70話 過酷な戦い(6)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』『掏摸向上』
アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』『技能破壊』『技能詳細』
目が覚めた。上体を起こし、軽く頭を振ってみる。寝不足による鈍痛は無かった。
早速、部屋を出た。物体透過を使って最短距離で光の部屋へ入り込んだ。
ベッドにはいなかった。床にペタンと座って缶詰を開けていた。俺に気付くと表情を和らげる。
「いいタイミングだね。もちろん、一緒に食べるよね?」
「そうだな。その前に話をしたいんだけど」
「あとじゃダメなヤツ?」
訊かれると迷ってしまう。そこそこに腹は減っていた。
「まあ、あとでいいか」
一言で流して対面に胡坐を掻いた。光は最初に蓋を開けた缶詰に薄い木切れを差し込んだ。
「じゃあ、これをあげる」
受け取った俺は中身をまじまじと見た。黒に近い茶色で鼻を近付けると香ばしい匂いがする。実際に食べると甘辛く焼き鳥に近い味がした。
光は新しい缶詰を開け始める。切れたところから丸まって中身が少し見えた。白っぽいのでツナ缶を想像した。
二人で四缶を食べた。栄養価が高いのか。腹は十分に満たされた。
光は両脚を投げ出した姿で言った。
「話ってなに?」
「敵対している連中が、ここを燃やすかもしれない」
「どうやって?」
「ランタンみたいな物を壁の外から投げ込むそうだ」
中途半端な欠伸をした。目尻を指先で拭う。
「ここはかなり広いし、少しくらい投げたからって大事にはならないでしょ」
「そうかもしれないけど、木材が多く使われているから気を付けた方がいいと思う。君のスキルで女児の数を増やすのはどうかな」
「できなくはないけど、ちょっとは痛いんだよ? 傷として残るのも嫌だし」
咎めるような目をされて強く出られない。過去を思い返すと負傷した隊員達の姿が、ありありと頭に浮かぶ。
「わかった。しばらくは俺が缶詰を探しながら夜の見回りに当たるよ」
「よろしく。見つけた缶詰は貯蔵庫にお願いね。眠くなったんで」
光はふらりと立ち上がり、ベッドへ横になった。その姿を見て俺は速やかに外へ出た。
日中は暑さが厳しいので行動は最小限に抑えた。スキルで生み出された女児は苦痛を感じないのか。与えられた一つの目的を黙々とこなす。
夜は別で精力的に動いた。缶詰を探し出す作業の合間に壁際で耳を澄ます。複数の足音や声を潜めた会話は聞こえて来ない。取り越し苦労の状態が続いた。
「……今日も、同じか」
壁際に落ちていた缶詰を拾い上げた。中腰の状態が長かったので上体を後ろに反らした。何回か繰り返し、大きな溜息を吐いた。
探す範囲を広げた。初めてのところにも踏み入った。軽そうな瓦礫は両手を駆使して退けた。
その過程で小さな屋根が目に付いた。ひしゃげた形で地面に張り付いていた。足で押すと地下への階段が現れた。三段目以降は水に浸かっている。
俺は躊躇なく階段を下りていく。水中歩行のスキルの恩恵で息苦しさは微塵も感じなかった。階段の幅が狭いので壁に意識が向いた。石で組まれたような繋ぎ目がない。手彫りのように小さく波立っていた。
長い階段を経て下へ到達した。大股で三歩くらい先に傾いだ扉があった。蝶番に当たる部分が腐食しているように見えた。
試しに扉の隙間に指を入れて引っ張ると簡単に外れた。壁に立て掛けてゆっくりと中へ入る。
行き止まりの小部屋には缶詰が山のように積まれていた。その数はゆうに百を超える。一度に持ち出せる量ではなかった。中身を確認したいので四缶を適当に選んで肩に掛けた袋に入れた。
帰りは自然と足が弾んだ。
翌朝、光の起床に合わせて部屋を訪れた。少し早かったようだ。ベッドの中、横向きに丸まっている。
小さな背中を見ながら肩に掛けた袋をそっと下ろす。その近くで胡坐を掻いて静かに目覚めを待った。
三回の寝返りで目を覚ました。こちらに気付くと目を擦りながら、おはよう、と声を掛けてきた。
「食糧問題は解決したかもしれない」
「……そうなの?」
反応が鈍い。ベッドから下りて床にペタンと座った。大きな欠伸をして強い瞬きをした。完全に目覚めたと判断して話を進める。
「ここから北東の位置に階段を見つけた。水に浸かっているので普通の人間には入れないと思う」
「それって私達も入れないでしょ」
「水中歩行のスキルがあるので奥まで調べてきた」
「そんなスキルもあるんだ! それでどうだった?」
「地下には小さな部屋があって、そこに大量の缶詰が置かれていた。中にも水が入り込んでいて盗られる心配はないよ。サンプルとして四缶、持ち帰った」
湿った袋から全ての缶詰を取り出した。光に渡すと嬉々とした表情で缶切りを使う。開いた瞬間、中身を指で掬って口に含んだ。
「……美味しい。今までにない味で、例えると……牛肉の時雨煮が近いかな」
「白いご飯が食べたくなるね」
「そう、それ! 上に載せたら牛丼みたいになりそう。なんかさ、思い出したら急にお腹が減ってきた」
光は今までにない笑顔を見せた。釣られた俺も笑った。
開けた四缶を瞬く間に平らげた。幸せの余韻に浸っていると急に胸がざわつく。その場で小刻みに息を吸った。
「焦げ臭くないか?」
「どうだろう……そうかも」
「まさか、朝に!」
立ち上がった俺は物体透過で外へ飛び出した。
方々で黒煙が立ち昇り、空の色を変えた。その中、怒号を上げた集団が目に留まる。圧倒的な数の暴力で女児を薙ぎ倒し、迫ってきた。
俺は急いで引き返し、光に早口で伝えた。
「奇襲だ! 早くここから出るんだ!」
「え、ちょっと待って。缶詰は」
「そんなことを言ってる場合じゃない。敵がすぐそこに迫っているんだ」
建物に侵入された。女児の足止め効果は軽微で光の表情が見る間に強張った。
「ここだ! 逃がすな!」
扉が激しく鳴った。軋む音が混ざり、数秒で内側に倒れ込んだ。
その向こうに殺気立った者達がいた。その中には痩身の男性が含まれていて、俺を見ると血走った眼を見開いた。
「ここで終わりだ!」
部屋が狭く思える程の人数に光は声を出せない。俺は身を低くして前に立ち、背中に乗れ、と小声で言った。
「私、大人が」
「いいから、乗れ!」
敵は待ってくれない。直刀や歪な鈍器で一斉に襲い掛かる。
背中に重さを感じた。震えも伝わるが配慮はしない。
俺は大きな賭けに出た。




