第2話 炎道家
拙作を読みに来てくださり、誠にありがとうございます。今回も後書きにて設定資料を載せております。
楽しんで頂けたらと思います。
狛犬討伐任務も無事終わり、家に帰ってきた聖火と純恋は家の玄関前で木刀を振るい続けている男、炎道大地に声をかけられた。
袴の上着を脱ぎ捨て半裸状態の大地は、顎に大きな刀傷のある茶色い短髪、引き締まった筋肉の持ち主だ。
「随分と派手にやられたな、純恋。大方、Aランクの妖だからと傲慢に油断でもしたのだろう? 聖火が居てよかったな!」
「はぁ……!? 俺ちゃんが油断なんかするわけないし! 何を見透かしたようなこと言ってんの! バカ兄貴!」
図星つかれたことで顔を真っ赤にする純恋の言い分をニヤニヤと頷きながら聞いている大地。
炎道家で、この二人の兄弟喧嘩は日常茶飯事だ。
聖火は溜息を吐き、付き合ってられないなと家の中に消えていった。
「バカとはなんだ!バカとは!バカって言った方がバカなんだぞ!」
《破壊の炎命士》と恐れられる男が、妹相手に本気で口を尖らせている。
「はぁ、アホらし! いい歳して子供みたいなこと言うな! このぬるま湯兄貴ッ!!」
聖火が去った後も顔を近づけ合って、今にも殴り出しそうな雰囲気で口論を続けている。
「ぬるま湯兄貴ってなんだ! 大体なぁ、いつもお前はそうやってーー」
「……こんのッッ!! 馬鹿どもがァァァァァ! 静かにせんかァァァァァッッ!!!」
家の中から鳴り響く怒号に満ちた恐怖の一声。
二人は直立に背中を正して、声の主が家の外に出てこないことを心底、心の中で願った。
でも、それは当然叶わぬ願い。
「貴様ら1日1回喧嘩しなければ生きていけんか! ワシの昼寝タイムを邪魔しようとはどういうつもりじゃ?」
今年で70歳を迎えるというのに、その歳に見合わない巨漢で引き締まった身体は言わずともその強さを知らしめている。
泣く子も黙る一喝はその場の空気を掌握し、支配してしまう。言葉を発するだけで最強たる所以を醸し出してしまう男、火山は自分の昼寝の邪魔をした二人の処遇を顎に手を当てて、考えている。
「それはそうと、大地。貴様はワシに黙って煙草を一箱砕いた罰を受けていたはずじゃが、数が足りなかったか?」
「いえ……申し訳ございません」
木刀を握る手が震え、大地は下を俯き、火山の目を見られなかった。
「純恋よ、その怪我は任務によるものじゃろう?純恋は男勝りじゃろうが、女の子。切り傷を火傷で処置するのは良くない。罰として聖火にしっかりとした処置を受けなさい」
「……は、はい!申し訳ございません、お父様!」
「分かれば良い。もう行きなさい。外は少しばかり、暑くなるだろうからな。家の中で休むのじゃ!」
自分も叱られると思っていた純恋は安堵したように胸を撫で下ろして、足早に家の中へ消えていった。顔面蒼白の大地をその場に残して。
「さて、大地。昼寝を邪魔した挙句、一部始終を全て見ていたワシにどう言い訳してくれよう? お前は言葉じゃ、分からないところがあるようじゃからな」
「え、ちょ、親父……?」
服を脱ぎ捨て、筋肉に満ちた身体で大地を睨みつける火山。
「大地、緩い!緩い!緩いわッッ!!」
「ちょ、いや、いやぁああああああッッ!」
大地の断末魔に近い叫び声はその日の深夜帯近くまで聞こえなくなることはなかった。
「昨日は少し騒がしくしたが、純恋の手当をありがとうな、聖火」
今朝方、火山の部屋に呼び出された聖火は火山を前に姿勢を正して正座をしている。
「はい、火山様」
「そう畏まらなくとも良い。足を崩せ、聖火。ワシの呼び出しで少しばかり緊張するのは分かるが、敬語まで使われると胸が痛いぞ」
火山は強面の顔を崩して笑い、少しだけ哀しそうな表情を浮かべる。
「うん、ごめん。でも、やま爺。今日呼び出したのは、良い知らせってわけでもないんでしょ?」
聖火は言われた通り、言葉もいつも通りで、正座は崩さなかった。
同じ家に住んでいるといっても火山は炎命士の中では大先輩で歴史に残る男、尊敬している部分から姿勢を崩すことまではしたくない。
「……聖火は頑固じゃな。まあ良い。良い知らせか、ワシやお前にとっては良い知らせじゃが、悲しむ人もおると言ったところかの」
「なにそれ……悲しむって、すみ姉とか?」
「まあそうじゃな、濁していても意味はない。単刀直入に言うが、聖火。来年から炎命士の制度が大きく変わる」
ずずず、と茶色い湯呑みでお茶を飲み干し、火山は少し悲しげに言った。
「18歳以下の炎命士は学園に通い、卒業することで資格を取らねば、炎命士として生涯活動をすることが出来なくなるんじゃ。じゃが、これに聖火は該当しない」
「該当しないってのはどういうこと?」
真剣な眼差しで続ける。
「聖火は炎命士の最高位、《紅蓮階》まで登り詰めておる。今更何を学ぶことも無いじゃろう。じゃからな、極秘任務じゃ」
聖火は生唾をゴクリと飲み込んだ。
「近頃、《焔獄衆》や妖の動きが活発になっておる。教員に現炎命士を付けたりと、策は講じる予定じゃが……」
「ーー生徒側からの目も欲しい。つまり、潜入任務で学園の護衛をして欲しいってこと?」
皆まで全て言ってくれた聖火に火山は感激する。
「物分かりが早くて助かるわい! 《紅蓮階》にはワシから通達してある。近日中に集会を開くとも言っておった。やってくれるかのう?」
真っ直ぐ聖火の瞳を見つめる。
「うん、任せてよ。俺も《焔獄衆》の奴らの動きは最近気になってたんだ」
「そうか、ありがとう」
ご満悦した表情でほほほと、喉を鳴らした。
「そう言えば、18歳以下ってことは美澄も朋絵も一緒ってこと?」
「そうじゃな、あの二人は同い年だったか」
火山は顎髭を捻じるようにして気難しい表情を浮かべた。
「後一週間後にクラス分けの試験がある。炎命術の強さを計らう為に一対一の試合形式じゃ。純恋との勝負で何度も経験しておるじゃろうが、ルールは炎道式じゃ」
「どちらかが気絶するか、降参するまでは試合続行のルールだね。昔はよくすみ姉に絞られたなぁ……! って、何で炎道式!?」
"そこに気づいたか"と言わんばかりに喉を鳴らして火山は笑った。
「ワシ、その学園の理事長なんじゃ! 当然じゃが学園にも居るからのぅ。サボったりなどしておったら、噴火じゃよ! 聖火は真面目じゃから、あの大地とは違って大丈夫じゃと思うが」
意外にも意外すぎるカミングアウトだった。
最近強い妖との対峙で傷を負い、家で療養していたのにも関わらず、どのタイミングでその仕事を請け負ったのか。
火山のストイックさには毎回感動するばかり。
「まあ、そういうことじゃ。頑張るんじゃぞ! ……あっ、言い忘れておったことがあった!」
聖火が首を横に傾けると、火山は少し眉を顰めたような表情で再び口を開き始める。
「聖火が炎道の養子ということは必ず伏せなさい。」
「……? それはどうして?」
「ワシがこんなことを言うのは何じゃが、炎道を忌み嫌う者も少なくはない。炎命士を代表する家名じゃからな、何をされるか分からん。それと単純に……」
火山は更に暗い表情で続ける。
「極秘任務で注目度を上げても良いことはないからのぅ。その辺は慎重に頼んだぞ!」
火山は真剣な表情で懇願してきている。
聖火は胸が熱くなるのを感じた。
「やま爺、ありがとう! 俺、頑張るよ。学園の平和を必ず守ってみせる!」
「……うむ。期待しておるぞ!」
聖火は頭を深く下げ、火山の部屋を去る。
廊下に出て、一度だけ強く拳を握った。
◾️炎道家
炎命士の中で最も有名な名家。
分家が幾つも存在し、門下生が何百人も居る。
現当主、炎道火山は《日本最強の炎命士》と名高く、
息子の大地は《破壊の炎命士》、
娘の純恋は《破魂の炎命士》と謳われている。
◾️炎命士階級制度
上から紅蓮階、業火階、
焔階、燈階、篝火階。主に紅蓮や業火と、階を抜いて呼称されることが多い。紅蓮は全員で10名の最高階級。
炎命士協会が定めた実力に則り、分けられている。
◾️焔獄衆
犯罪に手を染めた炎命士。
生命の炎を燃やし、妖を狩るのではなく、
人に危害を与える輩。明確な組織化はされておらず、
実態は不明。
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お忙しい中、読みに来てくださってありがとうございました。
次回更新は6/9 17:00を予定しております。
何卒、よろしくお願い致します!




