75話 達成ガチャがわからない(3)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』
『掏摸向上』『話術向上』
アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』『技能破壊』『技能詳細』
少女は土下座の姿勢を崩さない。極度の緊張で身体が震えているようだった。
畏怖の対象となる翼は折り畳み、瞬時に背中へ収めた。その姿で威圧感を潜めて語り掛けた。
「顔を上げるがよい」
「……よろしいのですか?」
「もちろんだ。久方ぶりの地上で事情を把握していない。細々とした質問をするが、よいな」
「下賤な者の言葉に耳を傾けていただけるとは、身に余る光栄です」
ゆっくりと顔を上げた。直視はできず、床の一点を見つめていた。
俺は見下ろす形で腕を組んだ。
「我が壁画を壊すと思ったようだが、何故だ?」
「……私は微塵も思っていませんが、神を恐れる者達がいます。それもあって勘違いしました。お許しください」
「人知を超えた力は理解されず、多数の意見で如何様にもなる」
「その温情に、心が震えます……」
少女は再び、亀のように畏まる。話術向上のスキルの影響は大きかった。
ただし俺としては複雑な心境だ。二百年を経ても地上には正しい情報が伝わっていた。どちらかと言えば少女が邪教徒に思える。
ちらりと横手にあるカゴを見た。見慣れない果物は供物なのか。艶のある表面で新鮮さはわかる。齧り付くと果汁が飛び散るような絵面も想像できた。
目にしても食欲が湧いて来ない。喉の渇きもなくて妙な焦りを覚えた。
縮こまった少女に目をやる。髪は意外と綺麗で目鼻立ちも悪くない。薄着もあるのか。そこそこの胸の膨らみが見て取れた。
「この場で全裸になるがよい」
「……貧相な身体で、お目汚しになると思いますが」
少女は立ち上がった。何の疑いも持たず、全裸となった。張りのある胸や股間に目を背けず、じっくりと眺めた。
結果として何も思わなかった。感情が欠落している。思った矢先に自身の性別が気になった。いきなり股間を鷲掴みするわけにはいかないので訊いてみた。
「我はどのように見えるか答えよ」
「全てが神々しいです」
「具体的に述べよ」
「……身長が高く、気品のある顔立ちは近寄り難い威光を放っています。拙い表現で申し訳ありません」
モジモジするような仕草で頬を赤らめた。愛らしいとは思うがやはり感情に訴えるものはなかった。
「服を着てよい」
「申し訳ありませんでした」
身体を隠すように手早く着た。乱れた髪は手で撫で付ける。
その間に今後の行動を考えた。
「住んでいるところはどこにある」
「この近くですが」
「案内を頼む」
意味を知ると少女は身振りで慌てた。声にはならず、はい、と小さく答えた。
少女が先頭に立って穴を抜けた。木々の合間を歩き、たまにこちらを振り返る。
代わり映えのしない森を歩いてゆくと大樹に突き当たる。幹に木の杭のようなものが刺さっていた。階段の役割を果たし、その上に木の板が敷かれていた。壁や屋根のないツリーハウスのようだった。
「ここに独りで生活をしているのか」
「おっしゃる通りです」
「両親や兄妹はいないのか」
「……いますが、村から追い出されました」
目を伏せて静かに拳を握る。その表情にほんの少し、感情が動いた。
「森の中を徘徊する獣に備え、木の上を住まいとしているのか」
「それもありますが、同族にも狙われている身なので……」
「そうか。持っていた短剣を渡すがよい」
「粗雑な作りですが」
少女から短剣を受け取った。両腕は左右に広げてスタンディングスタートの構えとなった。行動を起こす前に指示を与える。
「木の上にいて身を低くするように」
「わかりました」
杭を足掛かりにして素早く上がると身体が見えなくなった。
見届けた俺は低い姿勢で飛び出し、木々を薙ぎ倒す。落雷にも似た大きな音に小さな悲鳴が混じった。
大樹を中心にして余計な木々は全て取り除いた。所々に残った根は適当に蹴り飛ばす。抉れた大地は木を箒代わりにしてならし、他は横倒しで積み上げて塀とした。
ものの数分で上空から見た集落のような場所が完成した。
木の上にいた少女は立ち上がってクルクルと回り始めた。
「……こ、これは……信じられない……」
「神の力を疑うのか」
「そ、そんなこと、ないです! でも、こんなことが、本当に起こる、なんて……」
少女は杭を踏み外しそうになりながら下りてきた。感触を確かめるように周辺を歩く。
次第に足が速くなる。降り注ぐ陽光を全身に浴びて笑顔で走り出した。
見ていると心が和む。神に等しい存在であっても感情は残っていた。悪くない気分になった。
「広くて暖かい! 光がいっぱい!」
その喜びを耳にしながらひっそりと服の上から股間を触る。つるんとした感触で理解した。
少女の喜びは尽きない。お姉さんの気持ちで見守った。




