第13話 焔の盤上
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学園から帰宅後、炎道家の敷居を潜ると、何処か懐かしさを感じた。懐かしさというよりは平穏な家の中が大変心地良いのだろう。
「……お、聖火。おかえり!親父、帰ってるぜ! 」
修行中の大地が迎えてくれた。朝から任務と聞いていたが、帰ってきて修行とは流石は親子。
「うん、ただいま。だい兄……」
「お?浮かない顔だな、珍しい。試験、上手くいかなかったのか?」
キョトンとした表情で修行を中断し、聖火へ駆け寄る。
「試験は勝ったよ。そうじゃないんだ……」
珍しく思い詰めた表情の聖火の肩を大地はポンと叩いた。
「学園でなんかあったんだな。それはお前のことじゃないんだろ?」
「……うん、でも何で分かるの?」
いつもは子供みたいな大人だが、こういう時、大地は決まって見透かしたようなことを言う。
「まあ、俺は何でも知ってるからな!」
ふふんと得意げに鼻を鳴らす大地に、聖火はクスッと頬が緩む。
「何だよそれ! 妖討伐以外、頼りにならないのに!」
「ちょ、おま!? 人が励ましてやってるってのに、何だその言い草は!!」
顔を真っ赤にした大地から逃げんと、家の中に入っていく聖火。
その背中を追わず、優しく微笑む。
「人間らしく、少しは迷え。お前が導き出した答えが必ず何かに繋がる」
ボソッと呟き、何もなかったような素振りで修行に戻った。
「只今、戻りました。やま爺、入ってもよろしいでしょうか?」
閉ざされた襖の前で正座し、入室の許可を得ようと、声を掛ける。
火山の部屋がある2階の廊下は、妖討伐の礼として贈られた古美術や骨董品が所狭しと並ぶ。さながら、展示会のような空間。
「ああ、入ってよい。ワシから招いたのだ、そう縮こまることなく入ってくれば良いものを」
襖を開けると、畳に直接腰を下ろしている火山が呆れたような表情を浮かべている。
「それで話とは、何でしょう?」
「聖火よ、あの孔雀家の童とはどういう関係じゃ? それと、あの朔という秘書もじゃ」
聖火は闘技場での試験が始まる前の事の顛末を事細かに共有した。小夜から受けた依頼も含め。
話を聞いた火山は喉を鳴らし、顎に手を置く。
「孔雀家の悪い噂は本当じゃったか。別の家から嫁がせた者を匿い、秘書と謳い、好き放題していると報告があった」
「うん、やま爺も見た通り、良人の朔さんに対する態度は常軌を逸している。アレを容認することは俺には出来なかったよ」
火山は首を縦に振り、喉を鳴らす。
「破魂が起きた以上、心身共に異常をきたしている今の状況で彼を返すことは出来んかったからのぅ。わしの監視下で療養させておる」
「朔さんは?」
良人の事など、一ミリも興味がないのか、聖火は非情にも話をすげ替えた。
「彼女は安全な場所で不自由のない生活を送ってもらうよう、頼んでおるからのぅ。聖火が気にしておる懸念については大丈夫じゃ!!」
「そっか、やま爺ありがとう」
聖火は分かっていたかのように、深々と頭を下げた。
「まさか聖火、これを見越して破魂を!?」
「やま爺なら動いてくれるだろうと考えてはいたけど、俺がそれをやま爺に直接お願いすることは出来なくて、そうするように仕向けたまでだよ」
顎の髭を指先で解くようにして、低い声で唸る。
「全く誰に似たのやら……策略家じゃのぅ。この一件、ワシも動こうと思うが、まだ何かありそうな気がしておる。引き続き、警戒を頼んだぞ!」
「はい!」
"失礼します"と付け加え、襖の扉を開いた。
居間へ向かうと、洗濯物を畳む純恋の姿があった。せっせと動き、聖火の気配に気がついたのか、ニコリと笑って、口を開く。
「お、セイ! おかえり。試験はどうだった?」
「すみ姉、ただいま。それは勝ったんだけど……」
浮かない顔、暗い表情の聖火に純恋は手招きで居間に座れと誘う。
「どうしたの? なんかあったでしょ。ほーら、顔に出てるよ?」
「任務の内容はーー」
"言えない"その言葉が喉の奥に現れたと同時に、純恋は右手で聖火の口を塞いだ。
「極秘なんでしょ! 言ったら、怒られちゃうよ。ただこれだけは覚えててほしい」
「……?」
首を傾げ、言葉を待つ。
純恋は優しい表情で瞳を細める。
「セイが何に悩んでても、私はどんな時も味方だからね。大丈夫、強いから! 紅蓮階の《血盟》だよ? どんな試練が待ち受けてても、セイなら出来るよ!!」
純恋は聖火を大きく励まし、親指を立てて、グッと笑った。
「ありがとう、すみ姉。元気出たよ」
「あったりまえじゃん! なんたって、私は聖火のお姉ちゃんだからね! 一緒に任務行けなくなるから、寂しいけど、大丈夫!!」
「うん、すみ姉には一番迷惑かけてる自覚あるんだ。本当にごめん!」
深々と頭を下げる聖火に、純恋は少し困った様子で肩をポンと叩いた。
「上司からの通達じゃ、断れないのは当然! 頑張ってね! セイなら大丈夫、私が見込んだ相棒だから!!」
そう言って、純恋は台所に消えて行った。
ーー自分のやれることをやろう。
聖火はズボンのポケットからスマホを取り出し、指を滑らせ、耳に当てる。
「もしもし……小夜さん? お願いしたいことがあるんだ」
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次回更新は7/15 17:00を予定しております。
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