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修羅場Lv8①


【ノエル視点】


 隣りにある筈の温もりを感じられなくて、寝ぼけていた私は飛び起きた。


「あれ? え? ゼツ君?」


 ゼツ君が消えている。



 服を着て、宿の中を探し回ったけどゼツ君は見付からない。

 外に出ると街の灯りは消え、月明かりだけが町並みを薄っすら照らしている。人気のない静かな夜。


「ゼツ君、何処に行ったの?」



 昨日はダンジョンで使う様々な消耗品や食料を大量に買った。全部ゼツ君が選んでくれた。

 彼は何でも知っていて、私は感心させられるだけでなんの役にも立てなかった。


 あれだけ色々な物が必要なんだ。もしかしたら買い忘れた物があったのかもしれない。

 私はゼツ君を探す為に昨日行ったお店へ向かって歩き出す。




 昨日行ったお店の周りを歩き回ったけど、お店は全部閉まっていてゼツ君どころか人の姿がない。

 私、バカだ。こんな時間に開いているお店なんてないのに……。 気付けば知らない場所にいて宿屋の方向が分からなくなっていた。


「ゼツ君……、ゼツ君どこにいるの……」


 心細い。胸が苦しい。ゼツ君に会いたい……。



 自分がどこへ向かって歩いているかわからず、それでも人気の無い夜の街を歩いていると少し賑やかな通りに出た。

 ここのお店はこんな夜中なのにまだ開いていて、店の看板に掲げられたランプの灯りや、窓から漏れる蝋燭の光で視界が通る。


「ここ、……風俗街だ」



 そんな繁華街を歩いていると。


「お姉ちゃん、店の子? 俺達と遊ぼうよ。 うわッ!よく見たらとんでもない美人だなぁ!おい!」


「おい、この子すっげー可愛いぞ」


「あっちで俺達と楽しいことしようぜ。 金は払うからよ」


 男三人に囲まれてしまった。


「今、人を探していますので」


「俺達も一緒に探してやるよ」


「(こんな上物滅多にいねーよ。攫おうぜ)」

「(ああ、こりゃ店なんて行ってる場合じゃねーな)」

「(俺達で飽きるまで回してから売るべ。かなり金になるぞ)」


 男達はコソコソと話しているけど、酒に酔ってるのか声が大きくて私の耳にも聞こえてくる。

 男達はニヤニヤ笑いながら私を見てくる。この人達、あの賊と同じ目をしている。


「アクティブスキル〈グラビティLv4〉」


 私は口の中で呟いた。

 道端に転がっていた拳程の石が三個、ゆっくり浮遊する。それが――。


 ガンッ!


「「「ぎゃっ!」」」


 グラビティで勢いよく飛ばした三個の石は男達の顔面に同時に直撃した。

 男達は三人同時に無様に地面に転がった。


 この人達、たぶんレベル10前後だ。 以前の私なら捕まって酷い目にあっていたけど、今は敵ではない。


 呻き声を上げながら手で顔を押さえ転がる男達を冷たい目で一瞥すると、私はまた歩き出した。




 この風俗街はかなり広いようで、なかなか抜け出せない。

 こんなところにゼツ君がいるわけない。 ゼツ君、もう宿屋に戻っているかもしれない。私がいなくて心配しているかも……。 早く帰らなきゃ。


 そう思って歩いていると少し先の風俗店から、若い男の子が出てきた。

 背格好や髪型がゼツ君に似ている。 それにあの服……、ゼツ君の服とそっくり。


 その人は店を出ると小走りで隣りの店に入って行った。


「まさかね……」


 そんなわけないと思ったけど、私は男の子が入ったお店の入り口が見える裏路地に隠れ、少し待つことにした。




 15分くらい経って、お店から男の子が出てきた。 ランプで照らされているとはいえ夜の街は薄暗く、かなり近づかないと顔が見えない。


「アクティブスキル〈暗視〉」


 スキルによって視界は明るい昼間と同じ程、見えるようになった。


「ゼ、ゼツ君!」


 ゼツ君は店を出ると、また小走りで隣りの店に入って行く。






【ゼツ視点】時を同じくして



 店が閉まるまであと1時間といったところか……。ならあと3軒、いけるッ!


 僕は小走りで隣の店へ向かう。


 案内された個室に入ると、白いネグリジェを着た黒髪ロングで胸が大きい、おっとりした顔の嬢がベッドに座っていた。色白で綺麗な人、歳は25歳前後だろうか。


「いらっしゃいませ」


 嬢は愛嬌良く笑顔で挨拶をする。


「あの、突然で申し訳ないのですが、本番をさせてくれませんか?」


 嬢は「まぁ」と手で口元を隠し驚くが、すぐに笑顔を取り戻した。


「申し訳ありません。この店、本番は禁止なんです。けれど寛いでいただけるよう尽くしますので」


「銀貨5枚払います」


「えっ! 5枚ですか……、 うーん、ダメですよ~」


「なら銀貨10枚だとぉ?」


「えぇええ、でもぉ~、私フィア」「銀貨15枚」「ンセがいますから、って、えっ!?えっ!?15枚!?」


「あっ、すみません。婚約者がいるんですか?」


「ええ、はい。 ねぇ、最高いくらまで出すつもりだったの?」


「えっと金貨1枚ですけど、でも婚約者がいるなら諦めます」


 たまにいるんだよなぁ。……人妻とか。 相手がいる人とは流石に本番はできない。浮気しまくっていた僕の母上のようで気分が悪い。 


「金貨1枚くれるなら本番してもいいよぉ」


 嬢は恥ずかしそうに上目遣いで言ってくる。


「いや、いいですよ。変なこと、お願いしてすみません。 僕、もう行きますので」


 店の金、銀貨2枚は無駄になるが、しょうがない。


「待ってッ!」


 僕が立ち去ろうとすると大きな声で嬢に止められた。


「彼、欲しい物があってぇ〜、金貨1枚あれば買えるのよぉ~。 ねっ? だから、ね?」


 いや「ね?」って言われても……。


「ほんと無理なので忘れてください。 それでは――」


「待ってッッ!!」


 僕は嬢に抱き着かれ、引き留められた。ってこの人、力強いな!


「お願い。 私、お金に困ってるの! たくさん気持ちよくするから! 見捨てないでッ! 私もそれに彼だって絶対に喜ぶから! ね!お願いッ!」


 自分の婚約者が他人と本番して喜ぶってどんな男だよ……。

 そう思った時、僕の頭にノエルの顔が浮かんで胸が苦しくなった。


「人助けだと思って、お願いします!行かないで」


 嬢は瞳を潤ませお願いしてくる。

 婚約者も喜ぶならやってもいいのかな……。他人の性癖をとやかく言う積りはないし。

 それに本番もしないのに、金だけあげるわけにはいかない。


「わかりました。じゃお願いします」


 時間もないしとっとと終わらせて次に行こう。


 僕は嬢に金貨1枚を手渡した。








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