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第9話 終秋

拙作を読みに来てくださり、誠にありがとうございます。今回も炎命術の詳細を後書きに記載しております。楽しんで頂けたら幸いでございます。

 「それでは、試験スタート!」


 今や聞き慣れた開始のアナウンスが闘技場に鳴り響き、両者共、懐から取り出した筆を握る。


「炎命術……秋哭(しゅうこく)!」

 朔は素早く一刀を描き上げ、顕現。

 黒い鞘に落ち葉が金で模られた鞘、刀身がやや長い刀は朔の身長とほぼ差異はなかった。

 鞘に納めたまま、両手で握り、構える。落ち着いた様子で淡々と、彼女の漆黒の瞳の中に炎が燃えた。


「炎命術……淡雪(あわゆき)!」

 朋絵が筆を取り出し、描き始めると、闘技場で観戦していた誰もが身を乗り出して、彼女の一筆に魅入る。真っ直ぐ綺麗な線で細部までしっかり描き上げ、筆が止まった瞬間、真っ白い雪が吹き荒れ、一丁の拳銃が顕現した。

 銃口を真っ直ぐ朔に向け、引き金を引く。

 銃声と共に飛び出した白い弾丸は朔の身体を過ぎり、地面に着弾。


「……ここで負けたら……」

 その場に立ち尽くし、ボソッと呟く声は誰にも届かず、次々に撃ち出される銃声に掻き消された。

「おい、朔!何してやがる!」

 背後から良人の怒声が響き、朔は哀しげな表情で腰を低く、顔が地面に付くか否か、前のめりに居合の体制で刀を構える。


 朋絵は表情ひとつ変えず、一定の間隔で銀の銃口に火を噴かせた。


「白秋流居合……終秋(ついのあき)

 朔に着弾するか否か、ーー 閃光。

 強く踏み出した片足を軸に超速の抜刀。

 全ての銃弾を紙一重で避けての至近。

 黒い鞘から白銀が振り抜かれ、捉えられたのは朋絵の身体ではなく"淡雪"。

 鈍い金属音が響き、朋絵の手から離れた淡雪は空中で独楽の様に回転し、地面に落ちた。


「勝負は終わりよ」

 朋絵の首先に秋哭が突きつけられ、勝負は終着を迎えたかに見えた。

 自分が見据えた未来通りになって安堵する朔に、朋絵は不敵な笑みを浮かべる。

「……まだ終わってないよ」

「え?」

 拍子抜けした返事。


「……淡雪の弾丸は当たらなくていいんだよ」

 朋絵の言葉と共に朔の身体がピタリとも動かなくなった。あまりに突拍子なことで、必死にもがき苦しむ中、朋絵は落ちた淡雪を拾い、銃口を突きつける。

「な、なんで……!」

「大切な銃弾(いのち)を無駄にしたくない。……降参して」

 朔は動けないまま、目に涙を浮かべ、静かに、哀しげに宣言した。



「オイ、朔ッ! こっちへ来い!」

 試験終了後、激昂した良人が観覧席から飛び降りて、朔の元へ駆け寄った。

 良人の手下達も、まるで金魚のフン、烏合の衆かの如く、背後に列を作って留まる。

「あの……すみま、……ッ!!」

 ーーバチンッ!と大きな破裂音が響き、朔は吹き飛ばされた。真っ赤になった頬を触り、涙が瞳に浮かぶ。

 間髪入れず、蹴りを入れようと、踏み込む良人の前に、鬼の形相の聖火が立ちはだかる。

「……またお前か。何故、俺様の邪魔ばかりする。部下の躾は上司の仕事、そこを退け!」


「上司の仕事は、部下をより良くするために考え、行動すること。お前のはただの暴力だ!」

 両手を広げ、朔を守る素振りを見せる。

「あのっ……私、ほんとに……ッ!!」

「ーー大丈夫なわけないだろ!我慢は、君を守ってはくれない!」

 涙ぐんだ朔の声を遮るように、聖火は口を開いた。真っ直ぐ、燃え滾る瞳は怒り狂った良人を睨みつけている。



「……あぁ、おまんら、その辺でやめちょけ」

 騒然とする闘技場の中心、良人と聖火の歪み合いを止めたのは、赤と黒い和装の男だった。

 男は意気揚々とした表情、特有な言葉遣いで間に入る。


「お前、何者だ?」

「わしは土佐から来た、御堂龍馬(みどうりょうま)いうもんじゃ。そがいに互いに気に食わんがやったら、正々堂々と勝負してケリつけりゃあえい 」

 顔を真っ赤にした良人の問いに、龍馬は両手を腰に当てて、思いついたように提案する。

 その言葉を聞いていた火山が、貴賓席から立ち上がり、黒服から受け取ったマイクを手に口を開いた。


「……面白い。孔雀良人、貴殿のその溢れる闘志を試験で披露せぬ手はない。そして、そこにいる大和聖火、貴殿の実力もこの場でするのじゃ」


 異例の展開に観覧席がざわめき、聖火は真っ直ぐ火山へ視線を向ける。火山は深く頷き、貴賓席へ腰を下ろした。聖火は、深々と頭を下げる。


「続きまして、大和聖火(やまとせいか)、孔雀良人。ステージに上がってください。 」

 闘技場内のアナウンスが流れた。

「安心しぃや。勝負が終わるまで、その()はわしが守っちゃる。じゃき、おまんは行ってきたらえい」

 龍馬は良人の手下が朔に手を出さないか警戒している聖火に、優しく声をかけた。

「……ありがとう。後で必ずお礼を」

「気にせんでえい」

 龍馬は、懐から取り出した筆を胸に当て、真っ赤に染まった暑苦しい炎で空気に刀を書き殴り、顕現。

「炎命術……雷光剣(らいこうけん)

 火花が散り、雷鳴が轟く。地面に剣を振るい、綺麗な横線を削り付けた。

「こっから先ぁ、命はない思うちょけ」

 後退りする良人の部下に、龍馬はその荒々しく強い瞳で睨みを効かせる。


「けっ、お前ら! 勝負が終わるまでは手は出さなくて良い。その代わり、終わったら朔を取り返せ」

「はい、良人様」

 "ひひひ"と下劣な笑いを広げる輩達は、剣を構える龍馬の背後に、へたり込む朔を舐め回すように見つめた。


「やっとお前を力でねじ伏せてやれる。身内の話に首突っ込んできやがって……名家と一般人(ざこ)の違い、見せつけてやるよ! 雑魚がッ!!」

 良人は懐から取り出した筆を指先で転がしながら弄び、聖火を"獲物"を見る目で捉える。


「……身内? お前が朔さんにしている行為は家族に対してすることじゃない! お前のその"暴力"にどれほどの価値があるか、教えてやる」

 聖火は胸部に指先を構え、良人を強く睨みつけた。

◾️秋哭(しゅうこく)

孔雀朔が炎命術で顕現する一刀。

刀身が長く、落ち葉が金で模られた鞘に納められている。抜刀を必須とする居合には不向きな刀だが、朔の技能と実力がそれをも簡単にする。超速で振り抜かれた秋哭の刀身から逃れるのは至難。


◾️淡雪(あわゆき)

朋絵が炎命術で顕現出来る片手銃。

銃口から伸びる白い雪を模した線が幾千も伸び、可愛らしいデザインになっている。

使用されている弾丸も朋絵の炎命術で生成されている為、地面に打ち込めば温度を下げ、対象の筋肉を急激に冷やすことで動作を停止させるなどの効力を発揮する。

他にも応用法があり、臨機応変に使用可能だが、銃自体が冷たいので低体温症になるリスクもある。


◾️雷光剣(らいこうけん)

御堂龍馬の炎命術で顕現する一刀。

その名の通り、雷を纏う攻撃力の高い刀。

その剣圧と衝撃波、刀に直接の雷が宿る。

龍馬自身に雷による痺れが伴う為、長時間向きではない。


もし、少しでも良いと思って頂けましたら、

画面下部の《☆☆☆☆☆》で評価、感想、レビュー等、お待ちしております。

お忙しい中、読みに来てくださってありがとうございました。


次回更新は7/4 17:00を予定しております。

何卒、よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
次回は特に見どころですね。 朔の剣について、もっと縺れるかとも思っていたので、 テンポが速くて次がどんどん読みたくなります。 龍馬について、いい人そうですね。 モチーフは想像がつくのですが、同じ結末…
土佐の龍馬登場でつい笑ってしまいました。 いい人だといいなあ……! そしていよいよ良人と対決ですね! しっかり痛い目に遭ってもらいたい(笑)
本作の強みは、単なる「炎の異能で妖を倒すバトル」ではなく、炎命士が命を燃やして戦う職業であり、それでも救えない命があるという残酷さを初回から見せているところです。 聖火はかなり強い主人公です。 18…
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