第12話 測れぬ器
拙作を読みに来て下さり、誠にありがとうございます。
今回も後書きにて設定資料を添付しておりますので、拝読して頂けると、より楽しんで頂けるかと思います。
「えい勝負じゃったな。お疲れさん。約束通り、あの娘は無事じゃき」
「龍馬君、ありがとう。助かったよ」
「わしのことは龍馬でえい。敬称なんぞ付けんでかまんき」
「分かった、龍馬よろしく。俺は大和聖火。俺も聖火で構わないよ!」
龍馬は雷光剣を解除し、聖火の肩をポンポンと叩く。
「それにしても聖火ぁ、こじゃんと強いがやな。えい腕しちゅうき、驚いたぜよ」
自分のことのように嬉しそうに話す龍馬に、聖火は微笑ましくも笑みをこぼす。
「続きまして、御堂龍馬、阿久津狂司。ステージに上がってください」
龍馬の聖火への問いかけはアナウンスによって遮られた。
「ほいたら、また後で話そうや。その子のこと、頼んだき」
聖火はコクリと頷き、朔へ駆け寄る。
心身共に疲弊しきっているのか、今はまだマトモに話せそうにもない。
ステージに上がっていく龍馬を後ろから見守り、周囲への警戒を怠らないように、視線を滑らせる。
「良人様がまさか負けるとは……何か卑怯な真似でもされたんだろうな。良人様の一番舎弟の俺様が仇打ったら喜んで貰えるだろうなァ」
ステージ上に龍馬と上がったのは、先程からずっと良人の隣で息巻いていた男だった。
紫のモヒカン、横刈り上げ、目つきも鋭く、見るからに悪いことをしてそうな見た目の男、阿久津狂司は、目の前の御堂龍馬を鋭い眼光で睨みつける。
「その良人っちゅうやつに褒められたら、何かえいことでもあるがか?」
「孔雀家の次期当主様になられるお方だよ。従順にしてりゃ、俺の欲しいもんは何だってくれる! それにあの女、気に食わねえんだよ」
龍馬は浅く溜息を吐く、その様子に阿久津は食ってかかった。
「お前ら凡人には分からねェだろうが、良人様こそが次世代の炎命士を継ぐお方だ。炎命士の古き良き伝統を引き継ぎーー」
「分かったき、もうその辺でえいろう。さっさと始めようや。おまんの言葉はちっとも面白うないき」
手を振り、阿久津の言葉を遮る。
心なしか、龍馬も憤りを感じているように見えた。
「炎命術……怨鉄棍!」
懐から取り出した筆に胸部の炎を灯し、ぶっきらぼうに空中へ書き殴る。繊細、美麗、そんな言葉が似合わない程に荒々しく描かれ、顕現。
禍々しい有刺鉄線が巻かれ、釘が至る所に突き刺さった金属バットを手に。
阿久津は、龍馬を睨みつけ、荒々しくフルスイングして構える。
「炎命術……陸奥守吉行!」
懐から取り出した一筆、胸の赤き熱に仄めかされ、一気に書き上がるは漆黒の柄の一刀。
緋色の炎から顕現、握る龍馬の眼光が"覚悟"を体現していた。
「それでは、試験スタート!」
アナウンスと共に地面を蹴ったのは、阿久津だった。怨鉄棍を振るい、一直線に龍馬へ襲いかかる。
だが、避けようともしない。
龍馬は真っ直ぐ、直立で刀を構えているのみ。
「貰ったぁぁぁあああッ!!」
「……ええ加減にしちょれや。ちっくと黙っちょれ」
大声でバットを振り上げる阿久津は、何かとんでも無いものに睨まれたような寒気がした。
ーー《一閃》
空間が、次元が、人体が、静寂の中で真っ二つに一刀両断。怨鉄棍の先から、阿久津の身体の足の踵に至る迄。血飛沫が宙を舞い、正に絶命。
ーー《気迫》
阿久津は全身の穴という穴から汗が噴き出、ぐっしょりとその場にへたり込む。
口をモゴモゴと動かして、言葉にならない声を吐き、白目を剥いて倒れた。
「人に斬りかかるがやったら、それ相応の覚悟、持っちょけや」
その"気迫"は、ステージ上に上がっていなくとも伝わってきた。
観客席の大多数の人物達は阿久津本人の身体が一刀両断されたかのような光景を垣間見た。
そんなはずはない、現に阿久津本人は御大満足に気絶している。幻影の類か、そう疑わざるを得ないほどに勝負はあっという間だった。
龍馬は壇上を降り、聖火へ駆け寄る。
「ずうっとこぉんな所におるわけにもいかんきに、医務室へ連れて行っちゃる。聖火、手を貸せ!」
「ああ、ありがとう」
消沈状態の朔に肩を貸し、龍馬と聖火は闘技場の医務室へと歩み、ステージを後にした。
「噂には聞いていたけど、まさかあそこまでとはね。御堂龍馬、彼は要注意っと……」
雨宮は黒い手帳にペンで情報を書き殴る。
その表情はどこか曇っていた。
全試験が終了し、最後に炎道火山が"ご苦労様"との言葉を述べ、試験はお開きに。
生徒達は各々の家に帰る準備を整えようとしていた。
「龍馬、ところでさっきのは……」
「試験のことか? わしぁ、何ちゃあ能力も武器も使うちょらんぞ」
朔を医務室に運び終え、龍馬と聖火は闘技場の廊下に二人並んで話を続けていた。
「……やっぱりか」
「気づいちょったがか? 大したもんやのう。やっぱり聖火は強いちや」
驚いた様子の龍馬に聖火は続ける。
「今日は本当にありがとう。龍馬が止めてくれなかったら、どうなっていたか」
「そがなことぁ気にせんでええ。あの張り手は、女に向けるもんやないと思うたきのう。 」
聖火はその懐の深さに感動した。
これからこの男と一緒に切磋琢磨出来るのかと思うだけで喜びが募る程だ。
「ほいたら、わしぁもう帰るきに。また入学のときに会おうや」
「うん、またね! 龍馬」
そう言って龍馬は振り返らず、その場を後にした。静まり返った闘技場の廊下で、聖火は今日一日起こったことを頭に浮かべる。
ーーあまりに色々なことがあった。
小夜から聞いていた通り、朔は孔雀家で相当良くないことをされているようだ。
学園内でもあの荒れ様、自宅なら……考えるだけでも辛くなる。一刻も早く彼女の解放を求めなければ。
「聖火、まだ残っておったのか」
考え事をしている聖火へ、何処からともなく現れた火山が声をかけた。
「やま爺、誰か残ってたらマズイよ」
「大丈夫じゃ、ワシら以外居らん。少しばかり話がしたくてな、家に帰ったら私の部屋に来なさい」
そう言って、火山はその場から立ち去った。
聖火も病室から踵を返す。
一縷の望みをかけ、"あの人"なら常軌を逸した良人の行動や言動を逆手に取って、上手く動いてくれるだろう。
今はまだ完璧な救出とは行かない、今はまだ。
◾️怨鉄棍
良人の舎弟である阿久津狂司の顕現する武器。
有刺鉄線が巻かれ、釘が至る所に刺さっている金属バット。持ち手にも侵食しつつある為、阿久津は手をよく怪我している。
◾️陸奥守吉行
御堂龍馬が顕現する漆黒の柄、鞘に納められる煌々たる銀刃の一刀。この一刀による能力はまだ明かされておらず、御堂龍馬しか知る者はいない。
もし、少しでも良いと思って頂けましたら、
画面下部の《☆☆☆☆☆》で評価、感想、レビュー等、お待ちしております。
お忙しい中、読みに来てくださってありがとうございました。
次回更新は7/11 17:00を予定しております。
何卒、よろしくお願い致します。




