第10話 熾火の残響
拙作に来て頂き、誠にありがとうございます。
前回に引き続き、設定資料を後書きにて紹介してます。よろしければ、ご一読くださいませ!
「あれだけ俺様の邪魔をしてくれたんだ。たっぷりとお礼をしないと、気が済まねえな」
良人は怒り狂った様子でステージ上へ上がる。
「どうもお前の思想とは合わない。それで邪魔に思えるなら光栄な話だよ」
聖火の皮肉は良人を苛つかせた。
「まあ良い、大口は実力を示してからにするんだな。無名の一般人風情が、名家生まれの俺様に楯突いたらどうなるか。身体に刻んでやるよ!」
そう言って、良人は筆を胸部に突き立てる。
黒い柄、孔雀が金で模られた特別製。篝が持っていた物とは大きく異なる。
「筆と着物で家のデカさが分かる。炎命士の名家である以上、恥ずかしい物は身につけられないからな」
誰かに宛てた皮肉だったのか、周囲を見回し、自分を誇示するように良人は筆を握る。
胸から灯した紫の禍々しい炎が筆へ、一筆で描き上げるは自分の身体よりも長い"凶器"。
紫色の炎が燃え盛り、顕現。
「炎命術……夜叉哭」
黒紫の禍々しく、二刀の先端を持つ二又槍が良人の手中に収まった。
「……おい、何してる?早く顕現しろよ。まさか、筆を忘れたとでも? 」
槍を構える良人は、聖火が武器を顕現しないことに痺れを切らし、嫌味混じりの不安を明らかにする。
「炎命術……熾火」
誰に聞こえるはずもない声量で紡がれた詠唱。
胸部、指先から燃え盛る炎を抑え込み、身体が脈打つ。大きな鼓動後、聖火の周囲がじんわりと橙に輝く。それは目視で何がが変わったというには少々判断に難しい。
嫌味を無視し、拳を前に突き出して構えた。その様子に闘技場が騒めき、良人は嘲笑の笑みを浮かべる。
「おいおい、まさかお前……炎命術を使えないのか?それとも何か?俺如き使わなくても勝てるとでも?」
鼻で笑い、自分の中で勝手に着地した良人は、強張った表情で槍の矛先を突きつけた。
「それでは、試験スタート!」
アナウンスが鳴り響き、良人は迷いなく地面を蹴る。夜叉哭の長い柄を両手で握り、力一杯かつ、繊細な捌きが瞬く間に間合いを裂いた。
「……あそこまで大口叩いたんだ。実力を見せてみろよ! じゃないと、試験とはいえ、加減出来ねえぞッ!!」
瞬速の槍捌きを聖火は、淡々と避け続ける。
まるで相手の軌道を熟知し、未来でも見えてるかのよう。どころか、良人がわざと当てないようにしているかにも見える。
「ちょこまかと、逃げてばっかりでしょうもねえなァ!」
聖火の眉間、腹部、足、何処を狙っても当たらない。頬に冷や汗が垂れ、目に迷いが出てくる。聖火はその様子を回避しながらも、観察していた。じっくりと。
「……くっそがッ!!」
それはあまりに一瞬のことだった。
突き続ける神速の槍が如き、突きの連続、当たらないことに対しての焦りは時として綻びへ。
聖火の黒い瞳孔が巣に獲物がかかった時の蜘蛛のように、宛ら黒く揺れる。
「……ッ!? ぐっ……はぁ……!」
腹部に強烈な打撃が叩き込まれ、肺の空気が胃の内容物と共に外へ吐き出された。槍を持つ手が緩み、鈍い金属音が地面を揺らす。
良人は膝をついて、腹部を抑えながら、空気を吸わんと嗚咽混じりの呼吸を漏らした。
「……はぁ、はぁ、はぁ……ッ!! 何をした……ッ!!」
途轍もない衝撃が瞬時に起こったことで、何をされたかも分かっていなかった。何か鈍器のような物で腹部を突かれたような強烈な痛みが治らない。
聖火は黙って、ゆっくりと良人の前に立ち、氷のように冷たい視線で瞳を見開いた。
「……ま、待ってくれ!! 分かった……! 俺が悪かった! だから、やめてくれ!」
朔が受けた仕打ちを思い出し、拳を握る力が皮膚に食い込むくらい増す。小夜の妹だから、依頼を受けたから、そういうわけではない。
一人の人間として、良人の振る舞いは許せない。
「朔さんが抵抗した言葉を一度でも聞いたことがあるか? 彼女が我慢することを都合よく利用して、散々やりたい放題してきたお前が命乞いを?」
"ふざけるな"と言葉を放つ前に容赦なく、力一杯握りしめた拳を振り下ろすーー。
「ひぃぃぃぃいいい……ッッ!!」
雷鳴の如く、重い轟音が地面を、闘技場内の空気をも揺らす。砂埃を撒き散らし、爆風で砕けた床の小石が吹き飛び、その壮絶な威力を物語る。
あまりに強い衝撃に、良人は大きく地面が割れたことに口を大きく開け、瞬きを何度も繰り返した。
「名家のプライド?顔に泥?この程度の事で壊れるくらいの物なら最初から懐にしまっとけよ!」
「ごめんなさい……!!降参……」
そう言い放つ聖火に、良人は地面に頭をつける。
「もう二度と朔さんに近づくな!」
聖火は降参を口にした良人から視線を外し、踵を返す。
「……するわけないだろうがッッ! 敵に背中を向けるなんざ、素人のすることだッ!!」
夜叉哭を右手に引き寄せ、聖火の眉間目掛けて投げ放つ。死角を利用した音を殺した投擲、不意、短い距離、誰もが身を乗り出して、口を大きく空ける。
火山の近くで待機していた黒服ですらも、火山へ決死の瞳を浮かべる程だ。だが、火山は右手を挙げ、静止し、髭を纏った口角を上げる。
空気を切り裂きながら突き進む夜叉哭を素早く振り返り回避、柄の部分を一切微動だにせず、空中で掴み止めた。その動きは、最早人間業ではない。誰もが口を開けたまま、動けなかった。
「……嘘だろ!?」
投げ放った当の本人が一番驚愕して動けずにいた。
死角を狙った確実な攻撃、当たらないわけがない。
「手荒な真似はしない予定だったけど、予定変更。お前の性根を叩き直してやる、その槍を握れ」
夜叉哭の柄をグッと握り、良人へ無造作に投げる。
金属音と共に転がる槍を見て、動揺を隠せない良人を前に、聖火は拳を前に突き出して構えた。
◾️夜叉哭
孔雀家に伝わる紫炎を纏う、禍々しい二又槍。顕現者本人の意思で操ることが出来、自身に引き寄せる、投擲制御など、殺傷能力の高いスキルも備わっている。
◾️熾火
生命の炎を体内に回し、血流や筋肉の活性化を促す炎命術。炎道家本家の門下生であれば、誰であろうと使える一般的な炎命術。主に素早さや攻撃力と言った、身体能力が格段に上がる作用を持つ。
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次回更新は7/5 17:00を予定しております。
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