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76話 達成ガチャがわからない(4)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』

         『掏摸向上』『話術向上』

アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』『技能破壊』『技能詳細』

 夜が()けた。俺は大樹のツリーハウスでごろりと寝転がった。

 真下から少女の寝息が聞こえる。安全を確保した途端、地べたで寝ると言い張った。恐れ多いという言葉を何度も口にして押し切られた形だ。

 俺としては寝床が不要だった。瞼を閉じても眠気が来ない。飲食もしていない。人間としての欲求がほとんどなかった。それが原因で体調不良になることもない。

 脳内で淫らな妄想をしても無防備な少女を襲う気分になれない。股間に揺れるものが付いていなかった。本当の意味のツルツルで排便もできないときたもんだ。


 生温かい無気力の沼に沈みそうだ。


 何度目かの溜め息を吐いた。そこで上体を起こす。

 枯葉を踏むような音を耳が拾った。何か目的があるかのようにこちらへ止まらずに向かってくる。

 複数の人間と判断。左手で短剣を握ると即座に翼を使い、一気に上昇した。

 相手に気付かれない高度で眺める。視力向上と暗闇無効のおかげではっきりと姿が見えた。

 不審者は三人組で腕や足の太さから屈強な男性に思えた。髪型のポニーテールがやや紛らわしい。

 出入口に当たるところで全員が立ち止まった。中を覗き込むと各々が驚きの声を上げた。

 一人が大樹に向けて指を差す。


「あれを見ろ。女の棲み処だ」

「まさか、これをアイツが一人でやったのか!?」

「信じられない。だが、悪くない。奪うか? もちろん身体も」


 一人の提案に二人が湿った笑い声で頷いた。腰に下げた短剣を手に取り、敷地内に入り込もうとした。

 俺は頭を下に向けて少し強く羽ばたいた。眼前に地面が迫る中、瞬時に逆方向へ翼を動かす。

 猛烈な風が地面を削り、三人を吹き飛ばした。森の木々に何度も身体を打ち付けられ、低い唸り声で下草に突っ伏した。その間に見つけた小石を右手で拾った。


「な、なんだ、今のは……」

「……腕が、折れた」

「ぅぅ、俺は脇腹だ」


 負傷した二人はよろけながらも逃げ出した。残った一人は少し足を引きずるようにして尚も侵入を試みる。

 素早く背後に回り込んだ俺は耳元で囁いた。


「……殺すぞ」

「だ、誰だ!」


 声の方に振り向くと同時に短剣で突き刺す。そこに俺はいない。物体透過のスキルで瞬時に跳び退り、空中へ舞い上がっていた。

 狼狽する姿を上空から無言で見つめる。懲りて逃げ出すと思っていたが意外としぶとい。警戒心を強めて敷地内に踏み込んだ。

 俺は右手の小石を、そっと握る。直接、標的は狙わない。右後方に向かって手首だけで投げた。

 かなりの速度を維持したまま急角度で曲がる。標的の後頭部へ見事に的中した。いきなりの不意打ちと衝撃に耐えられず、地面に倒れた。当たった箇所を両手で押さえ、全身を激しく収縮させた。


 大きな芋虫みたいだ。


 悲鳴を噛み殺して身悶える様子は、まずまず楽しめた。多少の出血も見られるが、辛うじて自力で立ち上がった。

 強い意志は挫かれた。大樹に背を向け、遅々とした動作で森の中へ逃げ込んだ。


「……あの女か……絶対、許さんぞ」


 逆恨みの声に俺は呆れた。罠の類いと勘違いしたとしても少女に非はない。

 (たわむ)れの一環として、もう一働きする気分になった。

 先回りをして身を潜める。足音で気付かれないように物体透過を使い、再び耳元で囁いた。


「次はないと知れ」


 反撃に出る気力もない。濁音が混ざった悲鳴を上げて逃げに徹した。木の根に足を取られても這いずって進み、涙と汗で顔をぐしょぐしょに濡らす。

 俺は上空に舞い戻って行き先を確かめる。かなり遠いところに開けた場所があった。規模としては大きい部類に入る。人工的な建造物は二桁に及ぶ。

 今回の三人組は少女のことを知っているような口ぶりだった。あそこが故郷なのかもしれない。


 滅ぼしてもいいか。


 そんな考えが頭に浮かぶ。人数にして五十人は住んでいないように思えた。穴の奥で目にした壁画では、もっと多くの人間が描かれていた。奪った命はどれほどの数に上るのか。


 今はやめておくかな。


 急速に興味を失い、ツリーハウスに戻った。眠気は来ないが仰向けの姿で目を閉じた。


 翌朝、少女が驚きの声を上げた。昨晩の後始末を怠ったことが響いたようだ。


「どうして? 昨日と違う……あれは血?」

「いなくなったのか」

「あ、おはようございます。この状況はご存じで?」

「無論だ。昨晩、獣が侵入して我が倒した。どうやら手心を加えたのがよくなかったようだ」


 大雑把な説明を少女は信じ、武勇に目を輝かせた。が、すぐに暗い顔で目を落とす。それとなく()いてみた。


「気掛かりなことでもあるのか」

「手負いの獣は気性が荒くなります。追放された身ではありますが、故郷のことが心配になりまして……」

「我に任せるがいい」


 翼を広げて一気に上昇した。延々と続く森にも終わりがあった。平原のようなところにバイソンのような群れがいた。その中の一頭に目を付けた。

 強い羽ばたきで宙を切り裂く。深い森は瞬く間に通り越し、草原でのんびり草を食んでいた一頭の首の付け根に刀手を突き刺した。そのまま内部で握って飛び立った。

 帰りは更に速度を上げた。仕留めた獲物を地面に叩き付けるようにして降り立つ。


「この獣だ」

「え、これ? えええっ!?」


 突っ込んだ手を引き抜き、軽く振ると血は消し飛んだ。驚く少女に取り敢えず微笑んでみる。


「見たことが、ないのですが」

「草原から森に迷い込んだと思われる」

「そう、なんですね? でも、こんな大きな収穫は初めてなので、とても嬉しいです」


 時間の経過で落ち着きが戻り、少女らしい笑みが零れた。

 なんとか誤魔化せたようで俺の表情も緩んだ。

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