旅立ち
【おばちゃん視点】
突然刀身に重い衝撃を受けて剣を弾き飛ばされた。このあたしのストレングスで握りしめた剣を――。
何をされた? 〈ガンシャ〉、聞いたことないスキルだねぇ。
次、坊やがあたしを狙ったら避けることはできない。 こりゃ敵わないわ。
まさか、このあたしが負けるとはねぇ。 ……しかもこんな若造に。
あたしは若い頃、王国の騎士団にいた。当時、騎士団長の爺さんはレベル114の【HR竜騎士】だった……、信じ難いがステータスだけならあの爺さんより坊やの方が上だ。
そんなことがあり得るのか?
レベルは上限の30%に達すると、そこからはレベルアップし辛くなる。 レベルを上げるにはモンスターを毎日何十体も狩るか、ボスクラスのモンスターを狩り続ける必要がある。 故に上限の60%になる頃には、かなりの年月が経過し老いぼれになるもんだ。
仮にこの若造が、加護を授かった12歳から今まで、毎日レベリングしても普通ここまで強くならない。
可能性があるとすればレベル上限が高い加護を持っているってことだけ。 つまり坊やの加護は【SR勇者】以上。
かっか、面白い。 この若さでこの強さ。 コイツは間違いなく大物になるわねぇ。
一年前ペルシヤ王国を支配したって噂の魔王を倒しちまうかもね。 ふっ、血が騒ぐよ。
【ゼツ視点】
〈ガンシャ〉、一度も使ったことがないスキルなのに頭の中にスキルの概要が流れ込んできて、当然の様に使用できた。 ……これがアクティブスキルか。
僕は注意深くおばちゃんを睨み、ガンシャを構える。
「ふんっ! 金貨60枚だ」
おばちゃんは真剣な顔で僕を睨みながら言う。
「どう言う意味だ?」
「金貨60枚でノエルを売ってやるって言ってんだ。 すぐにって話じゃない。 いつでもいいから、耳揃えて持ってきな!」
「持ってこなかったら?」
おばちゃんはニヤリと笑う。
「かっかかかか! そんときゃあたしの見込み違いさね。 でもね坊や、あんたは持って来るよ」
「ママっ!」
後ろに隠れていたノエルが僕の横に並ぶ。
「そんな大金一生かかるかもしれないけど……、私、冒険者になって稼いで必ず持っていきます」
「そんなに待たされたら、あたしゃ寿命で死んでるよ。 それにバカだね。お前は。こういうのは男に甘えるもんだ。それが女の常套手段よ。覚えときな?」
僕は構えていたガンシャを消した。
おばちゃんは僕を品定めするように睨み、僕も睨み返す。
銀貨30枚で金貨1枚と交換できる。 だから金貨60枚は確かに大金だ。 奴隷だったら一年で銀貨1枚。金貨1枚貯めるのに30年かかる。
でも今の僕なら――。
僕は元伯爵家の嫡男。金の稼ぎ方を知っている。 冒険者のシステムはまだ理解していないが、今の僕のレベルなら冒険者以外の方法でも一年で金貨3000枚は稼げると思う……。 なら60枚くらい払ってやってもいいか……。
「わかりました。 稼げるようになれたら払いにきます」
「言質は取ったからねぇ。 ノエル、あんたいい男を見付けたね。 あと50若かったらあたしが付いて行きたいくらいさね。 んで、お前達、その格好で行くのかい?」
僕もノエルも何も持っていない。
「問題ない。 食べられる野草は分かるし動物を狩ることもできる」
「お前はそれでいいかもしれないが、ノエルは女の子だよ。 もっと気を使ってやりな。 おい!」
おばちゃんは男店員を呼んだ。
「なんだい? ママぁ~」
「あの坊やに旅道具一式と3日分の麦を、……服装もダメだねぇ。そんなボロ来てたら奴隷って言っているようなもんだ。 坊やとノエルの服も用意してやりな」
「ママぁ~、いいのかい? あんなヤツ信用しちゃってぇ?」
「ふん。 悔しいがあたしの勘が問題ないって言ってるよ」
おばちゃんの言っていることはもっともだ。 僕一人なら何とでもなるがノエルも一緒に行くとなるとそうはいかない。
僕はおばちゃんに頭を下げた。
「すみません。 ……世話になります」
その夜、おばちゃんに見送られながら僕達は出発した。
僕とノエルはおばちゃんから貰った旅人っぽい服装に着替え、首からは肩掛けカバンを下げている。カバンの中には旅に必要な道具が一式入っていた。
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