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68話 過酷な戦い(4)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』『掏摸向上』

アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』『技能破壊』『技能詳細』

「……私が転生した時、大人に、犯されていた」

 険しい表情を見られたくないのか。少女は(うつむ)いて顔を(そむ)けた。その姿のまま話を続ける。

「机のような物に、身体を押し付けられて……バックで何度も突かれた。避妊なんて、してくれない……」

 声が涙ぐんでいた。一度、鼻を啜り上げると、重い口を開いた。

「だから、定期的に、お腹を殴られた。そんな時、生理がきて、私は地獄から抜け出せた……」

「スキルの条件は()ですか?」

「そうだよ。血に感情を一つ込めて、落とすと女児になる。『血の生誕』っていうアクションスキルだよ」

「その感情が『大人を殺せ』ですね」

 少女は即答しなかった。少し間を空けて、ごめんね、と呟いた。俺への配慮と受け取った。

「謝らないでください。あなたは何も悪くない。大人を憎む気持ちも十分に理解できます」

「ありがとう。これは私からの質問なんだけど、いい?」

「何でも()いてください」

「どうやってこの部屋に入ってきたの? 扉には鍵が掛かっているんだけど」

 少女は顔を上げて扉の方を見た。

 この場面で隠し事は得策ではない。相手から信用を勝ち取るには正直になる必要があった。

「私は一回目のガチャで『無限転生』を引き当てました。女神様の話ではレジェンド級のパッシブスキルと教えられました」

「無限って。それじゃあ、何回も転生しているってこと?」

「そうです。命を落とす度に女神様の元へ戻り、ガチャを回しています。今で十八のスキルを所持しています」

「ええええっ!」

 顔を上げた少女は勢いでベッドに仰向けに倒れ、藻掻くようにして起き上がった。

 そこで先程の質問に俺は答えた。

「この部屋に入れたのもスキルのおかげです。ご覧ください」

「わかった、早く見せて」

 嫌悪感を好奇心が上回る。少女は前のめりで催促した。

 俺は壁際に立つと『物体透過』を発動した。壁を突き抜けて隣室に入り、再び部屋に入り直す。

「凄すぎるんだけど。無敵のスキルじゃん」

「物理攻撃も六秒は無効化できます。再使用までの時間は八秒です。魔法の類いには通用しませんが」

「この世界に魔法なんてないよ。凄いよ、凄すぎてびっくりだよ。完全にチート丸出しじゃん!」

「使用後の八秒を狙われれば呆気なく殺されます。戦闘に特化した女児の殺傷力は脅威でした」

 気軽に言ったつもりが少女には深刻に受け止められた。沈んだ表情になる。

「責めている訳ではありません。あなたが受けた理不尽な暴力を考えれば無理のない話です」

「……私の血を飲める?」

「飲めます。意図はわかりませんが」

 少女は針のような物を取り出した。指先を軽く刺すと指の腹に血が盛り上がる。

「こっちに来て」

「わかりました」

 大人しく従う。

(てのひら)を出して」

「これでいいでしょうか」

 右の掌を少女の前に差し出した。そこへ数滴の血を落とす。

「その血を()めて」

「わかりました」

 躊躇(ちゅうちょ)はしない。相手に猜疑心(さいぎしん)を与えないように即座に舐めた。少女は自分の指を(くわ)えてじっと見つめる。

「これでいいでしょうか」

「うん、これで女児に襲われることはないよ。血の力で仲間と思ってくれる」

「ありがとうございます」

「それであなたはこれから、どうするつもり?」

 少女は俺の目を覗き込むような姿で訊いてきた。

「一度、隊に戻ります。私のスキルには『話術向上』があるので和解できるかもしれません」

「……あなたはいいんだけど、他の大人と和解しないとダメなのかな」

「達成ガチャは知っていますか」

「女神から聞いたよ。転生した世界で偉業を達成したら回せる特別なガチャだよね?」

「その通りです。この世界で一番の偉業はどのようなものとお考えですか」

「それは……」

 決断が揺らぐのか。自ら口を閉ざす。チラチラと俺を見ながら、和解かな、と弱々しい声で言った。

「無理であれば、また戻ってきて別の案を考えましょう」

「うん、それでいいよ。あ、ちょっと待って。今更なんだけど、あなたの名前は?」

「生前でよければ。岩倉望(いわくらのぞむ)と言います。二十四才のコンビニバイトです」

「今はおじさんだけどね。私は内田光(うちだひかり)だよ。高校生だけど、ここでは少し若返ったみたい」

 ささやかな変化ではあるが少女はクスリと笑った。


 俺は施錠を解き、扉から部屋を後にした。その直後、女児と出くわした。両手のサーベルに肝が冷えたものの襲い掛かっては来なかった。逆に甘えるように身体を寄せてきた。

 反応に困ったが頭を撫でてみる。目を細めて身体を左右に震わせた。ワンピースに隠れた控え目な胸が微かに揺れる。

 見てはいけないと目を逸らし、駆け足で建物を飛び出した。

 速度は落ちて本拠地の目抜き通りを悠々と突き進む。出会う女児は大人しく本来の姿に戻ったようだ。

 戦闘特化型も同じで歪な鉄パイプが俺の頭部に振り下ろされることはなかった。とは言え、素通りは許されず、三人の女児は身体を押し付けてきた。先程と同じように順番に頭を撫でていると怒鳴り声が響いた。

「隊長、あなたは、いや、貴様が内通者だったのか!」

 痩身の男性がランタンのような物を手にして近づく。後ろには隊員がいて全員が怒りの形相を浮かべていた。

「誤解だ。俺は和解を申し出て、その話を隊員達に」

「黙れ! 貴様は絶対に殺す!」

 殺気立った隊員達が直刀を抜いて襲い掛かる。

 俺は物体透過で(かわ)したが、一人の女児が犠牲になった。他の二人の反応も遅れて殺到する凶刃に斃れた。

 俺は踵を返し、本拠地へ逃げ込んだ。短剣の力も借りた。罵声からは逃れられず、正確な内容を伝える。

「絶対に許さない!」

「貴様は殺す!」

「騙しやがって!」

「ぶっ殺してやる!」

 話術向上程度で抑えられる怒りではなかった。

 走りながら俺は、ごめんな、と迷子になった言葉を口にした。

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