第11話 白熾の審判
拙作を読みにきてくださり、誠にありがとうございます。今回も後書きに設定資料を添付しております、よろしければ拝読頂ければと。楽しんで頂けたら幸いです。
ヒビ割れた地面に手と尻餅をつき、周囲の声が耳に劈く。烏合の衆の吐く言葉など、聞くに難しい。
良人は強く動揺していた、目の前の景色が霞む程、視界も身体の震えも止まらない。
「……俺は名家の孔雀良人様だ。お前ら一般の雑魚とは違う! 孔雀家こそが、炎道を継ぐ価値がある……」
ボソリと呟いた一言は聖火にだけ届いた。
「ここで終わったら……孔雀家の顔に泥を塗って、格下扱いされて終わりだ」
誰に聞かせるわけでもなく、罵詈雑言を吐き散らす。
「……こうなったのは全て、あの女のせいだッ!」
「そうやって責任転嫁ばかりしてる奴が炎命士の未来を守れるはずがない。やはり噂通り、孔雀家ってのは大したことないな」
良人の言葉を遮るように聖火が呟いた。
良人の表情が固まり、次の瞬間には額に沢山の血管を浮かべ、大きく見開いた瞳を細める。まるで鋭利な刃物のような瞳で切りつけた。
「お前、今なんて言った?」
「孔雀家は大したことないって言ったんだよ」
良人は歯茎が陥没する程、歯を食い縛り、強く憤怒の声音を上げた。
「違う、違う、違うッ! 孔雀家は炎命士の頂点を司る家柄、お前みたいな一般人が簡単に傷をつけていい名前じゃないッ!」
紫炎を纏った夜叉哭を握り締め、鋭い眼光で睨みつけ、構える。
「そう思うなら、押し通してみろよ! 俺にも譲れないものがある。お前を倒して、朔さんに心からの謝罪をさせてやるッ!」
"謝罪"という言葉で良人は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「俺様が謝罪? 何故? 寧ろ、感謝してほしいくらいだ!」
地面を蹴り、一気に夜叉哭の間合いへと接近。
紫炎の纏った二又槍の矛先が聖火の眉間を捉える。
先程とは比べ物にならない速度。
瞬時に体を仰反り、超速の槍を回避。
すぐさま、別の角度から飛び上がり、良人の脇腹へ回し蹴りを突き刺す。
良人は、怒りで感覚が麻痺しているのか、苦虫を噛み潰したような表情になるが、夜叉哭の長い柄で打撃、牽制に動く。直後、良人の禍々しい生命の炎の温度が爆発的に上昇するのを感じた。
聖火は素早く後退し、槍の間合いから外れる動きを行なった。
「ちぇっ……勘がいい野郎だな。まあいい、妖を狩るつもりで一切の容赦も、油断もしない!」
攻撃が読まれたことで残念そうに夜叉哭を握り直す。
「それなら、俺も少しだけ本気を出すとするよ」
聖火は胸部に右手指の全てを置き、目を瞑った。
鼓動の音、呼吸をする音、空気が流れる音、風の音、それだけが聖火の耳に届く。
「炎命術……白熾」
誰に聞こえるわけでもない声量での呟き。
胸の鼓動が強く大きくなり、身体を揺らす。
熾火が火照り、橙の光が煌々と白く輝く。
聖火が纏う微細な光が白く変化した。
「……何をしたッ!?」
見た目に反映はされていないが、明らかに何かが違う。良人は何かの正体にまでは気付けないが、その禍々しさに驚愕を隠せない。
「その誇りがどれほど、無価値なものだったか、知るといい。過去の過ちを悔いて、反省することだ」
聖火は瞳を見開き、今まで通り重心を低くして構える。
「笑わせるな! 俺が反省? この俺様が? さっきは逃げられたが、次は逃さない!! 孔雀家槍術奥義……紫孔槍!」
良人の絶叫と同時、紫色の残光が網目状に聖火の眼前を埋め尽くした。孔雀家が代々研鑽を重ねてきた、一族の誇りとも言える蓮撃の奥義。
その一突き一突きに、良人の歪んだ感情や、プライド、誇り、執念が宿る。
だが、聖火の瞳には、その絢爛豪華な光景もただの悪足掻きにしか映らなかった。
聖火は足を止めず、真っ直ぐに嵐のような紫炎の中へ踏み込んだ。
「華やかな技だな、良人。だが、中身がまるで追いついていない!」
聖火は拳に宿る白濁した光の刃を紫炎の奔流の中心部へ叩き込んだ。白光と紫光が衝突した瞬間、紫光は霧散した。まるで熱せられたガラスを金槌で打ち砕いたかのような、甲高い音が響き渡る。
「……あ、え、ッ……!?」
何が起こったのか、闘技場内の空気は静まり返った。火山だけが状況を理解し、険しい表情を浮かべる。
良人の言葉にならない吐息と同時に誇り高き、紫孔槍の軌道は瓦解した。
まるで時が止まったかのように空中で飛散した破片が宙を浮き、夜叉哭は粉々に砕け散った。
良人の執念深い想いなど無視して、紫炎を纏っていた破片が、ただの無機質な塵となって、闘技場の地面に降り注ぐ。
聖火は手元に残った白濁の余光を見つめ、絶望に立ち尽くす良人を冷ややかに見下ろした。
「あ、あ、あッ……!!」
砕け散った夜叉哭の破片に目もくれず、良人は放心状態で天を見つめる。大きなゆっくりとした鼓動と同時に目玉が飛び出す程、大きく瞳を見開く。
良人の身体を形容し難い激震が走った。
血液の代わりに滾る炎が、神経という神経を内側から焼き焦がしていく。全身の細胞が悲鳴を上げ、まるで煮え滾る鉛を血管に直接流し込まれたかのような激痛が、良人の意識を根こそぎ粉砕しようと襲う。
「あ……あ、ッ……!!」
視界が明転し、世界がぐるりと回転する。
生命の源が焼き尽くされる恐怖心と、苦痛に、脳が防衛本能として意識を遮断しようと、執拗に信号を送り続けていた。良人にとって、直接的な敗北を意味する気絶という名の甘い奈落が、楽になりたいと願う身体と神経に手招きするかのように誘っている。
「あ、あ、あッ……ふ、んッ……!!」
良人は意識が飛びそうになるギリギリのところで、最後の力を振り絞り、舌を噛み切って気絶を免れる。
既に立っているのもままならず、膝は諤々と震え、目の焦点は合っていない。
聖火は思わず息を呑んだ。
ーー狂っている。あれほどの痛みを食らって、なお立ち上がろうとするのか。
「お前の負けは明確に決まった。目を覚ましたら、朔さんに謝罪しろ!」
「ま、まだ……ま、まけへ……な、……!!」
聖火の言葉が聞こえているか否か、前のめりに倒れ、言い終えるよりも早く、良人は泥濘のような闇に沈んだ。
湧き上がる歓声と共に聖火はやり尽くした気持ちと、少しやりきれない想いをステージ上に残し、龍馬と朔の待つ方向へと足を進めた。
◾️白熾
炎道家に代々受け継がれる熾火の上位互換。
生命の炎を上昇させ、白い炎を灯すことで熾火と比べ物にならない程、速度、攻撃力、耐久力などの身体能力が爆発的に跳ね上がり、"生命の炎"に直接干渉、炎命術で顕現した武器の破壊、妖の核となる部分に直接的なダメージを与える事が出来る。
炎道家でも扱えるのは、火山、大地、純恋、聖火のみ。
◾️破魂
炎命術で顕現した武器が破壊された時に起こる症状。
生命の炎で顕現した武器は、自身の命を練り上げた「第二の心臓」とも言える。
術者自ら炎を消す「消化」には、なんの負荷も生じないが"破壊"は制御を失った生命の炎が逆流し、内側から焼き尽くされるような筆舌に尽くし難い激痛が襲う。
炎命士にとっての武器破壊は、単なる装備の喪失ではなく、命の器を抉られる死線に等しい行為。
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お忙しい中、読みに来てくださってありがとうございました。
次回更新は7/8 17:00を予定しております。
何卒、よろしくお願い致します。




