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78話 達成ガチャがわからない(6)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』

         『掏摸向上』『話術向上』

アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』『技能破壊』『技能詳細』

 空中散歩から帰るとキノリは忙しなく動いた。

 石で丸く囲ったカマドの上に少し(いびつ)な鉄鍋を置き、切り分けた肉と果物を入れる。途中で足りない食材に気付いたのか。慌てて森へ駆け出し、洋梨に似た形の実を胸に抱えて戻ってきた。

 着火は俺が担当した。左手に持った石に短剣の(みね)をぶつける。起こった火花が枯葉を焦がし、そのまま火種として使った。

 あとはキノリに任せていればいい。ツリーハウスで寝転がり、流れる雲をぼんやりと眺めた。

 空がオレンジ色に染まる頃、辺りに甘い香りが漂い始めた。頃合いと思い、カマドへ向かう。


「スラウス様、完成しました」

「わかった」


 カマドの側で腰を下ろす。キノリは二人分の器と木のスプーンを持ち、俺の傍らに座った。

 静かな夕飯となった。横目を使うと日頃のがっつく様子は見られず、キノリは静々と肉を口に運ぶ。その横顔がやたらと赤く思えるのは夕陽の影響もあるのだろう。


 日が沈み、俺はツリーハウスに移動した。暗がりを利用した奇襲に備え、意識を耳に集中した。

 かなり遠くで鳥が鳴いた。何かの実が落ちるような音がした。単発なので気に掛ける必要はなかった。


 不届き者の襲来はなさそうだ。


 面白みに欠ける展開ではあるが穏便に済ませたいという気持ちも働く。その理由を深く考えず、仰向けになった。眠気はないものの瞼を閉じると思考がふやけ、寝ているような気分を味わえた。


 下から軋む音がする。黙って聞いていると音が止まった。

 仰向けの姿で俺は目を開けた。


「なんのつもりだ」

「……不敬かもしれませんが……伴侶として来ました」


 キノリは全裸の姿で立っていた。無言を通すと自ら横になって寄り添った。反応がないと更に近づき、右腕に胸の柔らかさが伝わる。

 俺は聞こえるように溜息を吐いた。


「抱くことはできない」

「……女としての、魅力が、足りないから……」


 途切れがちな問い掛けにどう答えればいいのか。もどかしい言葉を無視してキノリの手首を掴んだ。そのまま俺の股間に宛がった。


「ま、まさか、スラウス様は女性!?」

「そうではなくて性別がない」

「それでも、いいので……」


 キノリは横向きで身体を密着させた。断る理由が思い浮かばず、俺も同様に目を閉じた。


 狩猟を終えた俺はツリーハウスの上に立ち、薄青い空を眺めていた。

 四季の乏しい世界で数年が過ぎた。キノリは身長が伸びた。肉付きが良くなり、女性らしい体型となった。とは言え、俺との関係に特段の影響は与えなかった。

 日々の生活も同じで狩猟と採取を各々がこなした。たまに息抜きで大空を共に飛び、物寂しい夜には抱き合って寝た。

 変わらない日常の中で時間だけが過ぎてゆく。キノリの容姿が変わり、俺は時に目を()らしたくなる。

 若々しい自分の姿が未来に暗い影を落としていた。


「スラウス様、お客様です!」


 その声で初めて足音に気付いた。一呼吸入れて飛び降り、声の方へ向かう。

 キノリと並ぶように歩く人物に目がいく。赤い短髪で端正な顔立ちをしていた。それよりも服装が気になる。白いワンピース姿で茶色いサンダルを履いていた。


 俺と同じ服装を下界で見たのは初めてだ。


 向こうも俺に気付き、ほ、本物か!? と驚きで声を上ずらせた。何度も瞬きをしていきなりこちらへ走り出した。

 俺はそれとなく身構えると相手は酷く怯えた表情で頭を左右に振った。


「ち、違うんだ! 報復するつもりは毛頭ない。頼む、俺を天界に戻してくれ!」

「……誰だ、お前は?」

「俺だよ! 二百年前に勝負に負けたアポンだ! 忘れるはずがない! もう、許してくれよ」


 天界で耳にした名前もあって、そうか、と取り敢えず口にした。

 アポンは満面の笑みで何度も頷く。キノリは小走りで追い付き、二人を交互に見つめた。


「それでどうすればいい」

「敗者の罰は下界で十分に受けた。だから、俺から奪った両翼を返して欲しい。あとは自力でどうにかできる。お願いだ、頼む」

「キノリ、神の翼の保管場所は伝承にあるのか?」


 話を振られた本人は目を白黒させた。神の信奉者を自負していても所在を知らないと見える。


「わかりません。お役に立てず、申し訳ありません」

「そういうことだ」

「待ってくれ! この人間が知らないだけで、スラウスは知って」

「忘れた。今から獣を処理する。邪魔なので帰れ」


 冷たく突き放し、キノリに視線を送った。


腐敗(ふはい)が進むといけないので、今から血抜きをします」

「よろしく頼む」


 その遣り取りを耳にしたアポンは、そうか、と口にして凄まじい笑顔を作った。目を剥き、口角を極端に吊り上げた。不審に思いながらも黙って見ていると、そのまま横へ跳んだ。

 キノリの側頭部に右拳を叩き込む。西瓜(すいか)が割れたような音が響き、真横へ回転して頭部を地面に打ち付けた。衝撃で首はぐにゃりと曲がり、視神経が繋がった眼球は赤い鮮血に(まみ)れた。

 アポンは笑顔で俺に話し掛けた。


「これで下界に未練はなくなったはずだ。俺の両翼の場所を教えてくれ」

「……何をした」

「だから未練を」


 口にする前にアポンの顔面に拳を見舞う。派手に吹き飛んだが倒れない。痛い素振りも見せなかった。

 全く効いていないという風に悠然と歩いてきた。


「不毛な争いはやめろ。翼以外に弱点はない」

「神でも殺す」

「どうでもいい。翼の場所を教えろ」


 ぞんざいな口に加え、先程と同じように口角を吊り上げた。

 俺はキノリから離れた。壁に使用していた丸木に手を伸ばす。指を幹にめり込ませて簡単に引き抜いた。

 アポンは楽しそうに笑う。


「それで殴るつもりか? 下界に染まり過ぎて神の本質を忘れたようだな」

「試せばわかる」


 俺はゆっくりとした動作でアポンの頭上に丸木を振り下ろす。その迫力の無さに避けようともしない。危機感がまるでない状態で受けた。


「なんだ、これは?」

「面白い趣向だろう」


 丸木はホログラムのようにアポンの身体を擦り抜けた。

 物体透過の有効時間、六秒が過ぎた。アポンは丸木と同化した。辛うじて残った頭部と半身はバランスが取れず、地に伏した。

 虫の息の状態で掠れた声を出した。


「なん、だ、これ……イヤ、だ……まだ、死に、たく、な……」

「死出の旅へ出たキノリの従者となれ」


 俺は引き返し、キノリの眼球を嵌め込んだ。丁重に抱えて運び、ツリーハウスの根元に埋めた。手は合わせない。この世界に祈るような神はいない。

 両翼を広げ、全力で飛び立った。

 行き着いた天界で二百年前の下界の再現を試みる。物体透過と投擲必中のスキルの組み合わせで逃れられない死を神々に与えた。

 全ての神を根絶やしにして、自身の神殿へ戻る。白い玉座に座っていると高揚が失せて、ふと思った。


 まだ神が残っている。


 俺は立ち上がった。

 神殿を支える柱に向かって大股で歩く。当たる直前で物体透過を使い、全身を中に収めた。


 六秒後、俺の意識は消失した。

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