第27話 妖と歩む夢
「ふむ、緋色の目をした生徒か」
一通りの状況説明を終え、火山は気難しい表情で口を開いた。
「わしの炎命術で創った、学園の結界も破られてはおらん。内部犯の犯行かのぅ。水戸、以前捕えた同じ症状の炎命士の検査結果じゃ!」
火山は、机の下から取り出した茶色い封筒を水戸へ手渡す。
「ありがとうございます。……妖の血ですか?」
「そうじゃ! 何か悍ましい力が裏で糸を引いておるようじゃのぅ」
聖火は水戸が手にしている資料を受け取ると、驚嘆の声を上げた。
「……ッ! この妖は……!」
「ああ、そうだ。長らく封印されてる葬過の一角、危険指定度SSSーー酒呑童子だ」
水戸は歯を食い縛り、怒りを露わにして拳を握る。
「妖の血を人間に投与して、何が目的なんだ?」
「……分からない。この結果だけじゃ、何とも。火山様は何か分かりますか?」
水戸の問いかけに火山は一つの仮説を口にした。
「昔、葬過の一角が復活した時、その強大な力が故に憑代とする人間が必要だったという話を聞いた事がある。ワシが対峙したのは、酒呑童子ではないが、同じ危険指定度ならばあり得る」
古い記憶を探りながら、火山は続ける。
「その憑代……つまり、適合者を探すのに何者かが葬過の血を投与している可能性がある」
「……ッ!! そんな酷いことを何故!!」
間髪入れずに怒号のこもった声音を上げる聖火。
「そこまでは分からん。じゃが、良くないものが動こうとしているのも確か。聖火、水戸よ。この件、早急に対処せねばならんぞ!」
「「承知致しました」」
2人の返事を最後に報告は終了した。
水戸と聖火は短く頷き合い、それぞれの日常業務へと戻っていった。
理事長室でただ1人、火山は窓越しに晴天の空を見つめながら呟いた。
「葬過の復活は時代の終焉……早急に……」
聖火が教室に戻ってくると、煉夜が退屈そうに窓の外を眺めていた。
「すっかり、お昼の時間になっちゃったね。中庭行く?」
「どんだけ長いトイレやったん!? 死んだんか思たわ!」
聖火は自分が離席した理由を思い出して、冷や汗をかきながら弁明し始める。
「いや、ごめん! 途中で水戸先生に呼び出しされてさ!」
「そうやったんやな。まあええよ! ほな、ちょっと外行こか。ちょっと話したいことあるしな」
聖火と煉夜は正門前の噴水へ向かった。
西洋チックな噴水が水飛沫を上げている。水を囲う縁に腰を下ろし、聖火と煉夜は軽くお昼を済ませた。
「それで話って?」
「前に話そうと思って時間が来てしまった、あの件やねんけどな」
煉夜は前置きをして、語り始める。
「単刀直入に言うで! 引いたらすまん。俺の夢は妖と共存する未来を作ることなんや」
「引くなんてそんな……人の夢を笑うことなんて誰も出来ないよ」
聖火の真っ直ぐな返答に、煉夜は少し嬉しかったのか、胸を撫で下ろした。
「子供の頃に出会った狐の妖がおってな。毎日のように楽しく遊んどった。家族も同然で、可愛くて!」
煉夜の記憶の中で微笑ましい光景が浮かんできているのか、懐かしむ表情で続ける。
「俺の家、関西じゃ有名な炎命士の名家やってな。ほんまに退屈なくらい毎日稽古稽古で、その妖と遊ぶのがその時の生き甲斐やったんや……けどな」
懐かしんでいた表情が曇る。
「妖と遊んでることが家にバレて、その妖は殺されてしまったんや。……遊んだらあかんことは分かってたで! でも、世の中には良い妖も居るって、なんで信じられへん!」
「……」
聖火は黙って、憤りを見せる煉夜を見つめ続けた。
「不謹慎なことを言っとんのは重々承知や。それでも、良い妖と悪い妖、見極めてから討伐するかどうか決めるくらいやってもええんちゃうかな」
色々、自分の中で考えた末の告白だったんだろう。
聖火は胸の内にグッと受け止めた。
「自分の家を出て、暫くは考えに考えたんや。それで結論に至った」
「結論?」
「俺が弱いから、あの妖を守れへんかったんやって……せやったら、力つけなあかんやろ。自分の道理を通すなら、紅蓮階になって見せつけたらなあかん! そこで、良い妖を保護する法律を作んねん!」
聖火は思わず、目を見開く。
そんな考え方は、今まで一度も聞いたことがなかった。
「良い夢だと思うよ。少なくとも、俺は応援する!」
「ほんまか!? お前、ホンマにええ奴やな! こんなこと言ったら、ぶっ飛ばされそうやのに」
「ぶっ飛ばされないように強くなるんでしょ? 一緒に頑張ろうよ!」
聖火の言葉に煉夜は満面の笑みを浮かべた。
「せやな、ありがとう」
お昼時もすっかり過ぎ、暖かい日常が流れていく。
ーーその頃、学園から遠く離れた山中。
普段は陽光に照らされ、静寂が漂う場所に連続して耳を劈く、爆発音が鳴り響く。
「……ったく、誰の思惑でこんなことになってんだよ! 今月だけで何件目だ?」
「大地君、口より手を動かして! 来るよ!」
大地と小夜が緋色に目を光らせ、自我を失った複数人の炎命士を相手にしていた。
「炎命術……白熾」
白く強い光が身体を纏い、大地は構える。
「うがぁぁぁぁああ!」
炎命術で顕現した刀が複数、大地の眼前へ迫る。
「数日間、寝込んでもらうしかねえな。ふんッ!」
拳を強く握り締め、それぞれの刀に一撃を叩き込む。甲高い破砕音が響き、大地に切り掛かった全員が白目を剥いて倒れ込んだ。
「破魂で気絶させるなんて強引な……まあでも、効率はいいね。これで全員かな?」
「全員だな、間違いない。妖共よりも多少知能がある分、面倒だ。この件、さっさと解決しねえとな」
次々と発生する緋色の目をした炎命士達。
この異常事態に、大地は徐にスマホを取り出し、耳へ当てた。
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