第18話 忌み子の矜持
拙作を読みに来てくださり、誠にありがとうございます。今回は後書きに設定資料を添付しておきます!
読んで頂ましたら、より一層楽しめるかと思います!!
白秋朔。
生まれた時から、私と姉は比べられた。
「小夜様は立派な白炎眼ね、それも陰陽の力も……それに比べて朔様は、忌まわしい……」
親戚の方も、両親ですら、黒い瞳を持った私をこう呼んだーー"忌み子"と。
銀杏の葉がゆらゆらと舞い落ちる秋の夕暮れ。朔と小夜は刀を握り、修行に励んでいた。
「朔、無理に私についてこなくてもいいんだよ?」
「いいえ、私がやりたいのです……。やらせてください!」
「そう……なら、頑張ろう!」
豆やタコがいっぱいの真っ赤な手、日々の修練を一切怠らなかった証拠だが、修行は日々厳しくなっていった。
「朔ッ! この程度でへこたれるのか! この野郎ッ!」
「くっ……ぁぁぁ!」
現当主である父からの修行は、朔の成長を願ってのものではなかった。明らかなオーバーワーク、限界が来れば暴力、叱咤。激励の一つもない修練は、次第に朔の心を蝕んで行った。
「小夜様が僅か12歳にして、業火に昇格されたそうだぞ!」
「おぉ! 凄いことだ! それに比べて……」
"僅か12歳で業火階級に昇格"
"現当主の長女は天才"
ーーそれに比べて、朔様は……。
ジリジリと燃える夏の夕暮れ、赤くなった空が広大な海に化粧を施していた。砂浜に流れ着いた流木に腰を下ろし、二人は広大な景色を見据えている。
「お姉様、業火昇格おめでとうございます」
「うん、ありがとう。……朔、無理してない?」
朔の言葉が詰まった。
「いえいえ、大丈夫です! 私なんかに比べたらお姉様の方が!」
朔は、無理矢理、口元を歪める。
「朔、無理しなくていいよ。私がもっと頑張って、朔を守るから!」
「いや、無理なんか……ッ!」
自然に口角が上がり、瞳に溜まった涙が零れ落ちる。
「じでな……ッ……うぅ……」
小夜はそれ以上何も言わなかった。優しい表情で背中を摩り、朔を慰め続けていた。
ーー暗く狭い空間に僅かだが"姉"という光が差した。
「急に呼び出してすまんな。急な話だが……」
それは小夜が遠征任務に出掛けている時だった。
「朔、お前はこの家にとって生まれた時から邪魔だったんだ。せめて、この話で役に立ってくれよ」
ーー光が遠くなっていく。
「あの、お姉様はこの話を知っているのでしょうか?」
「……うるさい!お前が小夜に助けを乞えば、小夜を殺してやる。良い子にしてれば、生かしておいてやる。いいな!」
実父から発された言葉は、朔の心をへし折るにはあまりにも容易かった。
「これ以上、刃向かえばそれが早くなるだけのことだ。お前のせいで姉が死ぬ、それでいいのか?」
耳元で囁かれた"悪魔"のような言葉が朔を闇に突き落とした。
「それで?行くのか、行かないのかどっちだ?」
ーー光が見えない。
「行きます……」
ーーもう、届かない。
孔雀家に行ってからは、毎日が地獄だった。
刀を振るうことさえも許されず、良人の都合の良いように使われるだけの奴隷。
"逃げ出せば、助けを乞えば、姉を殺すぞ"と言われる日々。
ーー光はもうない。闇の中に吸い込まれていった。
私の味方はもう居ない。
どんなに辛いことがあっても耳と目を塞いで耐えればいい。光がなくても……。
ーーずっと、そうしていくはずだったのに。
「孔雀家ね、それがどうした?自分の家の名前を出せば、恐れ慄くとでも?そんなことじゃ、俺は屈服しない!」
目の前に光が現れた。姉とは違う別の光。
私はそれを拒んだ。
"助けて欲しい"って言うだけなら簡単なはずの言葉が私を縛り付ける鎖がそれを拒む。
「我慢は君を助けてくれない」
ーーそんなこと分かってる。でも……。私が動けば大好きなお姉様が……!!
頭の中で小夜の笑顔が脳裏に突き刺さり、消える。
動き出したい想いだけが走り出し、身体は思うように動かなかった。
「……大丈夫、俺がなんとかする。だから、安心して欲しい」
ーー光が強くなっていく。
「朔さんなら、やれるはずだ!」
ーーこの運命に抗うと、私は決意した。
もう手の震えも、体の硬直もない。
自分自身の運命を切り拓くために!!
朔の中で甲高い金属音が千切れる音がした。
「死ねええええ!! 朔ううう!!」
良人が大振りの腕を幾重にも枝分かれさせ、無数の拳となって朔を圧殺せんと迫る。この物量、この間合い。逃げ道など、どこにもないはずだった。
ーー刹那。
朔の周囲の空気が凍てついた。
無数の腕が、見えない一閃によって木っ端微塵に砕け散る。良人が驚愕に背後の眼球を揺らし、獲物を探して周囲を這い回るが、そこに朔の姿はない。
良人は驚き、背後を確認するように肉体を捩って、無数の眼球を彷徨わせた。
「……この程度の気配も読めない人に、今まで私は縛られていたの?」
朔は良人の背後に、音もなく立っていた。
良人が異形の眼球を朔へと向けた瞬間、朔は静かに秋哭を床へと捨て置いた。
――その瞳に、漆黒の炎が再燃する。
「炎命術……秋宵」
懐から抜き放った筆を虚空に走らせる。
一筆が描いた漆黒の軌跡から、黄金の月と霧を纏った一刀が顕現した。
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お忙しい中、読みに来てくださってありがとうございました。
次回更新は8/1 17:00を予定しております。
何卒、よろしくお願い致します。




