第24話 白暁の胡蝶
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最初に動き出したのは、朋絵だった。
地面を蹴り、円を描くように移動しながら銃口から火が噴き、1発が移動しながら回避する水戸の頬を掠める。
「へぇ、中々の腕前だね」
「……どうも」
朋絵の淡白な返しに構っている暇もなく、水戸の死角から美澄が間合いに入って斬り込む。
疾走感のある振り上げ、上体を逸らしての回避。美澄は、携えていた一刀を放り投げ、もう二刀を両手で引き抜く。白刃が交差して火花が散り、水戸の眼前へと迫った。
「……油断も隙もない」
するりとすり抜けるように飛び上がり、交差した刀を踏み台にしての跳躍。膂力さえ感じさせる跳躍後、美澄の背後に着地し、足払いで重心を奪う。
「でも、肉弾戦はまだまだかな? ……おっと!?」
「……いくら紅蓮階でも簡単には動けない」
地面に着弾した淡雪による筋肉凍結、美澄は間一髪で起き上がり、朋絵に背中を預けた。
「朋絵、助かったわ。あの攻撃を避けるなんて、やっぱり紅蓮階は化け物ね」
放り投げた一刀を引き寄せ、鞘へ納刀し、険しい表情を浮かべる。
「ふぅ……流石は紅蓮階でも一目置かれている2人の連携だね。俺の炎命術の見せ所なのに、押されちゃったなぁ。それじゃ、そろそろ行かせてもらうよ」
天井から降り注ぐような拍手喝采と共に、水戸は美澄と朋絵を称賛し、笑った。
「炎命術……水鏡檻」
人差し指と中指を立て、複数箇所に弾く。
空中に四角い水面が水戸の周囲に四枚浮かび、それぞれが四方を守護しているかのように配置。
水戸は武器を持たずに、美澄と朋絵を捉える。
「朋絵、アレで行くわよ」
「……了解」
美澄だけが地面を蹴り、朋絵は淡雪を捨てるようにして放った。懐から取り出した筆で綺麗かつ滑らかな線で何かを細かく描き始める。
胡蝶蘭のニ刀を抜き去り、水戸へ向かって投げ放つ。
真っ直ぐな軌道を描き、水戸の眉間を捉えていたが、簡単に避けられてしまった。
間髪入れずにもう一刀を携え、水戸へ切り掛かった。
「2本を囮に、この攻撃を? 策としては悪くないけど、相手が悪かったよ」
水鏡の一枚が剣戟を受け止め、水戸の鋭い蹴りが美澄の腹部に突き刺さる。
「ぐっ……はッ……!」
体内の空気が押し出され、嗚咽混じりの声音を上げながら吹っ飛ばされる。
受け身を取りながら、地面に転がる美澄から視界を離した瞬間ーー。
ーー水戸の足に痛烈な衝撃が走った。
足が異様なまでに熱を帯び、引き裂かれるような強い痛み。
「……ッ!?」
美澄が斬り込む前に放った二刀が水戸の足を貫き、地面に縫い合わせていた。身動きが取れない上に、酷い痛みで水戸の顔が歪む。
「朋絵……ッ! 今がチャンスよ!」
長い一筆を書き上げた朋絵は肩の上に乗せたソレを顕現。引き金を引かんと、腰を折り曲げて構える。
「ちょ、え、嘘だよね……ッ!? そんな死ぬ気で殺しにくる!?」
「紅蓮階がこんなので死ぬわけないわ!」
朋絵が顕現し、肩の上に乗せて構えたのは、白いRPGーーロケットランチャーであった。
「いやいや、紅蓮階をなんだと思ってるの!? その威力は流石にッ!?」
朋絵は容赦無く引き金を引き、大きな筒に装填された長い弾丸が水戸へと放たれた。
「……ちょッ! 待て待て待て待てッッ!」
ーー身動きが取れない水戸に弾丸が突き刺さり、直後に爆発。巨大な衝撃波と、煙、炎が吹き荒れ、周囲を巻き込んだ。
「……ふぅ、流石にやったかな」
「これで立ってたら、もう人間じゃないわ!」
美澄と朋絵は肩で呼吸しながら、警戒を緩めずに、煙が上がっている先を見つめる。
「……良い攻撃だったよ。Aランクの妖なら、簡単に屠れちゃうね。本当に焔階? 個人の強さを測っても、2人とも業火に匹敵するくらいの実力だよ」
煙の中を甲高い拍手が鳴り響き、水戸は無傷で、笑って2人を称賛した。
「嘘……でしょ……?」
「なんでアレで無傷なのよ! 紅蓮階、人間じゃないわ!」
水戸の周囲を守っていた水鏡檻が2枚に減っているのを確認し、美澄は頷いた。
「あの盾が私達の攻撃を防いだのね」
「ご名答! それと足の刀も操作出来るのは読めてたからね。まあ、流石に一瞬ビビったけど、この通り無傷だよ」
水戸は足を引き抜きながら笑う。突き刺さった刀は、水戸の炎命術の基礎とも言える"冷却と相転移"によって、まるで最初から存在しなかったかのように、水滴や霧へと変わり、消え失せていた。
美澄は驚愕と同時に、歯を食い縛って怒りを露わにする。
「やっぱり、化け物に一切の妥協はしちゃダメね!」
「……ッ!! 美澄、それは駄目ッ!」
美澄の行動を必死に朋絵が制止する。普段、滅多に声を荒げない彼女の声音は一際目立って、美澄の動きを確実に止めた。
「まだ何かしようとしてるのかな? 大丈夫、そうはさせないよ!」
地面の強い踏み込み、水戸は一瞬で二人の背後に立つと、素早く鋭い回し蹴りで吹き飛ばす。
「きゃっ……!」
「……ッ!?」
ーー水面に着水する音がして、美澄と朋絵は水鏡に捕縛され、身動き一つ取れなくなった。
「中々良い動きだったよ! 焔階の二人に拍手! 俺の炎命術、普通と少し違うことが分かってくれたら、今回の模擬演習はやって良かったと思えるよ」
水戸は笑いながら、捕縛した二人を見て、一瞬だけ眉間に皺を寄せた。
水戸の挨拶が終わり、会がお開きとなった後、聖火はスマホを見て、自室である寮部屋へと踵を返す。
寮部屋へ入ると、メントール系のタバコの匂いが鼻をつく。
そこには窓の外の景色を物思いにふけながら見つめる水戸の姿があった。
その姿は美しく、思わず見惚れてしまうほど。
「久しいね、聖火。元気だったかい?」
「つぐ兄、久しぶり! また一緒に任務が出来るなんて、めちゃくちゃ嬉しいよ!」
聖火の言葉に、水戸はクスリと笑った。
「聖火は変わらないな、俺も嬉しいよ!」
「つぐ兄こそ、そのタバコの匂いも変わらないね」
聖火の中での水戸の印象や記憶は、独特なメントール系のタバコの匂いが基礎的に頭にあった。
「ははは、そうかな? 昔からこればっかりだしな」
「任務大変だし、それくらいの癒しがないと厳しいよね。俺は筋トレで消化してるよ!」
「はははは! 聖火はストイックだな! ああ、そうだ。楽しい話もしたいのは、山々なんだけど、そんなに時間もなくてね。今の学園の状況を知る限りで教えて欲しいんだ」
聖火は要点だけを纏め、順を追って報告する。
一頻り説明し終わった後、水戸は難しい表情で顎を触った。
「その赤い狐面の男が気になるね……」
「そうなんです。しかも見たのはその一回だけで、足取りも掴めないまま……」
俯く聖火に水戸は優しく声をかける。
「大丈夫! 俺が来たからには、折角開校した学びの場を無駄にはさせない!! 任せてくれ!」
水戸は、そう言って笑う。窓の外の異様な静けさが、これからの波乱を予兆しているかのように見えた。
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