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第25話 緋色の侵蝕

読みに来てくださり、誠にありがとうございます!

 「うーん、由緒正しき炎命士の名家揃いの学園でも大した収穫は無し。失敗作、《血盟》に処理してもらうかな」

 赤い狐面の男は校舎裏の暗闇で、眼前で悶え苦しむ生徒数名を見ながら笑った。

 生徒達の眼球は緋色に染まり、生まれたての子鹿が如く、覚束ない足取りで立ち上がる。我を失っているようで、言葉も発さずに教室の方向へと歩いていった。


「この状況にどう対処していくか、見ものだな」

 狐面の男は空気に混じるようにその場から消えた。




 ーー快晴の朝。

 学園が開校して、はや数日が過ぎようとしていた。

 新たな学園生活に馴染む者もそうでない者も、悠々自適に日々を過ごしている。

「聖火、今日の最初の授業なんやった?」

「ええと、今日は……"顕現"についてだったと思うよ。先生は確か、特別講師の水戸先生だったかな」

「そーなんや、ありがとう!」

 たわいもない会話、平和な日常は突然として、廊下からの悲鳴によって掻き消された。


「なぁぁぁんでぇぇぇ!!」

「どうしたがじゃ!? おまん、昨日は普通じゃったはずぜよ!」

 聖火が急いで廊下に出ると、目が赤く染まった男子生徒を必死に止める龍馬の姿があった。

「龍馬、大丈夫!?」

「おお、聖火か。これはどういうことじゃ、なんでコイツが良人と同じことになっちょるがじゃ!?」

 龍馬は明らかに取り乱している。焦った様子で、悲しみと怒りが混在し、半分パニックになっていた。


「……龍馬、大丈夫! 俺がなんとかするよ」

「分かったぜよ、おんしに任せるき」

 龍馬は一歩下がって、聖火の様子を見守る。


「炎命術……熾火(おきび)

 胸部に掌を当て、橙の光が聖火の全身を包み込む。

 緋色の目をした生徒は間髪入れずに拳を握り、聖火へ襲いかかった。

「……ちょっとだけ、眠ってもらうよ」

 拳を軽くいなし、首に手刀で打撃を叩き込む。

 常人ならば、これで気絶するはずだった。


「……があッ……! うぅ……!!」

 少しよろめいたものの気絶までには至らず、生徒は鋭い眼光で聖火を睨みつける。


「あの打撃で気絶しないとなると、やはり力技で押さえ込むしかないか」

 我を失い、なりふり構わず攻撃する生徒を鎮めるのは容易だが、できれば穏便に済ませたい聖火は頭を悩ませる。



「聖火君、これは何事? ……ってあの人、良人の時みたいな核が見える!」

 騒ぎを聞きつけた朔が聖火の前に現れた。

 彼女の黒炎を纏う双眸が生徒を捉えたと同時に、彼女は青ざめ、声を荒げる。


「俺も駆け付けたところだけど、良人みたいなことになってるんだ……核? それは破壊出来そう?」

「うん、多分出来ると思うよ。ここは任せて!!」

 朔は懐から筆を取り出した。

「まぁ待っちくれや! できるだけ傷つけんように、頼むき!」

「……龍馬さん、大丈夫! 核を破壊するだけだから」

 朔の言葉に疑問符を浮かべる龍馬を無視して、朔は虚空に書き殴る。


「炎命術……秋宵(あきよい)

 一筆が描いた漆黒の軌跡から、黄金の月と霧を纏った一刀が顕現した。


「……白秋流居合術、秋時雨(あきしぐれ)

 中腰に構え、朔は一歩ずつ、ゆっくりと歩む。

 生徒が聖火から朔に標的を変更しようと視点を傾けた瞬間だった。

 左親指で柄を弾き、高速の抜刀。秋宵が次に納刀される頃には、緋色の瞳から一粒の涙がこぼれ落ち、生徒は前のめりに倒れて気を失った。


「大丈夫がじゃ……ッ!?」

「大丈夫よ、気を失ってるだけ。龍馬さん、保健室に連れてってくれる?」

「任せちょけ、恩に着る!」

 龍馬は生徒を抱えて、ささっと走って行った。


「朔さん、良人の時にも思ったけど凄い眼だね!」

 聖火は感激しながら笑う。

「いや、そんなこと……ええと……言われたの初めて……ありがとう」

 言われたことのない言葉に頬を赤らめ、話す言葉が次第に小さくなる。

「え? ごめん、最後なんて言った?」

「……い、いや! 大したことないから、大丈夫!」

 朔は顔を真っ赤にして俯いた。

「……?」

 聖火の頭に疑問符が浮かぶ。

 それは背後から声をかけてきた人物に掻き消された。


「えっと、君! なにかあったのかい?」

 後ろを振り向くと、水鏡檻(すいきょうかん)を2枚展開している水戸が、困り顔で立っていた。

「他クラスの生徒が目を赤く充血させて暴れていたところを、僕と朔さんで対処したところです! その方は、御堂龍馬が保健室に連れてっております」

 聖火の報告に水戸は首を縦に振った。

「了解、ありがとう。俺も授業に向かう途中で襲われてね。2人拘束したところだから、3人目の生徒を拾って、学園長に報告してくるよ! 授業は自習でお願い!」

 水戸は聖火の瞳を見つめ、パチリとアイコンタクトを交わす。意思を汲み取り、朔に別れを告げて、教室へ戻った。


「……聖火、大丈夫やったん?」

「うん、俺は大丈夫。それよりも煉夜、クラスの皆に自習だってこと伝えてほしい! 俺はちょっとお腹痛いからトイレ行ってくるよ!」

 お腹を抑えるフリをして、教室を出る。



 聖火が保健室へ向かうと、水鏡檻を展開した水戸は三人目の生徒を捕縛し、苦渋の表情を浮かべていた。

「ああ、よく来たね。聖火、クラスの方は誤魔化せたかな?」

「うん、大丈夫だよ。つぐ兄、それよりもその3人は、例の件だよね? 学園にも現れるなんて……」

「外ならまだしも、この学園に現れるなんて思いもしなかった。一種の感染症みたいなもーー」

「ーーうわぁぁぁぁぁぁああああああ!!」

 水戸の言葉を遮るように保健室の廊下から、断末魔に近い叫び声が鳴り響く。

 2人が瞬時に保健室を飛び出すと、瞳を真っ赤に充血させて苦しそうに叫ぶ生徒の姿があった。


「おや、お揃いで」

 その横には、赤い狐面の男が驚いた様子で立っていた。

「お前ッ! その生徒に何をした!」

「《水鏡》に《血盟》も。紅蓮が2人、少しだけ分が悪いですね」

 聖火が声を荒げると、狐面の男はその場から逃げようと地面を蹴った。


「つぐ兄、生徒を任せた! 俺はあの狐面の男を!」

「分かった! ここは任せろ!」

 瞬時に判断し、聖火は狐面の男の跡を追う。

 水戸は瞳が充血し、今にも襲いかかってきそうな生徒に視線を移し、構えた。
















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