第19話 白秋の最期
拙作を読みにきてくださり、誠にありがとうございます!!
「私もう二度と迷わない!! この力で道を切り拓いてみせる!!」
重心を低く、地面とスレスレに頭を下げる。
腰の位置に秋宵を据え、手を掛けた。
「朔、朔うううううッ……!!」
良人がもう一度、筋繊維を枝分かれさせ、無数の拳で朔を襲う。
だが、拳は虚空を殴り、良人の視界に青白い閃光が横切った。
「なっ……な、な、……ッ!?」
酷く肥大化した腕が木っ端微塵に砕け散る。
良人は途轍もない違和感に襲われた。
"腕が再生しない"
「な、何故ッ……!」
良人を睨みつける朔の眼光が燃え盛っている。
「聖火、大丈夫がか?」
龍馬は肉塊の檻を一刀両断し、聖火へ駆け寄る。
「ありがとう、俺は大丈夫。それより朔さんのあの様子はもしかして……」
聖火は朔の剣筋と動き、瞳の炎に見覚えがあった。
「なんなあの目は! 炎が宿っちゅうがや?」
龍馬は鞘に刀を滞納し、落ち着いた様子で口を開く。
「……って、龍馬。もう加勢する気ないの?」
「加勢なんぞ要らんぜよ。見ちょればええ」
聖火は喉を少し鳴らして、頷いた。
「何なんだ、その眼はッ!」
青白い閃光が幾度も通り過ぎ、朔の眼光が良人の脳裏を焼き尽くす。身体が斬られる度に身が捩れるほどの痛みが生じ、回復さえしない。
「……私のこと、何も見えてなかったのね」
朔の声が良人の耳に届いたと同時にもう片方の腕が粉々に砕け散り、姿形の目視さえない。
「……ぐっ、ぁぁぁああああ!!」
痛烈な悲鳴を上げ、肩を振るわせながら周囲を見回す。冷や汗が垂れ、"狩る者から狩られる者"に変わったことに気がついたようだった。
「あと2つね」
「クソ、クソ、クソ!! 俺はこんなところで終わる男じゃないッ! 許さない! 許さない! 許さない!」
背中の皮膚が割れ、筋繊維が無数の腕となって朔へ襲いかかった。
鋭い刀が空気を切り裂くような甲高い音が聞こえ、背中の筋繊維ごと木っ端微塵に砕かれる。
「なッ……何故、お前がそこに居るッ! 何という速度、何故、名家に捨てられたお前のようなゴミが……ッ! そこまでの力を!」
「あと1つ! そろそろ、その煩い口を閉じてもらうよ」
朔のカウントダウンが終わりに近づき、良人はハッとしたように目を丸くさせる。
「まさか、そのカウントダウンは……!!」
「今更気づいても遅い。私の刀は神速、どう防ごうたって、不可能よ」
朔は重心を低くし、鞘に納刀した刀を構える。
「白秋流居合奥義……断秋」
黒い瞳に赤い炎が疼き、刀を滞納する乾いた音だけが良人の背後から鳴った。
「いつの間に、そこに!! 許さーー」
「別に許さなくても良いよ、私も貴方を許さない」
見向きもせず、すれ違うように去る朔の背後で異形の良人は瞳をぎょろぎょろと動かし、異変に気がついた。腕に一線状の傷が出来上がり、鮮血を流す。
「……ぐっ……ぁぁぁぁあああああ!!」
直後、僅か一刀が15連撃の連なる剣戟となって、良人の醜悪な肉体を斬り刻んだ。
赤く澱んだ霧が体内から抜け、白目剥き出しの状態で前のめりに倒れる。
「でも、同時に感謝もしてる。あなたのような人間、どこを探しても中々居ない。反面教師として学ばせて貰ったよ……って、聞いてないかな」
朔は倒れた良人を見つめ、聖火と龍馬の方へ足を進める。
「……うっ!!」
ふと力が抜けたのか、2人は朔の肩を支えた。
「おっと、大丈夫!?」
「よう頑張ったな、凄いことじゃき。今は少し休んじょれ」
朔を支え、観客席近くの壁で手を離すと、聖火はスマホを取り出し、耳に付けた。朔に聞こえない位置まで移動し、小声で囁く。
「……小夜さん、こっちは終わったよ。それじゃ、約束通りお願いします」
「そう、ありがとう。……こっちは任せて」
聖火からの通話を切った小夜はスマホを軽く操作し、ポケットに捩じ込む。息を整え、深呼吸を繰り返すと、瞳を大きく見開いた。
古風な建物が10m程の高さの壁に囲われた美しい庭園のあるお屋敷。
正門の扉には立派な銀杏の木々が白塗りで描かれ、表札には黒字で白秋の2文字が貫禄を積む。
正門の前には白装束の屈強な男達が中に誰も入れまいと睨みを利かせている。
「……通してくれるかしら?」
「中で厳道様がお待ちです。お急ぎくださいませ!!」
「ええ」
小夜は二つ返事をし、白装束の男達に連れられて、本堂へと向かった。
本堂を進むと、白い襖に金色で虎が描かれた部屋の前に立つ。此処は小夜や朔にとって、あまり良い思い出がない場所。実父である厳道の一室だ。
「厳道様、小夜様が到着されました!!」
「入ってよいぞ!」
野太く威厳のある声が中から聞こえ、襖が開く。
一室の中には、厳道以外にも白秋の名を背負う重鎮達や、厳道の実働部隊などが控えている。
彼らは小夜が入ってくるなり、矛先を向けるように強く睨みつけた。
「……はぁ、小夜、私はお前に忠告したはずだ。朔のことをこれ以上、詮索するなら命はないと」
部屋の空気が凍りつき、小夜は袖内の筆に触れる。
「いくら紅蓮階とは言えど、この人数を相手にするのは厳しいだろう?」
厳道は黒い笑みをこぼし、周囲からはクスクスと含み笑いが立ち込める。
ーーああ、本当に腐った家。何が名家だというのか。
小夜は沸々と湧いてくる怒りを堪え、厳道を睨みつけた。
「お前が朔、一族にとってゴミを孔雀家に売り払ったことを嗅ぎ回りさえしなければ、こんなことにはならなかったのだがな!」
厳道が懐から筆を抜いたと同時に、他の全員も構える。
ーー朔の頬に冷や汗が垂れ、意を決しようとした瞬間だった。
廊下の方からゆっくりとしたテンポで、大きな拍手が鳴り響く。その場の小夜を除く全員が音の鳴る方へ耳と視線を傾けた。
「……はぁ、遅過ぎるよ。ヒヤヒヤした」
小夜はニヤリと笑い、安堵したように呟く。
「へぇ、白秋くらいの名家になると……大事な娘さえも都合が悪くなればゴミ扱い。それに売り払ったってのは、どういうことか説明して貰おうか!!」
廊下から余裕綽々と現れたのはーー炎道大地だった。
「なッ……何故、お前が此処にいる!炎道……大地!?」
「今、そんなことはどうでもいい。それよりも、さっきの発言と、アンタらのその構えてる筆は一族全員の意思って事でいいんだな?」
厳道が驚きを隠せない様子、他の重鎮も間が悪くなったのか、俯いた。
「お前ら、怯むなッ!紅蓮階が二人?だから何だというのだ、我々は誇り高き白秋! 全員筆を抜け!」
好戦的な姿勢に大地の笑みが溢れる。
「そうか……俺も舐められたものだな」
大地は胸部に指を当て、目を閉じる。
「炎命術……」
だが、それは遮られた。
「ごめん、手は出さないで欲しい」
ゆっくりとした静かなる声音、その声色には迷いも隙もない。沸々とした怒りに満ち、小夜は懐から筆を取り出した。
「大地君は見届けてくれたらそれで良い。この戦いは私があの子の姉として、ケジメをつけるべきだわ!!」
「……ああ、見届けてやるよ。白秋の最期をな」
大地は一歩下がって、小夜の様子を見守る。
厳道を含めた重鎮達は、炎命術で刀を顕現、熱気が部屋に篭った。
「炎命術……白露」
小夜の筆に炎が宿り、一刀を描き上げる。真っ白な美しい秋桜が咲き誇り、部屋の中を満たした。それはまるで雪のようにほろりと舞う。炎の熱さを感じさせない、冷たくも鋭い吹雪のような美しさ。小夜は、白い柄と鞘を握りしめ、重心を低くして構えた。
「者どもかかれええええッ!!」
厳道が右腕を声と共に振り上げた瞬間だった。
ーー甲高い金属音と共に重みのある肉塊が落下する音が響き、畳が血飛沫に染まる。
「……なッ……うぉぉぉッ……!」
声にならない声を上げ、厳道は肩から切断された右腕の断面を抑えた。視界に映る小夜は一歩も動いていない。疑問符が頭を過ぎる。
「私に刀を握らせた時点で貴方達は負けている。その場から一歩でも動けば、次は首を貰うわ!」
全員の全身から冷や汗が噴き出す。
大地はニコニコと笑っていた。
「お父様、いえ……貴方の事を一度として父親だと思ったことはないわ。白秋厳道、貴方の時代はここで終わりよ!」
小夜は厳道を睨みつけ、言い放つ。
「……わ、分かった!私が全責任を負う……」
持っていた刀を落とし、その場から崩れ落ちる。
他の重鎮達も武器を落とし、その場にへたり込んだ。
事が解決し、炎命士協会の黒服達が厳道を含む白秋家の重鎮達を捕まえる檻、厳道は去り際にボソッと呟いた。
「……小夜、すまなかった」
「……」
小夜は厳道に視線も言葉も向けることはなかった。
黒服が全員を連行し、白秋家には小夜と大地の二人だけが残る。
「はぁ……やっと……大地君、ごめん」
小夜は溜息をつき、口角を上げ、引き攣った表情を浮かべる。瞳には涙が雫となって溢れた。
大地は畳の上に胡座をかいて、頬杖をつく。
「……好きにしろよ」
小夜は躊躇することもなく、大きく寛大な背中に身を委ねた。今まで我慢してきた痛み、辛さが胸の奥を締め付け、大地の背中が濡れる。
それでも何も言わず、咽び泣く姿を見るわけでもなく、大地は小一時間微動だにせずにその場に留まり続けたのであった。
◾️秋宵
白秋家のしがらみから解き放たれ、真の力に目覚めた朔の炎命術。居合術に特化して、素早い剣戟と重みのある斬撃を繰り出すことが出来る。白秋流居合術と組み合わせることで力を発揮する。
◾️白秋流居合奥義 断秋
居合の一刀で15連撃の斬撃を生み出す奥義。
扱えるものは極小数とされている。
◾️白露
白秋小夜の炎命術で顕現される秋桜の綺麗な一刀。
顕現時に咲き誇る秋桜の花弁は動くモノを一刀両断する力を持つ。
もし、少しでも良いと思って頂けましたら、 画面下部の《☆☆☆☆☆》で評価、感想、レビュー等、お待ちしております。 お忙しい中、読みに来てくださってありがとうございました。




