67話 過酷な戦い(3)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』『掏摸向上』
アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』『技能破壊』『技能詳細』
敵の拠点を次々と奪った。その過程で生き残った者達を取り込んで隊員も増えた。自然に発生する食糧問題は缶詰の保管庫を奪取して解消された。
連戦連勝で隊員の士気は高かった。それが今は見る影もない。
俺は冷たい床に座った姿で周囲を眺める。
足や腕を折られた隊員達が苦悶の表情で寝転んでいた。負傷した箇所には添え木が当てられた。痛みの酷さで寝返りを打てず、絶えず小さな呻き声を上げる。
俺は人知れず、溜息を吐いた。そこに痩身の男性が現れた。黙って隣に座ると小声で伝えた。
「先程、負傷した隊員の一人が亡くなりました」
「そうか。丁重に弔って欲しい」
「わかりました。今後の方針ですが、どのようにお考えでしょうか」
言い終わると軽い咳をした。傷に触るのか。腹部にさりげなく手を当てた。
「見た目は同じ女児でも、あそこまで戦闘力に差があるのか」
「あれは戦闘特化型で重要な拠点に配置されています」
「先日、戦いを仕掛けたあそこが、敵の本拠地の可能性があるということか」
「十分に考えられます」
強い視線を向けてきた。決戦を目で訴える。
決断を下す前に俺は疑問を口にした。
「女児の目的は大人の殲滅だ。そうなると疑問が生じる。あの女児はどのようにして産まれたのか」
「……それは私にもわかりません。非常に考え難いことなのですが、敵に迎合した大人がいるのかもしれません」
「大人が女児を孕ませて人員を増やしていると」
男性は視線を下げたまま答えなかった。眉間に皺を寄せて唇をきつく閉じる。心の中に何かしらの葛藤を抱えているように見えた。
俺には別の考えが浮かんだ。
転生者が何かしらのスキルで女児を増やしている。
十分に納得のいく答えに思える。ただ、現段階では仮説に過ぎない。早急に確かめる必要があった。
一点を見据えて俺は言った。
「玉砕覚悟の決戦は認めない」
「……隊員の回復を待つという意味でしょうか」
「その間に俺が単独で偵察に当たる」
「私は反対です」
強い否定に俺は無言で立ち上がった。
「模擬戦に付き合えばわかる」
先に歩き出した。負傷した隊員達を避けながら半開きの扉を潜る。
日中の暑さは微塵も感じられない。倒壊した建物や瓦礫の山は見るだけで寒々しい。遅れてきた男性が横へ並ぶ。
俺は足元に落ちていた手頃な丸っこい石を二つ、拾い上げた。その一つを男性に手渡す。
「これを相手に当てれば勝ちだ。紛失した場合は負けが確定する。受けて立つか?」
「もちろんです。隊長が負けた場合、単独行動は控えてください」
「了解した」
早速、行動に移した。瓦礫の中を縫うようにしてお互いが一定の距離を空けた。
半壊した壁を背にした姿で耳を澄ます。砂利を踏むような足音が聞こえる。この位置から右手の方向。距離は百メートル弱といったところか。
俺は技能詳細のスキルを使った。明快な一文が頭の中に浮かぶ。
『物体透過』のスキル持続は六秒で再利用まで八秒。
俺は左手の指に二本の短剣を挟んだ。その状態で物体透過を使い、左方向へ全力で走る。瓦礫を通り抜けて大きな弧を描く。足音はほとんどしない。散らばった破片は透過して隠密行動を容易にした。
持続時間を超えれば瓦礫に隠れ、再利用の八秒を待った。再び物体透過を使い、男性の背後に回り込んだ。
瓦礫から半顔を出した状態で持っていた石を投げた。投擲のスキルは狙いを外さない。男性の背中を直撃した。
瞬間、驚いた顔で後ろを振り返る。
俺は堂々と姿を現した。
「勝負は付いた」
「……意味が、わかりません」
「それだけ実力の差が開いていたということだ。今から出かける」
「私に止める権限はありません。隊長が無事、帰還することを願っています」
男性の肩を軽く叩くと俺は疾走に移った。
夜間であっても敵の警護が緩むことはない。戦闘に特化した女児が鉄パイプのような物を両手で持ち、周辺をうろついていた。何人も犠牲者を出したのだろう。遠目にも歪な形が見て取れた。
出入口と思われる箇所には戦闘特化型が三人もいた。近くに身を潜められるような瓦礫はなかった。
その場で軽い柔軟体操を行った。侵入の要となるアキレス腱は重点的に解した。
魔王軍の絶望感と比べれば大したことはない。
そう考えると急に楽になった。身も心も軽くなり、俺はジョギング程度の速度で正面突破を試みた。
当然、三人は気付く。天使の微笑みで鉄パイプを振り上げ、こちらに鬼神の速さで突っ込んできた。
十分に引き付けたところで物体透過を発動した。致命の一撃を擦り抜けて女児の囲みを突破する。今度は短剣の力で一気に引き離した。
その勢いを止められる者はいなかった。敵地に踏み込み、見つけた隙間に身を捻じ込む。胸中で八秒を数え、あらゆる障害物を無視して走り抜けた。
親玉が潜むとすれば全方向からもっとも遠い中心だ。
的中を仄めかすように女児の遭遇率が急激に上がった。鉄パイプが躊躇なく頭部に振り下ろされる。速度で躱し、途中で拾った小石を投げ付ける。
女児は目を押さえて仰け反った。血を流す者もいたが構ってはいられない。殺到する中を擦り抜けて建物の外壁に突っ込んだ。
中にも女児がいた。凶悪さは増して両手にサーベルのような物を持っていた。俺は壁に逃げ込み、耳で探知した音を遠ざけ、各部屋を忙しなく巡る。
施錠された扉を見つけた。巡回する女児の目から逃れ、八秒の待機時間を経て忍び込んだ。
その部屋には赤い絨毯が敷いてあった。ベッドのような物もある。その縁に黒髪の少女が白いワンピース姿で座っていた。
突然の侵入に驚き、すぐには声が出ないようだ。
そこで俺は敵意が無いことを示すように深々と頭を下げた。
「初めまして。私はあなたと同じ転生者です」
「……ホントに!?」
「女神様にスキルを与えられて、この世界に大人の姿で転生しました」
言いながら顔を上げた。少女と目が合った。
「私と同じだけど……本当に転生者?」
「そうです。言葉だけでは信じられないでしょう」
俺は距離を保った状態で真上に跳んだ。身体が浮いた状態で、もう一度、跳んで見せた。天井に頭が当たりそうになり、辛うじて手で防いだ。
「今、空中で跳んだよね!」
「これは空中跳躍というスキルです」
「うん、信じるよ。あなたは私と同じ転生者なんだね」
「この世界に来たばかりです。事情を話してくれませんか」
少女は目を伏せた。眉間が強張り、苦々しい表情となった。
「そこで話を聞いてくれる? やっぱり、大人は少し怖くて」
「わかりました」
俺は絨毯の上で胡坐を掻いた。促すこともしないで静かに待った。
「……ありがとう」
ポツリと呟いて少女は悲しい過去を語り始めた。




