力するパネルがあった。四桁ではなくて六桁になっていて軽い絶望を味わった。

 このアパートには戻れないと胸中で覚悟を決めた。取り敢えず敷地から出ると住宅街だった。

 通りに人の姿は見えない。この世界の情報を渇望しているので小走りになって隣家へ向かう。

 門扉にパネルがあった。呼び鈴らしいボタンを押すと、パスワードを入力してください、と音声が伝えてきた。もちろん知るはずがない。


「マジで最悪だ……」


 華々しい出航の前に座礁した気分となり、とにかく人のいそうなところを目指して歩き出した。

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