第8話 残火と残影
拙作を読みに来てくださり、誠にありがとうございます。
今回の話に登場する炎命術の詳細を後書きに載せてます。よろしければ見て頂けると、より楽しめるかもしれません。
「それでは第1試合、制限時間は5分。ルールは炎道式。どちらかがギブアップというまで制限時間内での戦闘は継続。両者、異論はないですね?」
アナウンスの言葉に両者頷き、筆を構える。
篝の薄い橙色の着物がちらりと揺れた瞬間ーー「スタート!」という言葉と共にカウントダウンが始まり、闘技場内の熱気が一気に上昇した。
「炎命術……篝椿! 」
篝の胸部から燃えゆる炎が筆に宿り、空中で一刀を描く。その放物線と自信のある一筆が、書ききり終わる頃には、椿の花が模られた黒い鞘の刀が篝の手に顕現した。鞘を抜き、銀に輝く、刀身を煌めかせる。
「炎命術……咲焔! 」
美澄の指先から灯る僅かな炎がゆらゆらと揺れる白筆に仄めき、一瞬の内に鮮やかな炎の剣が空中にて描き上がる。あまりに自然に顕現した刀を握った。
ひらひらと大きく赤い花弁が散る。
その様は燃え尽きた命の残滓に等しい。
「その程度の炎でそれだけ立派な顕現を……? 」
篝が白暁の顕現に驚愕していると、付け加えるように美澄は口を開いた。
「白暁は私の生命の炎にのみ反応し、極少量の炎で夢幻の可能性を生み出す一筆よ」
白暁を懐にしまい、重心を低くして、咲焔を構える。
「筆が強くとも、勝てない道理にはならないッ! はぁッ!!」
篝は強く踏み込み、素早く美澄の懐へ潜り込む。鬼気迫る速度は目にも止まらぬと云わせる程であった。
重心を圧倒的に低くし、刀身を横に薙ぎ払うことで、初見では絶対に避けれぬ不可侵の刃が美澄の脚部を捉える。
「確実な間合い……もらったッ!」
脚部にダメージを与え、素早く後ろに回って、背中に剣を突きつければ勝利。篝の頭の中には既に勝利の結末が浮かんでいた。
ーー苛烈な甲高い金属音が周囲へ響く。
勝利を確信していた篝は驚き、一瞬の動きに迷いが生じてしまった。
「……何を驚いているのかしら。この程度の攻撃で私が受け止めきれないとでも?」
篝椿の刀身に咲焔の刃を滑らせ、篝の腕を狙い、振り上げる。
幸い、攻撃の線が外れていたのか、薄い橙色の着物の袖が斬れただけで篝には当たらず。
体制を整えようと、背後へ軽く数歩下がった瞬間だった。
「なッ……!? こ、これは!?」
前触れもなく、篝の足元で火の粉が散り、小爆発が起こる。突拍子もない爆発、彼女の不意をつくにはあまりにも妥当だった。
その隙を狙い、強く踏み込んだ美澄の刀身が篝の首に掛けられ、勝敗は決す。
「貴女の敗因は私を侮った事と、注意力の散漫。これに懲りたら、戦場で油断はしないことね」
「……降参です」
わぁぁぁっと湧き上がる会場を横目に、聖火は雨宮が隣に居ることを警戒しつつ、そっと胸を撫で下ろした。
「今のって咲焔の特殊能力でしょうか。顕現した際に落ちた花弁が何かの拍子に爆発する仕組みですかね」
黒い手帳に独り言を呟きながら書き殴る雨宮は、どこか楽しげだった。
お昼過ぎから続く闘技場での試験も続々と名前が呼ばれ、終わりが見え始めるか否かの刻、次に呼ばれたのは聖火の見慣れた人物だった。
「続きまして、清水朋絵と、孔雀朔、ステージにお上がりください。 」
真っ白く透き通った雪のような着物に、着物と同色の髪色の少女は強張った様子でステージ上へ上がる。
朋絵の背後から美澄の声援が他を遮るように飛ぶ。
「朋絵ー!頑張んなさいよー!負けたら、承知しないわよ! 」
「うぅ……プレッシャーやばい。 」
仲が良い故の二人の距離感なのだろうが、美澄の声援を聞いた直後の朋絵の表情が強張る。
美澄は孔雀朔に視線を向けると、途轍もない違和感を覚え、眉間に皺を寄せた。
「……いいな、私もあんな風に笑えたら……」
美澄と朋絵の一連のやり取りを横目に見ていた朔は、誰にも聞こえない小さな声で哀しげに呟いた。
「おい、朔。お前、負けて孔雀家の顔に泥塗ったら承知しねえからな? 分かってるのか!」
良人は怒り狂いながら、朔へ怒鳴りつける。
「はい……分かってます」
怒り狂った良人を背景に、朔はやや強張った表情の朋絵を睨みつけた。
聖火は、膝の上で拳を強く握り締める。
指先に食い込む爪の痛みが、喉の奥から込み上げてくる衝動を辛うじて抑えつけていた。視線は、強張った真っ白な朔の指先に吸い寄せられている。筆を握るその手が、微かに、いや確かに震えていた。
隣の雨宮が何かを察知し、微かに聖火を見た気がしたが、今はそんなことが頭を過ぎることもない。
今にも飛び出したい衝動と、荒くなる呼吸を無理に押し殺し、ステージ上で対峙する朔の弱々しい背中を見つめ続けた。
◾️篝椿
由緒正しき名家である篝家に受け継がれてきた一刀。
椿の花が美しい白によって模られた黒い鞘、煌めく銀、見た目よりも重さはなく、軽め。
その為、機動力が高い攻撃がしやすい。
◾️咲焔
白暁で顕現出来る美澄の一刀。
顕現時に緋色の花弁を撒き散らす。
花弁は踏むなどの衝撃を与えると、爆発を起こす地雷型。美澄本人も関係なく爆発する為、扱いは難しい。
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お忙しい中、読みに来てくださってありがとうございました。
次回更新は7/1 17:00を予定しております。
何卒、よろしくお願い致します。




