69話 過酷な戦い(5)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』『掏摸向上』
アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』『技能破壊』『技能詳細』
急いで中央へ向かう。出会う女児は等しく俺に甘えてきた。背後から殺到する音が大きくなった。
「構ってやれなくて、ごめん」
二人の女児の頭を適当に撫でると俺は横手の瓦礫に飛び込んだ。隊員達に行き先を悟られないように物体透過を使う。遠回りして中央の建物の壁を通り抜けた。
最初の時と同じように女児を避けて目的の部屋に辿り着いた。
ベッドの縁に座っていた光は俺の方を向いた。
「どうだった?」
「交渉は決裂しました。それどころか、私は敵と認定されました。ここも安全とは言えません」
「この世界に安全なところはないよ。何も変わらなかった。ただ、それだけだね」
光はベッドに倒れ込んだ。両腕を広げた姿で訊いてくる。
「それより岩倉さんは、これからどうするつもり?」
「……今後の活動は未定です。ですが、隊には戻れません」
「それなら私と一緒に大人達を皆殺しにする? どうせ達成ガチャは無理だし」
戦慄の内容をすんなりと口にした。憎悪の根深さを感じる。
「短い期間ですが、隊長をしていました。あちらの事情もわかるので命の遣り取りは避けたいと思っています」
「あとさ、その喋り方ってこちらの世界に合わせたものだよね? 素でいいよ。なんか大人を意識させる口調は、あんまり好きじゃない」
「わかった。じゃあ、今後は素で喋るとして、マジでどうしたらいいんだろう。食料問題もあるし、野生動物とかはいないのかな」
狩りができれば食糧は確保できる。血抜きの方法は以前に転生した世界で何となく理解した。
「私は見たことがない。鳥も飛んでいないと思うよ。ここで食料って言ったら缶詰だよね」
「マジか。鳥がいたら捕まえて食料にできるんだけど」
光は上体を起こした。俺の方を見ると、どうやって? と訊いてきた。
「俺のスキルに『投擲(必中)』がある。だから物を投げれば狙ったところに必ず当たる」
「それって大人にも使えるよね。遠くからナイフを投げて首に刺すとか」
「できるが、少人数に限られる。あと殺し合いは進んでやろうとは思わない。さっきも言ったけど」
光は冷めた目で、そう、と素っ気なく答えた。
その日を境にして俺は光の元で過ごすことになった。早々と部屋と仕事を与えられた。主な活動は缶詰の確保だった。探索する場所は本拠地で、ほぼ半分が未踏の地となっていた。
昼間は陽射しが厳しい。歩くだけで体力を削られた。それもあって夜が活動のメインとなった。暗闇無効のおかげで思いのほか捗った。
今日も新たな場所で缶詰を求めて動き回る。
「ここもハズレか」
俺は瓦礫の山から抜け出した。その足で別の半壊した建物へ入り込む。天井が抜け落ちて足場が非常に悪い。物体透過を使って手早く巡る。
ひしゃげたコップの近くに缶詰が落ちていた。周囲を調べると合計で五個を確保した。肩に掛けた袋に手早く収める。
更に範囲を広げて境界となる外壁の辺りを探した。
数秒で足を止めた。微かな足音が重なって聞こえる。出所は壁の向こう側で一方に向けて歩いていた。
相手に気付かれないように物体透過を使い、近い距離を維持した。
感覚で二十分弱。囁くような会話を耳が捉えた。
「壁は厚くて高さもある。他の侵入経路は見つからない。やはり正面突破するしかないか」
「外から攻撃するのはどうだろう」
「どうやって?」
「夜間等に使う明かりを投げ込む。副隊長と同行した時、中の様子を少し見た。木造が多かったので効果はあると思う」
「悪くない。報告に戻るぞ」
それ以降、会話は途絶え、足音も急速に遠ざかる。
同時に俺も速足となった。目的である缶詰は無視して建築物や瓦礫に注視した。
建材に多くの木が使われていた。瓦礫にも木材が混ざる。投げ込まれる数にもよるが大規模な火災の発生が危ぶまれた。
俺は仕事を中断して光の部屋へ直行した。
夜もあって静かな寝息が聞こえる。ベッドに近付くと横向きで丸まっていた。
声を掛けられず、俺は寝顔を目にした状態で床に腰を下ろす。よく見ると閉じた瞼が微かに動いていた。
「……やめて……こっちに、来ないで……イヤ……なんで、私が……」
拒むように顔を僅かに振った。悪夢の内容も薄っすらと理解できた。
丸まった薄い布地を肩まで掛け直す。ほんの少しの温かさが伝わったのか。光は表情を和らげた。それ以降、寝言も途絶えた。
「おやすみ」
一言で俺は部屋を出た。
同じ建物にある自室に入ると布切れを積み重ねたところに寝転んだ。木製の天井が不安を掻き立てるので早々に目を閉じた。今度は頭の中に言葉が浮かぶ。
物体透過のスキルで火を防ぐことはできるのか。
明確な答えが出ないまま不安だけがじわじわと増していった。




