第40話 友と使命
太陽が落ち、空が暗転し、春の寒さが頬を突く。
大地は背後に突きつけられた銃口に動じることもなく、淡々と口を開いた。
「……何のつもりだ? 妖?」
「とぼけても無駄じゃ。こっちは、全部知っちゅうぜよ」
龍馬は突きつけた銃口をさらに押しつける。
「そんな鈍で俺をどうにかできるってか?」
大地の額に血管が浮き出る。
「俺はあんたと戦いたいわけやない。大人しゅうしとーせ」
「……お前、何者だ?」
その問いかけに龍馬が答えることはなかった。
龍馬の背後から複数名と一匹、ゾロゾロと学園の中を踏み現れる。
「お仲間か……」
一言呟き、大地が懐から筆を取り出そうと手を伸ばした瞬間ーー気配も無く急に現れた金髪の少女に筆を蹴り飛ばされ、真正面からも銃口を向けられた。
「抵抗しても無駄です。龍馬様、詰めが甘いですよ! そんなところもかっこいいんですけど……!」
龍馬の顔に視線を送ると、途端に顔を真っ赤にする少女。大地が隙を見て動こうと力を入れるも、彼女から向けられた銃口による圧力は途切れない。
「無駄と言ったでしょう? これだから炎命士は……しょうもない。大人しくその妖をこちらに引き渡すしか、貴方に選択肢はありません!」
大地は何かを察し、戦意を喪失させる。
「……《破壊の炎命士》案外簡単に応じたか。これも全て龍馬様の功績あってのことだ。当主様も喜ばれる! まっこと天晴れだ」
背後から歩いてきた赤い衣を身に纏った男は、嬉しそうに口を開く。
「おい、お前ら丁重に扱えよ? これから我ら陰陽師が主導権を握るために必要な屑だからな!」
白装束の手下数人が聖火を拘束し、何処かへ運ばれて行った。
「それじゃ龍馬様、また後で」
嵐のように過ぎ去った時間、その場には先程の金髪の少女と、龍馬と大地が残された。
大地は龍馬に何かを言うでもなく、両腕を失い、出血多量で気を失っている水戸の身体を背負い、無言で立ち去る。その足取りは何処か不機嫌で哀しげ、足早に見えた。
大地の姿を視線から外し、龍馬は口を開く。
「……はぁ、もう少し学園生活を楽しみたかったき。聖火を裏切るんはしんどいぜよ」
「龍馬様、貴方の宿命をお忘れですか? 貴方の心のお優しさは私も重々承知の上……だからこそ、今回の任務は龍馬様が適役でした」
金髪の少女は暗い表情の龍馬の肩を優しく撫でる。
「分かっちゅう。炎命士がした事は許されん!! 俺は心を鬼にするぜよ」
「またいつでも私を頼ってください。私は天地がひっくり返っても龍馬様の味方です」
少女は献身的な言葉を繰り返し、龍馬はそれを受け止め、深く頷いた。
ーーその頃、炎神神社。
「中に居る、長門弥彦に話をしに来ましてね。この門を開いて頂けますか?」
「……あなた方は何者でしょうか?」
真っ白い装束姿に、白い髪、眼鏡をかけた青年が炎神神社の門番に声をかけていた。
「当の本人は分かっていると思いますが……まあ良いでしょう。私は水無瀬涼。陰陽師です」
最後の一言で門番が懐の筆に手をかけた瞬間ーー炎神神社から弥彦が姿を現し、門番を制止する。
「俺のことは大丈夫。その筆を納めてくれ」
「長門さん……彼らは」
「心配には及ばないよ。こうなる事は前から予期してた、陰陽師が機会を窺っていることなど……ね」
弥彦は美しい瞳で涼を睨みつけた。
「分かっていたなら……まあ良いでしょう。炎命士のような脆弱な屑に言葉は通じない。あなた方の総本部に行きますので、ご一緒して頂けますか?」
弥彦は淡々と頷いた。
「それでは、ご機嫌よう」
彼らはその場から一瞬で消えた。
ーー炎命士学園、理事長室。
電気もつけず、薄暗い部屋に怒りの炎が燃え滾っていた。火山は酷く怒り、電話の相手に声を荒げる。
「あの件から暫く静かにしておったというのに、どういうつもりじゃ!?」
電話の主は鼻で笑いながら答える。
「……時は満ちた。これからは炎命士やのうて、陰陽師の時代になる」
ただ一言、その一言で電話は途切れ、火山は強く歯を食い縛った。
「……聖火」
静寂の中、呟かれた一言はそのまま消えていく。
「龍馬様、東京支部へご帰還を。私の陰陽術で飛ばれましょう?」
金髪の少女は巫女服の袖から一枚の紙を取り出し、額に当てた。
「陰陽術……瞬歩」
「分かったぜよ。礼を言う」
龍馬と少女の周辺が強く白い光に包まれ、一瞬にして龍馬の視界の景色がガラリと変わる。
和を感じさせる一本の松の木と枯山水、透き通るような大池のある巨大な屋敷ーー晴明屋敷へ。
「……帰還されましたか。おかえりなさいませ、龍馬様」
白装束姿の男女数人が龍馬を見て、頭を垂れる。
「凛々花様もご一緒でしたか」
金髪の少女ーー凛々花は一礼した。
「龍馬様、尚足様がお待ちです。私は外で待っております。行ってらっしゃいませ」
表情が強張った龍馬は凛々花に言われるがまま、広大な屋敷の本堂へ入って行った。
ーーいつまで経っても、ここには慣れんのう。父上に会うがも、久しぶりぜよ。
心中で呟いた。古い木造のツンとした匂いが鼻をつく。靴を脱ぎ、足の裏に冷たい感覚が走った。
白い虎が描かれた襖に手をかけ、勢いよく開く。
巨大な部屋の中、退屈そうに足を崩して座っている貫禄のある男ーー尚足が嬉しそうに声を上げる。
「龍馬よ、よく帰還したな! 今回の件、手柄であった!」
龍馬は部屋の中央で膝をつき、頭を下げた。
「……当然のことをしたまでじゃ」
龍馬の表情は固く、暗い。
「面を上げろ、我が英雄よ。これで炎道家も簡単には動けまい! ハッハッハッ!」
顔を上げた龍馬を見て、尚足は嬉しそうな表情で続ける。
「後はあの妖をどうするかだが……まあよい! 本当に良い働きをしたな、当主の話もーー」
「ーーありがとうございます、父上。それじゃあ、失礼いたしますき」
龍馬の言葉を遮るようにして、入り口から2人の男が現れ、尚足に頭を下げ、口を開く。
「尚足様。龍剣と水無瀬涼。帰還致しました。例の妖は地下にて隔離、炎命士の責任者である長門弥彦にも話をつけております」
龍馬が興味なさそうに部屋を出ようとした瞬間ーー入り口に結界が張られ、行く手を阻まれた。
「そうか、お前ら2人には頭が上がらない。引き続き、任務にあたってくれ」
「「御意!」」
龍剣と涼は頭を上げ、龍馬に視線を移す。
「流石は父上のお気に入りだな。随分と早かったじゃないか」
「兄上に褒めてもらえるとは思わんかったぜよ」
「……褒めてはいない。良い気になるなよ?」
龍馬の兄ーー龍剣は龍馬のスカした態度に苛つきを覚え、表情を曇らせる。
「尚足様、発言をよろしいでしょうか?」
「良いだろう」
二人のやり取りを見ていた涼が尚足へ口を開いた。
「ありがとうございます。今回の任務の件、龍馬様が適任だったという判断は正しかったのでしょうか?」
「ふん、何が言いたい? 申してみろ」
遠回しな言い方を嫌い、尚足は問いかける。
「次期当主は龍馬様でなく、龍剣様が相応しい。私と同様にそう考えている陰陽師は多い。次期当主の件、今一度ご再考頂きたく!」
「ふむ……考えておこう」
尚足は顎の髭を触りながら頷いた。
「俺は当主なんぞには興味ないぜよ。兄貴がなったらええがじゃ」
「ならば最初から父上の期待を奪うな!」
龍馬は龍剣の言葉を無視して、部屋を出る。
いつの間にか、結界は消え、その場に残された龍剣は強く拳を握り、その後ろ姿を睨みつけた。
「……はぁ、息が詰まりそうぜよ」
ーー学園の楽しい雰囲気とは程遠い環境。
龍馬は屋敷の縁側に腰を下ろし、枯山水を物憂げな表情で見つめる。
「ガルルルル……ガウッ!!」
ーーと、そこへ巨大な白い虎が現れ、龍馬の目の前で立ち止まった。
「雪どうしたがじゃ? 凛々花は一緒じゃないがか?」
龍馬は親しそうに白い虎ーー雪の頭を優しく撫でる。
「龍馬様、ここに居たんですね! 雪が一目散にこっちに駆けて行ったから何事かと思えば……!」
凛々花が息を切らしながら現れた。
彼女は悲しげな表情の龍馬を汲み取り、優しい口調で続ける。
「龍馬様、本当にこれで良かったんですか?」
「……俺はまだ聖火を友達だと思っちゅう。じゃけんど、任務じゃき。仕方ないことぜよ」
必死に葛藤し続ける龍馬を見つめ、凛々花は再度、口を開いた。
「でしたら……そのお気持ちまで、捨てなくても良いのではありませんか?」
凛々花の言葉に龍馬は嬉しそうに笑った。
◾️陰陽師
全ての妖を封印することを目標に掲げ、活動する組織。
土佐に本家があり、東京都にも支部がある。
炎命士と古くからの確執があり、いがみ合っている。
もし、少しでも良いと思って頂けましたら、 画面下部の《☆☆☆☆☆》で評価、感想、レビュー等、お待ちしております。 お忙しい中、読みに来てくださってありがとうございました。




