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装飾系男子!  作者: 根谷司
増殖系魔王!
18/19

混乱系女子と淫乱系女……うん。

 劇団彩鳥の練習日。全員が集まった稽古場にて、父さんを中心にして大きな輪が出来ていた。大事なミーティングがあるのだという。ミーティングの名目は伝えられていないが、状況的にひとつしか無いだろう。


「来月に行なわれる演目の決定と、配役を発表する」


 とのこと。予想通りだ。


「次の公演は会場の関係上、チケット販売が突然になったり、都合上出演出来ない役者が居るため、少々イレギュラーな形で行なわれる。だが、観客に対してそんな言い訳は通用しない。各自、普段通りのやり方は忘れ、全員が初心に戻る良い機会として、尽力してほしい」


 成る程、確かに色々な事情が重なっているなら、それを逆に有効利用しようというのはよく解る理屈だ。しかし、父さんにしては些か無計画な提案に思えた。


「演目は『約束』だ。新しい試みを執り行うにあたって、少しでも皆の負担を減らすため、最も記憶に新しいであろう演目にした」


 納得である。俺は頷く。


「では、配役を発表する」


 いったい誰が俺の役をやるのか。何故か俺が緊張して、息を呑む。


「主役父――伊藤」


「「「「「……は?」」」」


 初っ端から、誰もが唖然とした。父さんを見て、伊藤さんを見て、そして最後に、約束で主役を演じていた梶山さんに視線が集まる。


 梶山さんはその空気を読んで、後頭部をかきながらたははと笑った。


「いんやー、実は親戚の結婚式が入ってて、その日は無理なんだわー。俺もそのこと忘れてて、いきなりになっちまったなー。お祝儀とかも貯まってねぇから、急ぴっちでバイト増やして金作らんねぇと。つーわけで、頼むは、伊藤」


「ちょ、いいんすか? ならやらせてもらいますけど……」


 無計画過ぎる、この人……。いや、公演の日にそういった行事が重なってしまうのは仕方ない。なにせ曜日はそういう予定の入りやすい土曜日なのだから、なにかしらあっても不自然ではない。だが、ある程度前々から知らされているはずの結婚式の祝儀を用意出来て無いってどうなの……。


「お前ら静かにしろ。まだ発表は終わってないぞ」


 父さんの渇が入り、ざわついていた劇団員達が静まり返る。


 しかし、


「主役娘――沢野」


「あー、まぁ、はい」


 歯切れ悪く、そんなやり取りが父さんと沢野さんの間で交わされる。


 そしてその二人以外には、さっきまでとは違う沈黙が漂っていた。かくいう俺とて、静かにしなければならないから黙っているのではなく、事実言葉を失っていた。


 準主役を務めていた僕の代わりを、ヒロインを務めていた沢野さんが勤める? そんな大抜擢をして、ヒロインはどうするつもりなのだろう。というか、沢野さんは富豪娘の役のはずだ。どうしてその役を変えてまで……?


「体系についてはさらしを巻いてもらう。他の劇団員では、少女役というには些か高身長過ぎるからな。他にも事情があるにはあるが、それは栓なきことだ。ここで言う必要はないだろう」


 沢野さんとて背が低いわけではないが、確かに身長、演技力では文句無しだ。


 淡々と、父さんは続けた。


「富豪父――喜多村」


「富豪娘――安達」


「村長――皆野みなの


「富豪執事――一之瀬」


「村人A――川合かわい


「村人B――藤堂とうどう


 次々と告げられる、驚愕の人員配置。誰一人として、前回と同じ役回りの人間が居ない。富豪父だった父さんは富豪執事へ、富豪執事だった喜多村さんは富豪父さんへ。村長だった川合さんは村人Aで、といったように、誰もが配役変えされていた。


 なにより。


 なによりも。


 俺は安達先輩のほうを見た。


 いつもはちゃらんぽらんな安達先輩が、目を見開いて驚いている。流石の安達先輩も、こんな状況ではふざけられないということだろう。


「今回は一時的とはいえ配役変えに伴って、前回の役者からその役についての指導を受けろ。では、アップから始める」


 そうして、今日の練習が始まった。






「じゃぁ、よろしくね、恵」


 そう言って台本片手に俺の前に立つ沢野夢子さわのゆめここと夢ちゃんは、アップでかいた汗を肩にかけたタオルで拭きながら言った。


「はい。こちらこそ」


 沢野さんに指導、というのもこそばゆい。どちらかと言えば俺が沢野さんに教えてもらいたいところだというのに、今回は事情が事情のため、頷くだけに留めた。


 ふと、沢野さんの後ろで台本を握り締め、ガタガタと震えながらわなわなしている安達先輩の姿が目に映る。そういえば、安達先輩は沢野さんんから指導をしてもらうのだったか。だから声をかけようとしているのだろうが……流石に緊張しているようだ。


 視線で沢野さんに振り向いてあげてと促すと、気付いた沢野さんは後ろを向き、青ざめた安達先輩がガクブルしていることに「きゃ」と小さな悲鳴を上げた。そりゃもう若干ホラーみたいな顔色になってますからね、安達先輩。


「どうしたのよ、遊佐」


 沢野さんが問うと、安達先輩は一気に身を乗り出す。


「ささっさささサバンナさんっ!」


「誰よそれ」


 ほら、いつも峰岸をミネルバとか言ってるから、人の名前を間違える。


 安達先輩はめげることなく、握り締めた台本を前に押し出した。


「だ、だーだばだーについて教えて下さい!」


「なによそれ」


 沢野さんに同意である。だーだばだーってなに。


 混乱しつつも必至な安達先輩は、台本を開いて、適当な箇所を指差して続ける。


「こ、この、魔王が村を裏から支配してるとこの、この、沢野さんの特有の腹黒さの出し方とか、まじぱないっす!」


「え、それ、もしかして私ばかにされてるのかしら」


 多分安達先輩は自分が何を言っているのか把握していない。


 沢野さんはひとつ嘆息し、そういえば、と呟いた。


「遊佐ちゃんはメインで出るの初めてだっけ。そりゃ緊張もするわよね。私も恵から教えてもらいたいとこだけど、とりあえず遊佐優先でいきましょうか」


「俺もそれで賛成です」


「感謝至極の至れり尽くせりっす。その腹黒さまじぱないっす!」


「安達先輩。多分少しの間黙ってたほうが身のためですよ」


 多分後悔することになるから。


 流石に初メイン大抜擢となると緊張もするだろうけれど、それにしたってこの動揺はあまりにも露骨過ぎやしないだろうか。そう思って辺りを見回すと――


 まず、喜多村さん&父さんペアー。


「どうじゃろうか。あの愚かな父親を少し、説得してくれればいいのじゃ」


「ばかもん! そんな安っぽい声のトーンで、観客に悪徳を伝えられると思うか!」


「この愚かな父親めっ!」


「なんだとっ! 俺の子育てが愚かだというのか!」


「待ってください監督今のは台本の台詞であって――」


 多分あそこが一番、色々な意味で白熱している。


 そして次に伊藤さん梶山さんペアー。


「カジさん。ここのイケボってどうやって出してるんですか?」


「んあ? あーこれな、俺のは天から授かった天然イケボだから、参考にゃならんぞ。お前には無理だ」


「そう言わずに教えて下さいよー。あ、ほら、今度、大学で同じ専攻の女の子、紹介しますから」


「腹から声出すのはそうなんだがな、わざと胸式呼吸も混ぜて、さらにイメージとしては脳天から突き出させるようにして声を出すと、こう、適度に高くて感情的な声に聞こえんだよ。感情的な声といえば震え声にするのはよくあるが、それ、やりすぎると聞き取り辛くなるから、俺はあんま好きじゃねぇんだ」


「なーるほどあえて基礎を崩してるんすねー。たしかにこりゃあんた参考になんねーわっ!」


「ははは、てめぇちょっとは発言に遠慮しろ?」


 違う意味で楽しそうだな……決して混じりたくない類の愉快さですがね。


 そうこうして他の場所を観察しているうちに、沢野さんによる安達先輩への指導が始まっていた。俺の将来的な事を考えると、これは聞いておかなければならない。


「まずね、この富豪娘は性欲魔人なの。悪女なの。つまりエロキャラなのよ。男ゲットのためには手段も選ばないとか外道よね。でも、遊佐ちゃんは今それなの」


「うっす。あたし超エロい!」


「自分で声に出さなくてもいいわ。……でね、自分が悪女だって解ってる設定なのよ。その悪女である自分素敵っみたいな、ようは自分に酔いしれてるような性格よ」


「エロエロな自分KAKKEEEEEEEEEE!!」


「声には出さなくてもいいわ」


 聞いて、おかなければ……。


「そのエロさとか悪さを滲み出させつつも、隠してますよオーラを漂わせるの。想像してみなさい。ほら、今、遊佐ちゃんはベットの上に居るわ」


「ベットインはぁはぁ」


「そしてそのベットの上で、人気アイドルとねんごろ中」


「声優たんはぁはぁ」


「……うん、まぁそれでもいいわ。とにかく、常にそんな事を考えながら演技する感じ。そうすると、エロさは滲み出るわ。クリアーよ」


「成る程。こんなアドバイスが出来るなんて、沢野さんまじ淫乱っす!」


「ぶっ殺すわよ?」


 聞くに、耐えない……っ!


「…………」


 とはいえ、だったら俺は何をすればいいのだろう、という話になる。どこを見ても似たようなやり取りばかりで、変にテンションが舞い上がっている。特別な環境で行なう舞台、というのが、良いスパイスになっているのかもしれない。


 その気持ちはなんとなく解る。


 いつもの舞台も好きだが、そうでない舞台特有の緊張感と高揚感は、なかなか味わえないからこそ貴重で、それでいて楽しい。そんな特別な舞台に参加できないことを内心で嘆きながら、父さんのほうを見る。


 いつもは慎重な父さんが、どうしてこんな代理的な大抜擢をいくつも重ねたのだろう。少し、チャレンジャー精神が強すぎる気がする。


 まさかとは思うけれど。


 今回の舞台は、経験のための捨石だ、なんて、考えているわけが無いよね。


 そんな、聞けるはずも無い質問を胸にしまい込んで、一人、黙々と見学し続けていた。

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