第3話 緊急招集
拙作を読みに来てくださり、誠にありがとうございます。
日付が変わり、聖火と大地は所属している階級組織の"特別招集会議"の会場へ向かう為、電車の中に居た。
「はぁぁぁぁぁあああ………ッッ!!」
「……だい兄、溜息大きすぎだよ。周りの目も考えてくれる?」
「その格好のお前に言われてもな……」
あまりに大きなため息を吐く大地に睨みを効かせた本人、聖火は全身銀の鎧姿、背中に巨大な大剣とその場に居るだけで注目を引いていた。
「オイオイ、アレって……"血盟の炎命士"と"破壊の炎命士"じゃないか? 」
「嘘だろ……!紅蓮が二人も?! 」
周囲がザワザワとしてきた。間違いなく大地のせいだろう。聖火は大地を甲冑越しの瞳で睨みつける。
「……ったく、あの野郎はなんで休日に限って招集なんかしてくんだよ!」
「全員が集まれる機会なんて滅多に無いし、多忙なだい兄の予定と会わせてくれたんだから、文句ばかり言わない!」
ぷくーっと顔を膨らませ、ご機嫌斜めな様子。
今日は任務というわけでもないので、赤色のインナーに黒ジャケットとカジュアルな私服スタイルだ。
「ーーーまもなく、夜桜川ーーまもなく、夜桜川ーーお降りの方はーー」
車内のアナウンスが耳に届き、二人は電車をすぐさま降りた。周りの目も少しばかり気にはなったが、降りる際に手を振ってきた男の子に聖火は手を振るぐらいだった。
駅構内を抜け、生い茂る木々達が永遠に奥へと伸び続ける細道を真っ直ぐに突き進む。
まるで木々達が細道を隠しているかのように前のめりで、太陽も空も木の葉越しにほんのり見える程度だった。
「だい兄、歩くの早いよ!」
「お前が遅いんだろうが……なんで私服で来なかった!?」
整備されてもいない砂利道に足場が覚束ない。聖火は鎧姿なので特に歩くのが辛そうだ。
細道を抜けると、壁のようにそびえる巨大な白い石階段が見え、その天辺に赤い鳥居が立っていた。
細道から見える位置からでは鳥居の真ん中に太陽があり、まるで鳥居が太陽を護っているかのようだった。
「はぁ……疲れた。もう歩きたくねえ!」
「ーー全く、貴方はいつでも文句ばかり」
大地と聖火の後ろから白い着物姿の女性がひらりと吹き抜ける風が如く速度で二人を抜き去った。抜き去りざまに一言添え、女性はあっという間に鳥居の奥へと消えていった。
「……え!? 今の小夜さんじゃ……!?」
「ああ、彼奴も来てんのかよ。今回、いつも来るメンツじゃねえのも来てんだな」
大地は"負けてられない"と口を開き、聖火を差し置いて階段を素早く駆け上がった。
「このタイミングでスピードアップとか聞いてないんだけど!!ちょ、待ってえええ!」
何とか階段を駆け上がり、鳥居の先に進むと古びた御堂のある神社が見えてきた。
炎神神社、炎命士が妖を倒す上で最も重要な力が代々受け継がれることで蓄積されている場所。
「……紅蓮壱の大地様と紅蓮玖の聖火様ですね。確認取れました、先のほうへどうぞ」
受付のお姉さんを横目に通り過ぎ、御堂の横道から木造の赤い扉を開く。先程、外の階段で二人を追い越していった白い着物姿の女性と、
茶色い髪の優しそうな男の人が椅子に座っていた。
「お疲れ様です。それと、お久しぶりです。小夜さんと朝日さん!」
聖火が甲冑越しに籠った声で挨拶すると、二人はコクリと頷いて口を開いた。
「久しぶりね、聖火君。身バレ防止の甲冑と鎧、使いこなせているようで良かったよ」
「小夜さん、その節は本当にありがとうございました!」
「良いんだよ、困ってる時はお互い様だからね。それにしても緊急招集だなんてどうしたのかな?」
小夜が顎に指を当ててキョトンとしていると、茶色い髪の優しそうな風貌の男、朝日は人差し指を立てて口を開く。
「話の内容は大方、聖火君の事だろう。法律の急な改変、紅蓮階からは《血盟》が駆り出されるわけで。……っと、話は聞いてるかな?」
朝日が視線を向けてくる。いつものように優しげで、心配に満ちた瞳だ。
しかし、聖火の身体は本能的に拒絶していた。彼が微笑むたび、胸の奥がつっかえるように苦しく、鉄錆のような嫌な味が口の中に広がり、警鐘を鳴らす。何故なのかは分からないが、朝日の視線に恐怖を感じた。
「はい、火山様からお話は聞いてます」
「炎命士も昔と違って数が増えたからね。最近、怖い事件が多くなっているだろう。炎命士による強姦、脅迫、強盗、人を救う以外で命を燃やす馬鹿野郎は粛清せねばならない!」
珍しく声を荒げた朝日にその場に居た全員は思い当たる節を察して、哀しげに瞳を落とす。
「……ッと、集まっとるか〜?皆の衆」
控えめにガチャリと開いた扉の先には白く長い髭を生やした老男性が立っていた。頭から足の付け根まで筋肉一つ無い身体を支えているのは木でできた棍棒のような杖一つ。
「矢巾先生! お久しぶりです!」
「ほほほ、聖火! 久しぶりじゃな。良かったら、顔を見せとくれ!」
矢巾は嬉しそうに感激の声音を上げる。
「はい!分かりました!」
聖火は甲冑と鎧を脱ぎ、白いパーカーにクリーム色の半ズボン、スニーカーとラフな格好にシフトチェンジした。
「任務でもねえのに、最初っからそれで良かったんじゃねえの?」
「駄目だよ。学園に通うにあたって、だい兄と一緒に居る姿を見られたら関係性を疑われることになるでしょ」
"成る程"と手を叩く大地を横目に、聖火は矢巾の前に立った。
「また一段と逞しくなったのぅ。まるで孫を見ているかのようで嬉しいわい! 少しばかり危険な任務じゃと思うが、また会えるのを楽しみにしとくとするかのぅ!」
「矢巾先生……!」
矢巾は聖火に優しく微笑んだ。
「それで俺らを召集した、あの馬鹿はまだ来てねえのか?」
「長門さん、また近くで女の人を蔓延らせてないと良いけど……。いくら桜ちゃんが付いていてもアレはね……」
いつまでも会が始まらない事に退屈した大地は頭の後ろを掻きながら気怠げに口を開く。
「長門は女の子に弱いからのぅ。前に女性型の妖が現れた時も攻撃出来ずに、ワシと桜で代わりに倒したからのぅ」
「それはご苦労様です……。俺もだい兄との任務でご遺族の方にメンチ切ってキレるだい兄を抑え込んで、ご遺族の方に謝るの疲れました。 」
"とほほ"と疲れた様子の二人。
聖火の話を聞いた小夜と朝日はドン引きした様子で口元を隠して、大地から後退りした。
「ちょっ、待て!その件に関しては俺は悪くねえ!! オイ、聖火!! テメェなぁ!!」
声を荒げた瞬間、勢いよく扉が開き、凄まじい速度で部屋に飛び込んできた人物を、大地は紙一重でかわし、一歩下がった。
「……んー、扉を前にしての奇襲も効かないとか、弱点ないねー」
「危ねえなぁ!! おまっ……遅刻した上に奇襲とかふざけてんのかッ!!」
光沢のある桃色の瞳、その双眸は透き通り、まるで宝石のよう。白く綺麗な肌に艶やかな唇、薄い桃色の長い髪をゴムで括り、ピンクを基調とした綺麗な桜が咲き誇る立派な着物に織られている。
長門、と呼ばれた青年は着物の袖で口元を隠してクスッと笑った。
「長門や、折角集まってもらったんじゃ! 手短に要件だけ話せ」
まだ悪戯を仕掛けようとしている長門を見兼ねた矢巾が額に皺を寄せ、口調を荒げて言った。
「先生はいつも先が見えてる、流石だよ。そうだね、皆暇じゃないよね。今回集まってもらったのは他でもない!」
ポリポリと後頭部を掻いて、長門は続ける。
「火山様からの通達でね。今回、炎命士東学園の開校を狙い、良からぬ輩が暗躍すると聞く、生徒として潜入するのに丁度良い年齢の聖火が極秘任務として潜入することになった。」
真剣な表情で頷く聖火を見て、長門は何かを察したように優しく微笑む。
「懸念していたことは、大丈夫そうで安心したよ。それに、聖火は僕からも推薦させて貰ったんだ。大地は反対しているようだけどね」
「そうなんですか?」
キョトンとした表情で大地へ視線を向けると、目が合う。バツが悪そうに目を逸らされてしまった。
「ああ。聖火は幸い、年齢や容姿で批判を貰うのが嫌で《血盟》としての活動を身バレ防止の鎧で隠してきた。そこで、姿も知られてない聖火に学園を護衛して貰えば、暗躍も止められるだろうとね」
長門はそっぽを向き続ける大地を優しく諭す。
「大地、君が懸念していることはもう起こらない。あの時に比べれば聖火は強くなった。ここ数年は暴走も"あの力"も使っていない」
「……分かってるよ。一応、保険は掛けてるし、俺もそこまで過保護じゃねえ。ただ、お前も任務だからとか、そんな理由で自分捨てたりしたら容赦しねえからな」
大地が言葉を向けた先は長門ではなく、聖火だった。
「うん。だい兄、大丈夫。心配してくれてありがとう。この任務で、だい兄の手を煩わせるような真似はしないから」
真っ直ぐな瞳と表情に長門は圧倒された。
大地はまだ納得していないのか、どこか上の空で下を俯く。
「余計な心配だったようだよ、大地。僕も聖火と、もう一度前線張れるのを心待ちにしておこう」
長門は胸を撫で下ろしたような表情でニコリと笑った。
「ただね、上と相談して決めたこともある。紅蓮階から《血盟》の活動を自粛となると、聖火君の身バレになり兼ねない。だから非常時のみ、通常任務で手を借りることがあるかもしれない」
長門が真剣な様子で続けようとするのを、大地が遮った。
「全く都合のいい時に使おうって魂胆が見え見えなんだよ。血盟が居なくたって、俺ら他の紅蓮階が居るんだから、大丈夫だろ。それっぽいこと言って活動休止もさせねえなんて、とんだブラック企業だな!」
「だい兄、長門さんの話を遮らないでよ! 僕は全然大丈夫。極秘任務と言っても、それだけ請け負って、他をやらないなんて無責任すぎるよ」
聖火は大地が自分の為に怒ってくれているのは分かっていた。それでも、眉間に皺を寄せながら、怒りを我慢して、的確に言葉を伝えようとしてくれている長門に大地の行動や言動は失礼に当たると感じたのだ。
「聖火は大人だね。それに比べて大地は、そういうところ何も変わらない。どっちが大人なのか怪しいところだよ」
大地は、ケッと腕を組んで外方を向いた。
一連の様子を見ていた小夜が次に口を開く。
「長門さん、そう言えば、全員参加は出来なかったようね?」
「あはは、小夜ちゃん。君も聖火が暫く集会に来れなくなるかもしれないと聞かなければ、来なかっただろう?桜と水戸は別件で関西まで出向いてもらってる。」
小悪魔のような微笑みで長門を小馬鹿にする小夜を軽くあしらい、彼は自分の妹である長門桜と紅蓮階級の一人、水戸貞継の名前を出した。
大地は退屈そうに、壁の木目の数を数え始める。
「ふーん、また不思議な組み合わせね。それじゃ、他の二人は?」
「彼らは一生喧嘩でしょう。あの戦いを止めに入るのは野暮というもの。紅蓮階がピンチに陥った時、猛威を振るってくれればそれでいい。」
長門が意味深な言い方をした理由には根拠がある。紅蓮階級の残り二人は正真正銘の血縁関係にある兄弟で弟が紅蓮参、兄が紅蓮伍であることから兄が弟を認めず、弟が兄を認めずに、とある山の頂上で年中戦いに明け暮れている。
その為か、山の頂上から麓の村まで妖が一切出ず、日本で最も安全な村として知られている。
「何をそんなに揉めることがあるの……。聖火君は会ったことすらないんじゃない?」
「無いですね、お話は予々お聞きしてます」
小夜は腕を組み、理解出来ないと言った表情で首を横に振った。
「さあ、集会はお開きにしよう。皆もそんなに暇じゃないと思うしね。大地だけ奥の部屋で少し話そう。それじゃ、皆今日はありがとう!」
長門はニッコリと笑って、大地以外に別れを告げた。大地は「少し待っていてくれ」とだけ言い残して、長門と遠くの部屋に消えていった。
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次回更新は6/13 17:00を予定しております。
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