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第3章 幕間 水戸貞継

本編に繋がる水戸貞継の今後の物語。

第43話の時系列とズレているので、困惑したら申し訳ございません。

 今思えば、初めて出会った時から、

 "真っ直ぐ"で何一つ疑わない良い奴だった。


 ーーそんな聖火を俺は……。


 ーー数年前。

「初めまして、本日付で紅蓮玖(きゅう)に上がりました、大和聖火です。よろしくお願い致します」

 初々しい黒い着物を羽織った聖火は、頭を下げ、元気な声で口を開く。


「よろしく。水戸貞継(みとさだつぐ)だ。噂には聞いてるよ、最年少で期待の新人だとか?」

 水戸は、少し意地悪な口調で聖火の挨拶を折る。

 やや威嚇気味に不機嫌な表情で睨みつけた。


「いえ! 俺なんてまだまだです! 水戸さんて、あの《水鏡(すいきょう)》ですよね?」

「そうだがーー」

「ーー大ファンです!! 炎命術なのに、水をお使いになられるとか!? どうやってるんですか!!」

 目を輝かせ、水戸を必死に問い詰める。 


「え? ファン?」

「はい! だい兄っ……兄から、任務のこととか、色々聞いてまして!! 質問が沢山あるんですけど、良いでーー」

 ーー聖火の後頭部に強い衝撃が走った。

「聖火、昇格早々、先輩を困らせるな! 水戸、悪い。不出来な弟が……」

 水戸は目を大きく見開く。

「え、弟って……大地さん、どういうことですか!?」

「出来れば内密にして欲しいんだが、聖火は炎道の養子でな。俺の弟に当たる。仲良くしてやってくれ」

 聖火は後頭部を抑えながら、大地を睨みつけた。


「……だい兄、今日はなんで来たの? 別に紅蓮として初任務だからって、だい兄は要らないよ。帰って!」

「……っうるせえな! 初日早々、先輩困らせてたのはどこのどいつだよ!」

 水戸はその光景に目を丸くさせ、次の瞬間には笑っていた。


「ふふっ、面白いね。聖火君、任務中にいくら身内とは言え、上官に対してその発言は先輩として見過ごせないなぁ」

「あっ……すみません。水戸さん、少しだけ待っててくれますか?」

「……?」

 水戸が首を傾げていると、聖火は大地に向き直って、頭を下げながら言った。


「紅蓮壱階級の炎道大地様、ここまでご足労頂きましてありがとうございます。今日は休日で暇なのは承知ですが、お帰りください!!……よし!」

「よしじゃねえよ! ……あっ、おい! 聖火! テメェ、家帰ったら覚えとけよ! こらぁぁぁ!」


 聖火は水戸に駆け寄り、

「水戸さん、行きましょう!」

「え、あ、え!?」

 手を引いて、大地から逃げるようにその場を去った。



「聖火君、今日の任務の内容は覚えてるかな?」

「はい! Aランク動物型(アニマ)の討伐依頼ですね! 目的地も頭に入ってます!!」

「熱心で素晴らしいよ。ところで少し聞きたいんだけど、炎道の養子って?」

 水戸は微笑みながら問いかける。

「はい。幼少期に火山様に拾って頂いて、今に至ります」

「炎命士の名家、それも本家。凄いことだよ、将来安泰じゃないか!!」

「いえ、火山様やだい兄達が積み上げてきたことが凄いだけで、俺の力ではないですから。その名に恥じぬよう、努めます」

 聖火の言葉に、自ずと眉が上に上がった。


「……そうか。さっきの俺の炎命術の話、聞きたい?」

「えっ! 良いんですか! 聞きたいです!」


 聖火と水戸は目的地まで、たわいもない会話で盛り上がった。


 ーー任務後。

「水戸さん!もしかして、さっきの水鏡檻(すいきょうかん)って、攻撃、防御、捕縛の三つの役割があるんですか!?」

 聖火の質問攻めは止まらない。

 日が落ちそうになった頃、水戸は思いついたように口を開く。


「任務も終わったことだし、初任務完了のお祝いとして、何処か飯でも行くかい?」

「え、良いんですか!!」

 目を輝かせ、尻尾を振る犬の如く、喜びを見せる。


「俺の行きつけの店でよければだけどね」

「大丈夫です! 水戸さんの行きつけの店、めっちゃ嬉しいです!」

「じゃあ、行こうか」

 嬉しそうに笑う聖火を横目に、水戸は歩き出した。



 ーー和食割烹、如何にも高そうな風貌のお店に案内された聖火は、ソワソワして落ち着かない。

「水戸さん、ここって……もしかして、高いんじゃ?」

「炎道の養子なのに、そんな細かいことを気にするんだね?」

「質問を質問で返さないでください!! 炎命士の本家って言ったって、夕食はいつもすみ姉の手料理ですよ!!」

 自分の知らない炎道家の実態を耳に聞き入れていると、部屋の襖が開き、立派なお膳に乗る蓋の閉まった丼が聖火達の目の前に置かれた。

「ごゆっくり、お過ごしくださいませ」

 襖が閉まり、水戸は丼の蓋を嬉しそうに開けた。


「水戸さん、これは?」

「俺の好物、ここのは特に絶品なんだ!」

 聖火が恐る恐る蓋を開けると、そこには美しい姿の親子丼があった。


「わぁぁぁ、凄い美味しそうです!!」

 思わず、声を上げるほどの美しさ。

 出汁色に少し茶色がかかった卵と一口大に切られた鶏肉、丼の真ん中には赤みがかかった卵黄。まさに完成された親子丼。


「いただきます」

「いただきます!」

 手を合わせ、目を閉じながら呟く。


 水戸は嬉しそうに大きな一口を頬張り、顔を赤らめながら喉を鳴らす。その瞳にはどこか哀愁が漂う。

「うん、美味いな……」

 聖火も一口頬張り、笑顔をこぼした。

「ん……! 美味しすぎる! 水戸さん、こんなに美味しい親子丼食べたことないです!」


 嬉しそうに二口、三口と食べ続ける聖火を見て、水戸は嬉しそうに笑う。その目には雫が潤んでいた。

「ふふっ、そうだろう?……俺も好きなんだ、味が似ていてね」

「はい! ……水戸さん? 最後、なんか言いました?」

「いや、何でもないよ。聖火君、ここの親子丼はこの卓上の鳥の出汁をかけると更にーー」


 その後は、たわいもない話で盛り上がった。


 ーー全ては"目的"のため。

 楽しかった時間や、思い出は偽りではない。

 それすらも"糧"にするまで。


「310番、水戸貞継。入れ!」


 ーー鉄臭い匂いが充満する薄暗い地、牢の扉が閉まり、厳重に鍵がかけられた。


 両腕を失い、止血手術を施された水戸が牢の中に腰を下ろし、無言で虚を見つめている。

 看守が居なくなり、周囲は静寂に包まれた。


「……これでいい」


 口元を歪め、笑う。


「ここからが本番、あとは待つのみ」


 その瞳に虚はなく、赤い炎が燃え滾っていた。

もし、少しでも良いと思って頂けましたら、 画面下部の《☆☆☆☆☆》で評価、感想、レビュー等、お待ちしております。 お忙しい中、読みに来てくださってありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
この先まだまだ何かが起こることを水戸さんご存知なセリフじゃないですか……その瞳なにも諦めてないやつじゃないですか。これからどう物語に関わってくるのか気が気でないです。 聖火との思い出が穏やかで温かい…
水戸さん……? 暖かな思い出からの、過酷な現実……背後には誰のどんな思惑が蠢いているのでしょうか……。 気になりすぎます!
水戸さんと聖火と親子丼。 一体誰の味に似ていたのか。 そして、そんな聖火たちとの回想シーン。目的のためだけど、楽しかった時間や思い出は偽りではない。 めちゃくちゃ切ないし、水戸さんの目的とは? 両腕を…
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