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第34話 逆月

 緋色に染まった水戸の瞳が光り、腹部に強い衝撃を受けた聖火は地面に叩きつけられた。

「……本調子が戻る前に片をつけるよ」

 水戸は、良人や煉夜の時とは違い、赫灼を服用した後も自我と意識を保ちつつ、身体に大きな変化が見られない。ただ、人間離れした戦闘能力の向上に、聖火は違和感を覚えていた。


「がはッ……! ゴホッ、ゴホッ!」

 すぐさま立ち上がり、水戸からの追撃の牽制をしようと構える。先程の蹴りの重さが身体に響き、咳が漏れた。


「……はぁ、はぁ……」

「炎命術……水鏡檻(すいきょうかん)」

 水戸の炎が赤く揺れ、10枚の水鏡檻が顕現された。

「これが……酒呑童子の力ね。炎命術で顕現する力がいつもの倍以上、危険だが目的に犠牲はつきもの」

 広範囲に顕現され、絶体絶命の窮地。聖火は心の中で必死に葛藤していた。

 ーー今この場を打破する方法はある。

 見られたらーーというリスクもある。

 これからの任務にも差し支えが……。


 朋絵と対峙する美澄と朔のほうをチラリと見る。

 ーーあまりにリスクが大きすぎる。


「……戦闘中に考え事かい? 随分と余裕なんだね」

「いくら水鏡でも、薬の力に頼らなきゃ、生徒1人にも勝てないなんて……たかが知れてるって思っただけだよ」

 聖火は一か八かの賭けに出た。水戸が乗ってこなければ、それで終わり。

 だがーー

「……へぇ、言うね。今まで手合わせでたった一度も俺に勝てなかった君がそれを言うんだ?」

 ーー乗ってきた。

 額に血管が浮き出る程の怒りを露わにしたところを確認し、聖火は地面を蹴って跳躍した。

 闘技場の観客席を上り、校舎裏へと駆ける。


「……こういう計り知れない部分が長所だと思ってたけど、敵になると腹が立つな」

 水戸も跳躍し、聖火の後を追った。

 闘技場には朋絵と朔、美澄の3人が残り、激闘は止まらない。



「……はぁ、はぁ」

 肩で呼吸しながら、後ろから迫り来る2枚の水鏡檻を避け、水戸を睨みつける。

「怖いね。こっちに誘い出して何か策でもあるのかな? あんな安い挑発なんかしなくても、今の聖火を取り逃すほど、俺はお人好しじゃないよ」

 残り8枚の水鏡檻が水戸の背後で円を描くように展開される。

「……良かったよ。これで本気を出せる」

「本気ね。俺は一度しか見たことないけど、例のアレか。炎命術の紛い物みたいな力は俺には通用しない」

 水戸はキッパリ言った。


 懐に隠していた小刀で掌を切り裂く。

 傷口から漏れた血液が地面に落ちた瞬間ーー

「血盟術……村正(むらまさ)!」

 聖火の詠唱と共に赤い炎が燃え盛り、手には赤い炎を纏った刀が顕現した。重心を低く保ち、村正を両手で構える。その禍々しい炎は空気をも焦がし、軽口を叩いていた水戸の頬に冷や汗が垂れた。

 赤黒い稲妻が走り、顕現だけで凄まじい轟音が響く。


「……俺が見た技とは違う! なんだこの禍々しさは……!」

 水戸は覚悟を決め、緋色に染まった眼光で聖火を睨みつけた。


「炎命術……闇龗神(くらおかみ)」

 右手を鋭く伸ばし、左手で筆に灯した炎を書き殴る。

 黒に近い闇の炎が弾け、その中から深海のように暗く青い一刀が顕現した。


「闇龗神・神雨《みさめ》……」

 一刀を掲げ、優しく呟いた。

 一粒一粒が神々しく輝く、光の雨が降り始める。

 その一粒を眺めているだけで心地良ささえ感じるほどの美しい雨だった。


「……なんで朋絵を狙った?」

「ははは、狙ったわけじゃないよ。結果として、彼女は運命から逃れられなかったんだろうね」

 聖火は眉間に皺を寄せ、地面を蹴る。

 赤黒い稲妻が先行して、水戸の頬を掠めた。

 切れた部分が血液が垂れ、袖で拭う。


「……やってくれるね。それなら闇龗神の真骨頂を見せよう!」

 ーー《一閃》

 深い青が神雨を弾き、白い一筋の閃光が放たれる。

 降り注ぐ神秘的な雨が一瞬静止したかに思えるほどの自然な斬撃が周囲の木々と、不幸中の幸いか、人のいない校舎を一刀両断した。


 白い一筋の斬撃が聖火へ迫るーー

 だが、避けようともしない動きに水戸の脳内に疑問符がよぎる。


「……ッッ!」

 空気を焦がすような赤い稲光が村正から発され、凄まじい衝撃が聖火の腕と全身を震わせた。

 足元の地面が足の形に陥没するほどの高威力。

 それでも聖火は決して倒れない。


「その程度の力じゃ……俺は倒れない!」

 村正に赤黒い炎が絡みつく。

 その炎は燃え上がることはなく、白い斬撃を吸い込むように刀身の中へ収束した。


「なんだその炎は……?」

 村正が月のような赤い稲光を帯びる。


「村正……逆月(さかづき)!」


 聖火自身の赤い炎が重なり、刀身から凄まじい威力の斬撃が逆流し、放たれた。


「……ッ!? 」

 咄嗟の判断で水鏡檻8枚を全面展開したが、全て一瞬で破壊。

 赤黒い稲妻が水鏡檻を貫いてもなお、失速することはなく、水戸に直撃し、勢いよく数メートル先へと吹っ飛ばした。


「……がはッ……!」

 校舎の壁を貫き、無人の教室内の床に叩きつけられ、水戸は尻餅をついた状態で嗚咽を溢す。


「……今のは結構食らっーー……ッ!?」

 水戸の眼前に赤黒い三日月状の斬撃が迫る。

 先程の威力とは比にならないほどの破壊力で校舎ごと破壊した。爆発音が響き、水戸は瓦礫の渦に飲み込まれていった。


 外にいた聖火は溜め息混じりに口を開く。

「……こっちが本命だよ。ただ、今ので倒せるほど甘くはないよね」

 体の節々の痛みを感じ、苦しそうな表情で村正を手放す。崩れ落ちた校舎を前に、心の中で真に願った。


 ーーこのまま倒れてくれればいいのに。









◾️闇龗神(くらおかみ)

水戸の炎命術で顕現する一刀。

深海のように暗く深い青の刀身からは凄まじい力を感じる。


◾️神雨《みさめ》

狐雨の上位互換。美しく降り注ぐ神の雨。

雨が届く範囲を闇龗神で切り捨てることが出来る。

何かを付与したり、水鏡檻を強化することも可能。


◾️逆月(さかづき)

村正顕現時、強い衝撃や相手からの攻撃に使用可。

相手の力や衝撃を吸収し、血盟の力と共に威力を増大して跳ね飛ばす。あまりの威力に剣圧が分散し、放たれるケースが多い。


もし、少しでも良いと思って頂けましたら、 画面下部の《☆☆☆☆☆》で評価、感想、レビュー等、お待ちしております。 お忙しい中、読みに来てくださってありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
聖火かっこいい…!! 戦闘シーンが手に汗握るとはまさにこのことかも!! とりあえず、聖火に惚れました。
戦闘シーン本当にかっこいいです。ハラハラする攻防、どちらも一歩も譲らない姿勢、互いに手の内を知っているからこその駆け引き……かっこいいです。語彙力消失していてすみません。 まだ決着がつかなさそう?な雰…
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