第7話 白暁
拙作を読みに来てくださり、誠にありがとうございます。今日は後書きにて、設定資料を添付しております。
是非!
時間は流れ、クラス分け試験が刻一刻と迫り始めていた。聖火の思考は落ち着きを取り戻し、朔に対しての疑問と葛藤が浮かぶ。
思考を遮るように学園中にアナウンスが鳴り響いた。
「ただいま、9:00になりました。9:30より、本校舎から見える巨大な闘技場ーーアリーナにて、クラス分け試験を開始致します。参加者は速やかに移動をお願いしますーー繰り返し……」
聖火も拳を握り締め、闘技場へ向かった。
空を突き刺すかのような巨大な闘技場。
中央に立つだけで周囲の空気を支配し尽くす男が居た。炎道火山。大剣を背負い、仁王立ちする姿には一切の隙がない。寧ろ、緊張感や緊迫感さえ纏う。
時間が経つにつれて、クラス分け試験に参加する生徒達で観覧席が埋まり始めた。
彼らは火山の威圧感に圧倒され、他者を嘲笑う愚行さえも出来ずに、静かに時が過ぎるのを待つ。
「火山様、人数の確認完了致しました」
火山の背後に現れた黒服の1人が素早く報告を完了し、影に溶け込むようにして消えた。
「それでは、始めるとするか。私は炎命士東学園の理事長、炎道火山である! 急な制度の変更に戸惑った者も少なくないだろう! ゴホン!」
咳払いし、周囲の生徒達の様子を伺う。
真剣に聞く者から、どこか気が抜けた者まで、多種多様な参加者に火山は何か企んだ様子でニヤリと口角を曲げる。
「まぁ、細かい話は後じゃ! ふん、ーー炎天!」
誰かに聞こえるように言った言葉ではない。
その呟きは重く、火山は鍛え上げられた胸筋へ、突き立てた人差し指と中指の2本を強く押し込む。目に見える程の赤き炎が指先に灯り、空へと向けられた。
聖火は思わず、瞳を見開いた。
指先から放たれた巨大な炎柱、その熱気だけで会場に居た全員を釘付けにするには容易い。
空へと熱気が届き、強烈な爆裂音と共にーー、雲が、大気が、真っ青だった空が破れたように、赤き炎が空をも支配する。
「……案ずるな。落としはせん」
たった一言。指先の炎は消え、真っ赤だった空も綺麗な青色へ戻った。
その場に居た全員は固唾を飲んで、一連を見守っていた。"もしあれが落ちていたなら?"頭の中で不安が過る。
間違いなく、この街ごと消し飛んでいただろう。
「はっはっはっ!少し驚かせすぎてしまったか。これが君達が目指す炎命士の頂点だ」
火山はポカーンと口を開けたままの生徒達に、自らの失態を悔いて笑った。
「もう言葉も要らんじゃろう。今日は思う存分、自分の力を発揮し、周囲に見せつけるのじゃ。楽しみにしておるぞ!」
火山は激励の言葉を述べ、闘技場の3階に位置する貴賓席へ高く跳躍し、豪華な椅子へと腰を下ろした。
一連の流れを興味津々で見続けていた聖火は、周囲の生徒の反応を見て、自分が褒められているかのように、ニヤリと笑い、うんうんと深く頷いた。
「それでは、クラス分け試験に移りたいと思います。こちらで対戦表を組みました。名前を呼ばれた方は立ち上がり、ステージにお越しください」
闘技場内に自動音声が流れる。
「第一試合、橘美澄 vs 篝沙織」
二人は立ち上がり、ステージ上へ足を踏み入れる。
「橘美澄って言えば、あの無幻の炎命士だね」
「焔階級の?」
「そうそう。本物を目にすることが出来るとは、ラッキーだね!」
聖火の近くで談笑していた生徒の一人が声を上げる。黒い手帳を片手に青年はかけている眼鏡をクイっと持ち上げた。
「篝って、なんか聞いたことあるな」
「炎道家の分家の名家のひとつさ」
「てか、お前詳しいな。何者だよ!?」
談笑していた生徒達が何やら騒いでいるのを無視して、聖火は美澄の初戦に期待し、意識を集中させた。
「篝様、お久しぶりですわね。名家同士のパーティーの時以来でしょうか?」
美澄は両手を膝より上に置き、丁寧にお辞儀して、問いかける。
「ええ、橘財閥のお嬢様。階級はそこそこと聞いておりますが、私も家の面子がありますので、本日は勝たせて頂きますよ」
篝は懐から黒い柄の筆を取り出した。
柄の端には橘財閥のロゴが模られている。
「それはこちらとて、同じですわ。家を背負う覚悟というのは、簡単に敗北してはいけないという誓約も含まれているもの」
美澄は着物の懐から立派な一筆を携える。
漆を幾重にも重ねたような艶やかな黒塗りの持ち手には純金で模られた待雪草が咲き誇り、月光を束ねたような白い筆先がふわりと揺れた。
篝が持っている筆とは明らかに雰囲気が違う。
「それが例の……白暁!」
「ええ、よくご存知ね。お父様が私の為に作って下さった世界に一つの筆よ」
美澄は筆を携え、構える。篝はその神々しい見た目で既に圧倒され、額に冷や汗が滑り落ちた。
「流石は日本の炎命筆製造の大元、橘財閥の一人娘!あの白暁は生命の炎を通常の筆とは違う使い方が出来ると聞いたことがある」
黒い手帳を片手に茶髪の眼鏡の青年は声高らかに、嬉々として口を開く。
「てか、なんでお前そこまで知ってんだよ!」
「……ふっ、少しばかり物知りなだけさ」
と言い残し、雨宮はいつの間にか聖火の真横に腰を下ろしていた。
「やあ、僕のことが気になるのかい? これでも人から受ける感情を読むのは得意でね。自意識過剰というわけでもないと思うのだけど」
聖火は白暁の情報を持っていた雨宮の様子をチラチラとだが、見てしまっていた。そこを勘付かれたのだろう。
「いや、知識が豊富なんだなぁと思っただけだよ」
「そう? 白暁の詳細なんて一部の炎命士では有名な情報の一つだよ。君も知っていたろう?」
何か見透かしたような物言いがやけにカンに触る。聖火は雨宮から、美澄の勇姿を見届けようと視線を移した。
「図星かぁ。少しカマを掛けたんだけど、まあ良いや。橘美澄と篝沙織の大手財閥と名家対決。こっちの方が気になるしね!」
細かいことは気にしないタイプなのか、雨宮はへらりと笑って、ステージに視線を移した。
彼の目に宿る炎に誰も気づきはせずとも。
◾️炎命筆
橘財閥筆頭、橘吾郎氏が創り出した生命の炎を灯し、空中に頭の中のイメージを一筆で描き切れば、武器を顕現出来る炎命士の必要不可欠な武器。
◾️白暁
橘吾郎が娘、橘美澄の為に設計した少量の炎で夢幻の顕現を許す、世界でたった一筆の炎命筆。
美澄の命の炎と繋がっており、胸部ではなく、指先から炎を灯せる。美澄以外の人物には適応しない。




