77話 達成ガチャがわからない(5)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』
『掏摸向上』『話術向上』
アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』『技能破壊』『技能詳細』
数日が過ぎた。少女との生活は悪くない。特に料理は充実した。
俺が適当に獣を狩る。少女は果物や野菜の採取に励んだ。それらを寄せ集め、素材の旨味を活かした煮込み料理がメインとなった。
今日も広間で向かい合って座る。肉がゴロゴロと入った器を少女は顔を突っ込む勢いで掻っ込む。
空腹を感じていない俺も一緒に食べる。果物の甘酸っぱさが肉を柔らかく煮込み、数回の咀嚼で呑み込めた。もう少し塩味があればいいのだが。
そこで少女に訊いてみた。
「この世界に海はあるか?」
「ウミ、ですか? それはどのようなものでしょうか」
「海には独特な水がある。そして途轍もなく広い」
「池よりも広い……大きな湖の話は聞いたことがあります」
器を持ったまま小鼻を膨らませた。俺は微笑み、そうか、と一言で話を終わらせた。海がないと仮定すると調味料としての塩も存在しないのだろう。
もう一つ、気掛かりな話題を振った。
「獣の一件で案じた故郷との関係はどうするつもりだ」
「それは……その、私は神の信奉者として、追放された身です。相手の暴力を受け入れるつもりはありませんが、表立った反抗は関係が悪化しそうで……」
「何もしなければ、現状、何も変わらない。我と共にくるがよい」
「……故郷への天罰だけは、どうか、お許しください」
器を傍らに置き、深く頭を下げた。長い髪が顔を隠し、表情は読み取れない。身体の僅かな震えが切実な訴えに思えた。
食事が済むと俺は少女を横向きで胸に抱えた。
「こ、こんな姿で、わ、私、不敬になりませんか!?」
「我が許す。まさかとは思うが、神以外に許しを請う必要があるとでも?」
「な、ないです! 失礼しました!」
少女は顔を真っ赤にした。俺の視線から逃れようと胸に顔を近付けたものの押し付けることができない。耳まで赤くしてプルプルと震えていた。小動物のような愛らしさがあった。
「今更だが名前は?」
「……キノリです」
「我はスラウスだ」
少女はその名を繰り返し、口の中で呟く。
俺は両翼を広げ、羽ばたいた。上空の景色にキノリは、わぁぁ、と幼い子供のような声を漏らす。
少し高度を下げて目立たないように飛んだ。が、その速度に慣れていないキノリはしっかりと首に両腕を回し、顔を押し付けてきた。
集落の近くの森にひっそりと降り立つ。そこからはキノリの案内で進み、この先です、と沈んだ声を掛けられた。
先頭を無言で入れ代わると大股で歩いた。木々の合間から木材を結び付けたような塀が見える。
「何者だ!」
塀の向こう側に建てられた簡素な櫓から声が飛んできた。細身の男性が弓を構えていた。どうやら番えた矢は俺の頭部を狙っているようだった。
無視して前進する。後ろにいたキノリは、お待ちください、と焦った小声で言った。振り返らず、横へ離れろ、と返した。
「愚か者が!」
即断で矢を放つ。その矢は俺の額を通り抜けた。歩きながら後方を振り返ると地面に突き刺さっていた。
「ど、どういうことだ!?」
櫓から激しい動揺の声が上がった。物体透過のスキルはこの世界でも絶大な効果を発揮した。
有効時間を活かし、一気に集落へ入り込む。内側で待機していた二人の門番が槍で突き刺そうとしてお互いの腕を傷つけた。
騒動に気付いた者達が俺の前に集まってきた。キノリは小走りで背後に付き、スラウス様、と声を震わせた。
耳にした途端、胸中に怒りの種火が宿る。
「この少女、キノリに害を成す行為の一切を禁じる」
「お前になんの権限がある! ソイツは神を崇める人類の敵だ!」
「そうだ! 我等の仲間を闇討ちにした蛮行は決して許されるものではないぞ!」
一人の若者の言葉にキノリは、ご、誤解です、と声を裏返して叫んだ。証拠と言わんばかりに片脚を引き摺る男性が前へ出た。後頭部を大きな葉で覆い、粗雑な布でグルグル巻きにされていた。
「俺の怪我が証拠だ。夜の狩りの途中で見慣れない場所を見つけ、そこでいきなり襲われた。お前の仕業だ!」
「そ、そんなこと、していない。信じて!」
前に出そうになった少女を俺は手で引き止める。代わりに進み出ると男性の横に立ち、耳元で囁いた。
「次はないと知れ」
男性はよろけた。恐怖で目を剥き、瞬く間に唇を紫色に変えた。目に溜まった涙は拭わず、藻掻くように後ろを向くと片脚を引き摺って歩き出す。
態度の急変に周囲は驚き、白髪混じりの男性が肩に手を掛けた。瞬時に奇声を上げて振り払い、中程の家屋の中へ逃げ込んだ。外からの呼び掛けには全く応じず、二度と姿を見せることはなかった。
俺は微笑みを浮かべて周囲を眺める。
「あのような者の言葉は信じるに値しない。それと権限についてだが、キノリは我のものだ」
「……伴侶というつもりか」
「そのように受け取ってもよい」
白い顎髭を蓄えた人物にきっぱりと言葉を返す。キノリは恥ずかしそうな笑みで俯いた。その初々しい姿を目の当たりにした人々は自ずと口を閉ざした。
そこへ中年の男女が控え目な声を漏らす。
「キノリ、あんたは親不孝者だよ」
「……どれだけ大切に育ててきたか。勝手なことばかりしおって」
子供を捨てた親が口にしていい言葉ではない。
俺は右腕で手刀を作る。その場にしゃがむと同時に地面を突き刺した。簡単に肩口まで埋まって一気に引き抜いた。脅威を伝播させる意味で右手に砂利を収め、程々の力で握って開くと砂塵になって零れ落ちた。
「キノリ、話は終わった」
「はい、スラウス様」
先に俺が踵を返し、歩き出す。キノリは後ろではなくて横に付けた。来た時の暗さは消えて表情には薄日が差していた。
「この穴、ウソだろ!?」
「……信じられない」
「普通ではない……何者なんだ?」
「関わるのをやめた方がいい……」
背後からの声に俺は満足した。
森に入るとキノリが、嬉しい、と口にした。俺は微笑み、横向きで抱え上げた。指示を出すまでもなく両腕は首に回された。
二人で雄大な空の散歩を楽しんだ。




