73話 達成ガチャがわからない(1)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』
『掏摸向上』『話術向上』
アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』『技能破壊』『技能詳細』
生前に住んでいたアパートを再現した部屋で、二日程、何もしないで過ごす。前回の世界では精神がボロ雑巾にされた。達成ガチャを辞退して自ら招いた不幸ではあるが。
それもあって戻ってきた直後は極度の緊張を強いられた。女神の苛烈な責苦を想像するだけで身体が震えた。
その覚悟は全く意味がなかった。どこか緩い笑みで、仕方ないよ、の一言で許された。結果的には悪くないが素直に喜べない。気が付けば溜め息を吐いていた。
扉がノックされた。施錠はしていないので勝手に開いた。
女神がホットパンツ姿で現れる。右手にトレイを持ち、笑顔で言った。
「今日のお昼は焼きそばだよ」
煎餅布団から起きた俺は即座に動く。壁に立て掛けた座卓を散らかった中へ強引に置いた。下敷きになった雑誌は足で蹴り飛ばす。
「少しは片付けなよ」
「そうですね。時間がある時にやっておきます」
「冷めないうちに食べてね」
卓上にトレイを置いた。
「ありがとうございます」
言いながら皿を見下ろす位置に座るとソースが香る。被せるように半熟の目玉焼きが載っていた。
添えられたフォークで目玉の部分を突き刺し、焼きそばと絡めた。スパゲッティーを食べる要領で巻き、一口にした。濃厚な黄身が絡み、甘辛いソースにコクが増す。厚切りの豚肉はチャーシューのように柔らかい。鮮度のあるキャベツは歯応えがあり、混ざり合うことで調和が取れた。
「どうかな」
「とても美味しいです」
「そう、それはどうも」
隣で足を崩していた女神は髪に手櫛を入れて、さりげなく顔を隠した。
食べ進めていくと肉厚のウナギが紛れ込んでいた。角切りにした牛肉はとにかく柔らかい。数回の咀嚼で溶けるようになくなった。更に奥にはスッポンの肉のようなものも紛れていた。意図が何となくわかる。
食べ終えた俺は女神に向かって言った。
「これからガチャを回します」
「もう少し、ゆっくりしてもいいよ」
「自分の意志です」
立つ前に手を合わせて、ごちそうさまでした、と締めの言葉を口にした。
速足で外へ出ると隣の扉を開けた。トイレに置かれたカプセルトイにコインをセット。ハンドルを回し、出てきた紫色のカプセルを割って紙を取り出す。
それを手に自分の部屋に戻り、女神に手渡した。
「この『痛覚減少』は戦闘用かな。でも、あまり無理したらダメだよ。痛みに強くなるだけだから」
「わかりました。ですが、今後はもう少し頑張れそうです」
「それと望君はどこにいても独りじゃない。うちがここで見守っている。それを忘れないでね」
「……胸に刻んでおきます」
にっこり笑った女神は紙を強く握る。開くと掌に光球が現れ、そのまま俺の背後に回ってポンと背中を押した。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
手前に開いた穴に進んで飛び込んだ。
俺は白い大理石のような椅子に足を組んだ姿で座っていた。着ている服まで白い。ゆったりしたワンピースで足には革製のサンダルのような物を履いていた。
目で周囲を見た。柱に隠れていない限り、誰もいない。立ち上がって目の前の階段を下りた。真っすぐに進み、限界で足を止めた。
果てのない青い空が広がる。視線を下げると神殿が幾つも見える。その下は雲海のようになっていた。
神殿のある土地が空に浮いている!?
そのようにしか見えないので、すんなりと事実を受け入れた。取り敢えず、神殿の周りを歩いてみた。十分ほどで一周した。
どこにも行けない。食料や水もない。いきなりの八方塞がりに陥った。
もう一度、個々の神殿に目をやる。辛抱強く見ていると白い翼を生やした人物が視界を横切った。長い金髪で白いワンピースを着ていた。茶色いサンダルは革製に思えた。
その人物はかなり下にある神殿へ吸い込まれるように入っていった。
俺と似たような姿で空を飛んでいる。試す価値はあると思い、背中に意識を集中した。大きな翼で羽ばたく姿を強く思い描く。
身体に相応しい翼が生えた。手足のように思った通りに動かせる。
試しに強く羽ばたいてみた。
「はああっ!?」
身体が急上昇。下を見ると自分のいた神殿が親指の爪くらいの大きさになっていた。意外と力加減が難しい。習うより慣れろの精神で翼の使い方を色々と試す。
三十分弱の時間を費やし、まともに飛べるようになった。まずはゆっくりと下降して長髪の人物が入り込んだ神殿へ向かう。
出入口付近の大地に降り立った。翼は折り畳んで背中に収めた。
黙って神殿内に踏み込む。似たような作りで関心が薄れた。最奥には玉座があり、女性が両脚を斜めに揃えて座っていた。
俺に目を留めると自ら歩み寄り、首を垂れた状態で片膝を突いた。
「スラウス様、ご来訪賜り誠にありがとうございます」
「堅苦しい挨拶はしなくてよい」
「じゃあ、やめるわ」
女性は立ち上がると不機嫌な顔で、なに用? と訊いてきた。
「我々は神か?」
「そりゃ、神でしょ」
「神に寿命はあると思うか?」
「それぞれでしょ」
女性の右脚が貧乏揺すりを始めた。質問を変えた方が良さそうだ。
「下界に人間はいるのか?」
「二百年前にアンタとアポンが殺めた数を競ってたよね? 根絶やしにしてなければいるんじゃないの。興味ないけど」
さらりと怖い内容を吐露した。俺は神というより、悪神なのではと思わなくもない。
「そうだったな」
俺は踵を返して足早に戻る。後ろから声が飛んできた。
「下界にいくつもり?」
「久しぶりの戯れだ」
「ま、いいけど」
歩きながら声を聞き、軽く跳んで頭から落ちてゆく。雲海に突っ込み、視界が白く染まった。
突き抜けた先には緑の大地が薄っすらと見えた。




