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72話 過酷な戦い(8)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』『掏摸向上』

アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』『技能破壊』『技能詳細』

 日に日に缶詰の入手が難しくなってきた。労力も増して身体の疲労が一日で回復しないようになった。

 日中は陽射しの厳しさで敵と出会う確率はそれほど高くない。隠れられる要素が激減するので身体への負担は大きくなる。

 夜は敵の警戒心が強まる。鬼火のように揺れるランタンが周辺を漂い、スキル頼みの逃走を何度も試みた。

 敵の多さもあって光は外出を控えた。部屋に籠っていても気は抜けない。そこで守りに徹した女児を二人、スキルで生み出して待機させた。


「行ってくる」


 早朝もあって光は横になっている。両脇には女児が立ち、緊急時に備えた。

 俺は出掛ける間際、女児の頭を撫でた。会話はできないが(てのひら)に頭をグイグイと押し付けてくる。その程度の感情は持ち合わせていた。

 中腰で通路を歩き、扉代わりの板の前で立ち止まる。耳で外の安全を確認してから素早く移動した。

 過ごし易い温度で仄かに明るい。元々の拠点へ向けて走り出す。

 視界に一人の男性が入り込む。位置的にはかなり遠い。紙のような物を熱心に見ている。こちらには気付いていないようなので腹這いになって様子を窺う。

 歩きながら何かを探すような動作をした。距離があるので俺には気付いていない。向きを変えた直後、直刀を所持していることがわかった。

 これ以上の情報は引き出せない。そう判断した俺は無防備な背中に向けて飛び出した。相手に音が届きそうな位置で物体透過を使い、左手の指の間に二本の短剣を挟んだ。

 感覚で八秒を超えた。すかさず男の腰の辺りにタックルを決める。小さな叫び声で前に倒れ、俺は背中に馬乗りになって押さえ付けた。

 左手の短剣を一本、脅し目的で大地に突き立てた。


「抵抗すれば殺す。わかったか」

「わ、わかったから、殺さないでくれ」

「俺の質問に答えろ。その紙はなんだ?」


 倒れても手放さない。余程、大事な物らしい。


「あんた、まだ貰ってないのか? 我々の最大の敵を描いたものだ。隊員達に配布されているが、もしかしてあんたは」

「俺のことはどうでもいい。その紙に描かれた人物を見えるようにしろ。おかしな真似をすれば、わかっているな?」

「も、もちろんだ」


 紙の皺を手で伸ばしてから引っ繰り返した。そこに中年男性とワンピース姿の少女が描かれていた。手書きではあったが、よく特徴を捉えている。


「悪くない出来だ。少し俺が老けているのが気になるが」

「ま、待ってくれ。悪い冗談だ。そんなこと……ないよな?」

「……俺達に敵対する、お前達の人数を教えろ」


 相手の震えが伝わる。生唾を呑むような時間が過ぎ、怯えを含んだ声で言った。


「あ、あれだ。いろんな隊があって、今まではバラバラに行動していたんだが、その、相手が二人とわかって集結を始めた。はっきりした人数は俺にはわからないが、たぶん、千人は超えていると思う」

「二人を相手に、その人数とは大仰が過ぎるな」


 思っていた以上に多い。普通に考えれば一方的な虐殺で終わる。


「……そうは、思わない。あんたは武器を擦り抜けたり、消えたりできるんだよな? あの恐ろしい子供達を従えているのも十分に脅威だ」

「情報まで共有しているようだな。これが最後の質問だ。お前達の拠点はどこだ?」

「あんた達のいた元拠点だ」

 単独での缶詰の回収は不可能に思えた。備蓄分は少ない。戦いを避けたとしても餓死は免れそうになかった。

 次第に腹も立ってきた。大地に突き刺した短剣を引き抜き、男の頬に当てた。

「一人でも多く殺しておくか」

「ま、ま、待ってくれ。そ、そうだ。二日後の早朝にあんた達の棲み処を襲撃すると連絡があった」

「俺達の居場所を突き止めたのか? 方角を指で示してみろ」

 男は俯せの状態で顔を動かし、右手で一方を指さした。その先には確かに棲み処があった。視力向上でも米粒くらいにしか見えない。

「命は取らない。俺に漏らした内容は黙っていろ。口外すれば、わかるな?」

「も、もちろんだ。絶対に誰にも言わない。信じてくれ」

 俺は立ち上がった。左手の指の間に三本の短剣を挟み、全速力で戻っていった。


 部屋に入ると光は起きていた。俺は早口で伝える。

「ここが敵にバレた。俺達がいた元拠点に千人を超える人数が集まっているらしい」

「マジで!? どこ情報よ」

「隊員の一人から聞き出したんだよ。二日後の早朝、ここは戦場になるって」

「じゃあ、早く逃げないと」

 光は残りの缶詰を両手に持ち、今にも駆け出しそうな勢いを見せた。

 俺は掌を突き出して動きを制した。

「少し話を聞いて欲しいんだけど」

「いいけど、なに?」

 最初に腰を下ろした。長話になると思ったようで光もペタンと座った。

「前に達成ガチャの条件を和解と言ったけど、あれは間違いかもしれない」

「そうなの?」

「それよりも二人で千人の敵と戦って勝つ方が難しいように思う。どうだろう」

「それは、そうかもだけど、無理でしょ?」

「……少し考えがあるんだ。試してもいいかな。できれば今から準備に取り掛かりたい。物を高く積み上げるという一つの目的で、女児を新たに三人くらい欲しいんだけど……痛いからダメかな」

 その提案に光は渋い表情となった。無言のまま三本の指を針で刺し、新たな生命を生み出した。


 二日目の早朝を迎える。瓦礫を集めて作った高台に俺は胡坐を掻いた。拠点のある方向を黙って睨み付ける。手前にはこんもりとした三つの山があり、素材の粗い順に並べた。

 光は下にいた。戦闘に特化した女児に囲まれ、とにかく落ち着きがない。

 まだ敵は来ない。手近の山から欠片を指で摘まんで掲げた。適当な石くれを真下に置いて物体透過を使った。五秒くらいで欠片を落とす。石くれに重なった瞬間、融合して歪な形となった。

 俺は立ち上がった。

「敵がきたぞ!」

 怒鳴ると光は肩を(すく)めて後ずさる。

 強大な敵は横に広がって一斉に走り出した。巨大な波のようだった。

 雄叫びが聞こえる。皆が殺気立ち、殺せ、と洪水のような声が押し寄せた。気迫に呑まれないように俺も叫んで応戦した。

 個々の顔がはっきりと見える状態になった。俺は左手の指の間に三本の短剣を挟み、その姿で両手に石くれを握る。すかさず物体透過を使い、視界向上で押し寄せる敵に向かって投げ付けた。投擲(とうてき)は必中なので的を外さない。しかも六秒後、石くれは肉体に取り込まれ、次々と倒れた。

 前線の突然の異変に波が崩れた。八秒が経過して俺は数の多い砂利に切り替えた。視界に入った敵は誰も逃げられない。身体の至るところに砂利を埋め込まれ、未知の痛さで等しく転げ回る。

 砂も大量に()いた。細かい砂粒が身体に取り込まれ、人の形をした何かに成り果てた。動きが小刻みで意味のない吃音(きつおん)を発し、その場に派手に倒れた。痩身の男性も混ざっていて口から泡を吹いていた。

 逃げ出す(やから)は戦闘に特化した女児の恰好の獲物となった。無残に刻まれ、または両断された。高揚した光は、けたたましい笑い声で次々と女児を戦場に投入した。


 (おびただ)しい亡骸が積み重なる。戦いは終わった。

 高台から降りると光の元へ向かう。こちらの足音に気付いて顔を上げた。力なく笑うと、お疲れ~、と気の抜けたような声を出した。

 こちらも似たような状態で軽く手を上げる。

 そこに場違いな声が降ってきた。

「おめでとー。達成ガチャ、お届けですよー。以前よりもチリンチリンの大放出なのですー」

 俺と光は疲れ切った顔で空を見上げた。

 降下する黄金のカプセルトイの上に純白のイブニングドレスを着た女神が乗っていた。四本のハンドベルを両手に持ち、上下に激しく振った。

 ゆっくりと大地に降り立つと、ふんわり跳んだ。

「今回の達成ガチャは二人に権利がありますー。回せるのは一人ですよー。どうしますかー」

「それなら彼女に」

「えー、いいのですかー。達成ガチャですよー。前回はハズレ寄りなのでぇ、今回はきっとレアものが出ますよー。それでも譲りますぅ?」

 あざとく前屈みで()いてきた。ちらりと内部の胸が見える。良い匂いまでする。ムクムクと欲望を育てるような香りに俺は強引に顔を(そむ)けた。

「それで構いません」

「もっと、良いことしてあげようと思ったのにぃぃ」

 悔しがるような声を最後に無音となった。黄金のカプセルトイも消失した。

 権利を失った俺は干渉もできないようだ。適当に座って待つことにした。

 変化は起こらず、時間だけが流れた。

 いや、すでに起こっていた。立ち上がると一方へ大股で歩く。死体の合間に缶切りが落ちていた。側にはワンピースの切れ端のようなものがあり、そこにメッセージが残されていた。


『ひとりにしてごめん。もっと良い世界に行きます』


 今までに感じたことのない絶望が俺を襲う。徐々に気温が上がる中、心の底から震えた。

 元の拠点に戻った。誰もいない。世界に独りを強く思わせた。

 水中に没した缶詰で日々、命を繋ぐ。自殺する勇気はなかった。

 最期は穴蔵のようなところに横たわり、浅い呼吸でひっそりと息を引き取った。

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