第5話 来訪
拙作を読みに来てくださり、誠にありがとうございます。
翌日。
炎道家の玄関へ二人の少女とスーツ姿の紳士な男性が聖火に会いに訪れていた。
「お、美澄と朋絵じゃん! 聖火に用があってきたの?」
半袖短パン姿の純恋が出迎え、手には汚れた雑巾を持っていた。
「そうですわ、学園の入学のことで少々お話に参りましたの。聖火は部屋ですの?」
丁寧な物言いで、桜模様が描かれた綺麗な扇子を持った少女ーー 橘美澄は手入れの行き通った綺麗な赤髪を手で払い、桜花文の立派な着物の裾に扇子を入れた。
「聖火なら、自分の部屋に居ると思うぜ! ちょっくら、呼んでくるぞ!」
「いえ、お構いなく。純恋お姉様もお忙しいと思いますし、聖火の部屋ならよく知っていますもの。朋絵、行きましょう! 篁はこのまま待機」
篁と呼ばれた執事は深々と頭を下げ、一言目に「かしこまりました」と低い声で呟いた。
「純恋さんは相変わらず、お元気で……。何よりです。では……」
ペコリと頭を下げ、雪のように真っ白く透き通った白髪の少女ーー朋絵は、着ている白い着物の袖で顔を半分くらい隠し、赤面しながら逃げるように聖火の部屋の方へ走って行った。
「相変わらずの人見知りだね。学園って言ってたけど、あの調子で大丈夫かな?」
「純恋お姉様、心配には及びませんわ!何故なら朋絵にはこの橘美澄がついていますもの!」
ドンと胸を叩き、美澄は誇らしげに口を開く。
「そうだね、頼りにしてるよ!頑張ってね!」
純恋は手を振って、その場を後にした。
薄暗い廊下を歩いた先に聖火の部屋がある。木製の引き戸はいくつも傷があり、その傷は切り傷や打撲痕ではなく、火に焼かれたような跡ばかりだった。
「聖火、来たわよ!」
美澄は勢いよく扉を開き、椅子に腰掛け、首を曲げて顔だけこちらへ向けた聖火と目が合う。
「おはよう。美澄、久しぶり! 元気だった?」
「ご機嫌よう、元気だったわよ。朋絵も挨拶なさい」
「おはよ、聖火君……久しぶり」
美澄の後ろからひょこっと顔を出した朋絵が顔を赤らめながら恥ずかしそうに呟く。三人揃っての幼馴染だというのに、聖火と朋絵の距離は上手く縮まらない。昔からずっとこの距離のまま、時間が流れている。
「久しぶりだね。狭いところだけど、座って座って!」
聖火が腰を上げ、押入れから座布団を2枚取り出すと二人の前へ並べる。聖火は硬い畳の上に座り直した。
「ありがとう。それで大方予想はつくけれど、話ってのは何ですの?」
美澄が座布団の上に腰を下ろすと、朋絵も習ったように座った。
「二人とも学園の話は聞いた?」
やっぱりその話と言わんばかりに、やや被せ気味で美澄が口を開く。
「ええ、先日火山様が家にいらしてね。朋絵と私と火山様の三人で話をしたわ」
「へぇ、やま爺。忙しいはずなのに、そんなところまで根回しを……俺よりも早いなんて……」
つくづく、仕事のことになると根回しも頭の回転速度も凄い。最強と謳われる炎命士にも、それを言われるだけの所以があることに毎度気付かされている。
「任務のことは火山様から大方聞いたわ。聖火、あんたが学園で何をさせられるのかもね」
美澄は服の袖で口元を隠し、鋭い瞳で聖火を見た。
「そっか……極秘と言われた以上、俺の口からは詳しいことは話せない……。俺自身も何処に火種が埋まってるのか、見当も付かないからな」
「そうね、火山様が私達に話したのは、私達を信用して下さったからですもの。余計は詮索はしないわ。私達は、私達の出来ることを全うするだけよ!」
美澄と朋絵は微笑み、同時にコクリと頷いた。
「それで、私達からも提案があるのよ」
その言葉に反応して、朋絵が俯く。
美澄も嫌そうな表情で続けた。
「別に火山様に言われたとか、そういうわけではないわ。これは私達の覚悟と決断。学園では私達とは、初対面ってことにしないかしら?」
「……ッ!! ……うん、そうだね。悲しいけど、それが一番丸く治る気がするよ」
瞳を見開き、強く拳を握り締める。すぐさま、落ち着きを取り戻し、首を縦に振った。
聖火の言葉に美澄は安堵したようだった。朋絵は半ば強引に美澄の意見に同意しただけで気持ち的には、学園でも三人で仲良く話せる日を楽しみしていたのだろう、少し寂しそうに肩を窄めた。
「資格制度の裏は真っ黒よ。焔獄衆がこの機会を逃すはずがないわ」
美澄は憤りを感じる物言いで言い放った。
「入学資格があれば、誰でも入り込める。……もし、あいつらが生徒に変装していたら……まずいな」
二人の話をうんうんと聞き、普段は全く話さない朋絵が口を開いた。
「……そういう人をどうやって見分けるんだろう……?」
「見分け方は分からないけど、きっと何かの行動を起こすはず。行動に準備は付き物だから、警戒を怠らないようにするしかないな」
聖火が真っ直ぐな瞳を朋絵に向けると、彼女は恥ずかしがったが、控えめにコクリと頷いた。
しっかりと三人の中で答えが出たわけではなかった。警戒すると言っても、ずっと警戒していればかえって怪しまれ、違う場所に矛先が向く可能性だってある。
ただ確かなことは、これから通う学園が"平穏な学舎ではない"ということだった。
もし、少しでも良いと思って頂けましたら、
画面下部の《☆☆☆☆☆》で評価、感想、レビュー等、お待ちしております。
お忙しい中、読みに来てくださってありがとうございました。




